飲食店の勤怠管理|店舗で詰まりやすい点と選び方
スタッフが数名の店で勤怠管理システムを入れる目的は、作業時間の短縮ではありません。もともと集計は長くて数十分です。効いてくるのは、深夜帯の割増や休憩の扱いを後から説明できるか、そして人が一人増えたときに同じやり方を続けられるか。ここを外して機能の多い製品を選ぶと、月末に自分だけが触る重い道具が残ります。
タイムカードとノートで回らなくなるのはどこか
締めた後にタイムカードの束を出して、深夜帯にかかった時間に蛍光ペンを引き、電卓を叩く。人数が少ないうちは、この作業は本当に短時間で終わります。だから「面倒だから替える」という理由はまず出てきません。手間だけを動機にすると、たいてい導入は先送りになります。
崩れるのは別の場面です。辞めたアルバイトから未払い分の問い合わせが来たとき、手元にあるのが自分で転記した出勤簿だけだと、本人が押した記録がないことになります。転記した数字は、書いた側の都合でいくらでも動かせる形式なので、争いになったときに弱い。行政の調査が入ったときも同じで、実際に働いた時刻を客観的に残していたかを見られます。
もう一つは、自分が店に出られない日です。体調を崩して二日空けた月に、誰が何時に上がったのか分からなくなる。少人数の店ほど、記録が店主の記憶に依存しています。
誰の時間を記録する必要があるのか
店主自身は労働者ではないので、法律上の記録義務の対象ではありません。それでも自分の入店・退店を打刻しておくと、人を増やすかどうかの判断材料になります。自分が週に何時間キッチンに立っているかが数字で出ないと、採用は「なんとなくきつい」で決めることになる。
同居の親族は、原則として労働者として扱わない整理になっています。ただし他のアルバイトと同じようにシフトに入り、指揮命令を受け、賃金の決め方も同じなら、実態として労働者と見られることがあります。判断は形式ではなく実態です。迷う立場の人がいるなら、記録は取っておいたほうが安全です。記録があって困る場面はありませんが、無くて困る場面はあります。
掛け持ちのアルバイトも注意が要ります。他店の労働時間と通算して考える場面があるため、自店の分だけは正確に押させておく。相手方の時間まで管理はできませんが、自店の記録が曖昧だと、どちらの責任か切り分けられなくなります。
深夜と休憩 — 小さい店ほど崩れる二つ
飲食で最初に問題になるのが深夜帯です。ラストまで残る人がいる店なら、システム側で深夜にかかった時間が自動で分かれて出るかどうかを最初に確認してください。手集計だと、閉店後のレジ締めや掃除を打刻の後にやらせている店が多く、そこが丸ごと抜けます。日付をまたぐシフトを一日の勤務として扱えるかも、製品によって設定の仕方が違います。
休憩はもっと崩れます。忙しい日に実際は休めていないのに、集計上は一律で控除されている。これが常態化していると、後から本人が「あの日は食べる時間もなかった」と言い出したときに反論できません。分断して十分ずつ取るような取り方をしている店なら、休憩も打刻させるのか、店主が実態を見て後で直すのか、運用をどちらかに決めておく。両方が混ざると記録の信頼性がなくなります。
なお、規模と業種によっては週の法定労働時間の扱いに特例が置かれています。自分の店が該当するかどうかで残業になる境目が変わるので、記事末尾の公式ページで確認してください。
打刻はどこで押させるか
スタッフ全員が同じ店舗に出勤するなら、レジ横にタブレットを一台置いて、名前を選んで押させる形で足ります。ICカードを人数分そろえる必要はありません。決めておくのは押す位置ではなく順番です。着替えの前か後か、仕込みを始める前か。ここを決めずに始めると、人によって毎日十分前後ずれた記録が積み上がります。
スマホ打刻は、店外の買い出しや複数店舗の行き来がある場合に効きます。ただし私物の端末に入れさせることになるので、嫌がる人が出ます。位置情報を取る設定にすると「監視されている」と受け取られることもあるため、何のために取るのかを先に説明しておく。自宅から押されるのを防ぐ目的だと言えば、たいていは通ります。
