スナック・ホスト・キャバクラの顧客管理|指名と売掛の記録
水商売の店舗経営で顧客管理を考えるとき、他の飲食業と決定的に違う点が二つあります。顧客が店ではなくキャストに付くことと、売上が売掛で立つことです。汎用のCRMはどちらも想定していません。
顧客はキャストに付いていて、店には付いていない
一般の飲食店なら、顧客は店に来ます。水商売では、顧客は特定のキャストに会いに来ます。だから顧客の記録は「誰の客か」という情報とセットでなければ意味を持ちません。指名の履歴が無い顧客台帳は、この業態ではただの電話帳です。
そして、この構造は経営側に固有の問題を生みます。キャストが移籍すれば、顧客もついていきます。店に残るのは、そのキャストが入力してくれた分だけです。だから顧客管理の設計は「キャストが辞めた翌日に何が残るか」から逆算することになります。何も残らないなら、それは店の資産を作れていないということです。
売掛を持たない顧客管理は使えない
もう一つが売掛です。その場で全額を受け取らない取引が日常的に発生し、誰の客のどの日の分がいくら残っているかを追い続ける必要があります。回収はたいていキャストが担うので、キャスト別に見えないと機能しません。
汎用のCRMには売掛の概念がありません。会計ソフト側で処理することはできますが、今度は「誰の客か」が落ちます。指名と売掛を同じ画面で見られるかどうかが、この業態でシステムを選ぶときの分かれ目になります。ここが外れていると、結局ノートに戻ります。
キャスト個人の管理と、店の台帳を二層にする
現場では、キャストが自分のスマートフォンで顧客を管理しているのが普通です。連絡先も、来店の記録も、好みも、個人の端末の中にあります。これを禁止しても実効性がありません。
現実的なのは二層にすることです。キャスト個人の管理はそれとして認めたうえで、店側の台帳を別に持つ。店の台帳には、来店日、指名、売上、売掛の状況といった経営の判断に要る情報だけを入れます。個人的なやり取りの中身まで店が持とうとすると、キャストの協力が得られず、結局どちらも埋まりません。
誰が何を見られるかを、最初に決める
顧客の連絡先が全員に見える状態は、この業態ではとくに危険です。持ち出しが起きたときに範囲を特定できませんし、キャスト同士のトラブルの元にもなります。
閲覧の範囲を役割で分けられるか。これはシステムを選ぶときの確認項目に入れてください。店長は全体、キャストは自分の担当だけ、といった分け方ができるかどうかです。加えて、誰がいつ見たかの記録が残る仕組みなら、問題が起きたときに追えます。個人情報の扱いの原則は記事末尾の個人情報保護委員会のページで確認できます。
入力する人と、その時間帯を決める
この業態で顧客管理が続かない一番の理由は、入力する時間が無いことです。営業中は当然として、閉店後は精算と片付けがあり、そこから入力を求めても続きません。結果として、記録が残るのは最初の一週間だけになります。
だから導入のときに決めるのは、機能ではなく担当と時間帯です。誰が、いつ入れるのか。営業中に黒服が入れるのか、閉店後に店長がまとめて入れるのか、翌日の出勤時なのか。決めたうえで、その時間に無理なく終わる量まで入力項目を削ってください。全部を記録しようとして何も残らないより、来店日と指名と売掛だけが確実に残るほうが役に立ちます。
業態向けを掲げているものは、この形を前提にしている
水商売向けを掲げるシステムは、POSレジ・顧客管理・キャストの給与計算までを一体で持っている形が多くあります。以下は公式サイトで対象業態の明記を確認したものです。並び順に意味はありません。
- TRUST — キャバクラ・ガールズバー・ホストクラブ・クラブ・セクキャバ・スナック・ラウンジを対象として明記。POS レジに加えてボトル・顧客管理のアプリ、iPad からのテーブルオーダーを掲げています
- VENUS — キャスト成績の CSV 出力、日別売上月報、現金出納日報、給与集計、売掛回収、指名、ボトル在庫、時給表。項目名の並びが数字の管理側に寄っています
- ClubNavi — 「キャバクラ・ホストクラブ、スナックなどの社交飲食店」向け。入店・指名・オーダー・キャスト出退勤・キャスト給与・売掛管理に加えて、フロア管理と誘客チャネル分析を持っています
- イロハシステム — 「キャバクラ、ラウンジ、ガールズバー、ホストクラブなどの店舗様専用」。テーブル管理・勤怠・シフト・給与計算・在庫のほか、日報の LINE 報告、不正防止、外出先からの接続といった運用寄りの項目が並びます
- ポスタス — 業態専用ではなく、飲食を含む業界特化型の POS。セルフレジや決済まわりの機器が揃い、支援体制の記載が厚い一方、指名や売掛は業態専用のものほど作り込まれていません
五つ挙げたのは順位を付けるためではありません。店の形によって必要なものが違うからです。指名と売掛が売上の中心なら業態専用のものが要りますが、指名がなく会計中心のバーやスナックなら、一般の飲食向けPOSで足りることがあります。自店がどちらかを先に決めてください。
業態専用のもの同士でも、寄っている方向が違います。数字の集計と給与に厚いもの、フロアの運用や不正防止に厚いもの、外からの集客経路の分析を持つもの。自店でいま一番時間を取られているのが、月末の給与計算なのか、営業中のフロアの混乱なのか、客がどこから来たか分からないことなのか。そこを一つ決めてからデモを見ると、同じように見える画面の差が分かります。
選ぶときに注意したいのは、比較サイトの数字を根拠にしないことです。この分野は「回収率が上がる」「指名が増える」といった数値を掲げた紹介記事が多くありますが、その根拠が示されていないものがほとんどです。自店で確かめられない数字は判断の材料になりません。見るべきは、自店の売掛の持ち方と給与の計算方法が、そのシステムの形に収まるかどうかです。料金と機能は各社の公式ページで確認してください。この記事では書きません。
給与計算まで含めて考える
この業態では、売上・指名・出勤がそのままキャストの給与に直結します。顧客管理だけを切り出して別のシステムにすると、月末に手で突き合わせる作業が生まれます。人数が増えるほどここが重くなります。
だから検討の順序は、顧客管理から入るのではなく、いまの給与計算とレジの流れから入るほうが早い。すでにPOSを入れているなら、そのPOSに顧客管理と給与の機能が付いていないかを先に確認してください。付いているなら、それを使い切ってから別のものを足すか判断すればよく、その間の費用はかかりません。
現金と記録が合わない日をどう扱うか
この業態では、レジの現金と記録が合わない日が出ます。原因はさまざまで、入力の漏れ、売掛の処理忘れ、値引きの記録なし。合わないこと自体より、合わなかった事実が残らないことのほうが問題です。
差額が出た日に、金額と気づいた人と状況を残す欄を作ってください。一日ごとの差額は小さくても、月で並べると偏りが見えます。同じ曜日、同じ担当、同じ処理で起きているなら、それは運用の穴であって人の問題ではないことが多くあります。記録が無いと、この切り分けができません。
店を閉めた後・キャストが辞めた後のデータ
最後に、辞めるときと閉めるときの話をしておきます。キャストが退店するとき、その担当の顧客情報をどう扱うかを決めておいてください。引き継ぐのか、店の台帳としてだけ残すのか。決めていないと、その場の判断で持ち出されます。
店側も同じで、システムを解約したときにデータを書き出せるかを契約の前に確認してください。売掛が残っているのにデータが取り出せないと、回収そのものができなくなります。この確認は導入の日にしかできません。使い始めてからでは、条件を変えられないことがあります。
一次ソース(公式ページ)
- 個人情報保護委員会 — 個人情報保護法について
- 個人情報保護委員会 — 法令・ガイドライン等
- TRUST(水商売向けPOSレジシステム)公式サイト
- VENUS(キャバクラ・ホストクラブ等向けPOS管理システム)公式サイト
- ClubNavi(社交飲食店向けPOSシステム)公式サイト
- イロハシステム(ナイトビジネス向けPOS管理システム)公式サイト
- ポスタス(業界特化型POS。飲食・小売・美容・クリニック向け)公式サイト
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
キャストが個人のスマートフォンで客を管理しているのですが、問題ですか
実態としてはよくある形ですが、店の資産としては残りません。キャストが移籍すれば顧客ごと移ります。店側の台帳を別に持ったうえで、キャスト個人の管理はそれとして認める、という二層にしておくのが現実的です。
売掛はどこまでシステムで持つべきですか
誰の客で、いつ発生し、いつ回収したかまでは持ってください。回収の督促を誰がやるかも決めておく必要があります。記録が無いまま口頭で回していると、退店時に精算できません。
顧客の情報をキャスト全員が見られる状態でよいですか
よくありません。担当以外の顧客情報まで全員が見られると、持ち出しが起きたときに範囲が特定できません。閲覧できる範囲を役割で分けられるかは、システムを選ぶときの確認項目です。