集計から給与までをどうつなぐか
この規模なら、給与計算はまだ手でも回ります。だから給与ソフトとの自動連携を必須条件にすると、選択肢が要らないところで狭まります。集計結果をCSVで出せて、その項目を自分で並べ替えられれば十分なことが多い。連携は後から足せます。
渡す前に見ておくのは次の四点です。
- 深夜にかかった時間が通常時間と分かれて出るか
- 休憩の控除が実績ベースか、シフトからの自動控除か
- 締め日を月末以外に設定できるか
- 一分単位か、丸めるならどの単位で丸めるか
丸め方は特に確認してください。従来のタイムカード運用の癖で切り捨てていると、そのまま設定を移した瞬間に法令上まずい形が固定されます。それと、クラウドは解約するとデータを見られなくなる製品があります。賃金台帳や出勤簿は法定の保存期間があるので、乗り換えや廃業の前に必ず手元へ出力しておく。
料金と契約で効いてくるところ
人数課金の製品は、数名の店だと当然安く収まります。ただし最低利用人数や最低利用料が別に設定されていることがあり、実人数より多い分を払う形になる場合があります。無料で使える枠を設けている製品もありますが、人数の上限や機能の制限が付きます。金額と条件は変わるので、記事末尾の公式ページで最新のものを見てください。
飲食で見落としやすいのが、人数が月ごとに動くことです。年末や連休に短期のアルバイトを入れると、その月だけ人数が増える。課金が月ごとの実人数で動くのか、契約時の枠で固定なのかで、繁忙期の負担が変わります。二店舗目を出す予定があるなら、店舗を追加したときに契約が分かれるのか同じ契約に足せるのかも聞いておく。
入れた最初の一か月をどう回すか
最初の一周は、旧来のタイムカードや手書きの出勤簿と並行させてください。切り替えた月にいきなり片方をやめると、打刻漏れが出たときに補える材料が何もなくなります。並行させて、集計結果が手計算と合うかを一度だけ突き合わせる。ここで合わなければ、丸めか休憩の設定がずれています。
打刻漏れの直し方も先に決めます。少人数だと承認者は店主一人なので、誰が申請して誰が直したかのログが残る形にしておかないと、後から見て店主が勝手に書き換えたのと区別がつきません。修正は本人に申告させ、店主が承認する。この順番だけ守れば足ります。
シフト機能や人件費のグラフは、一周回してから触ればいい。最初から全部使おうとすると、打刻の定着より先に運用が止まります。
シフト表どおりに打刻を直してしまうのは、何がまずいのか
小さい店で一番よく見るのが、実際の打刻を後からシフト表の予定時刻に揃えてしまう運用です。集計はきれいになりますが、これをやると「実際に働いた時間の記録」が店内のどこにも残らなくなります。後で従業員から労働時間の申し立てがあったとき、店側が出せるのは直した後の数字だけで、直す前がないので反論の材料になりません。押した時刻はそのまま残し、直した分は別に記録する、という順番を崩さないことが肝心です。
閉店作業が長引いて打刻を忘れた、レジ締めの後に押した、といったズレは飲食店では必ず起きます。だから修正そのものを禁止しても運用が回りません。決めるべきは、誰が修正を申請して誰が承認するか、修正の理由をどこに書くか、この二つです。店長が自分の判断だけで自分と部下の時刻を書き換えられる状態にしておくと、後から「店長が勝手に削った」という話に発展したときに、店として説明ができません。
勤怠システムを選ぶときは、修正の履歴が残るか、誰が承認したかが後から追えるかを必ず確認してください。修正履歴が上書きされて消える仕組みだと、紙のタイムカードを鉛筆で書き換えているのと実質同じです。導入時に営業日を何日か動かして、わざと打刻漏れを作り、修正から承認までの流れを店長に一度やらせておくと、開店後に「どうやるんでしたっけ」で止まりません。
タイムカードや打刻データは、いつまで何のために残すのか
打刻の記録は給与計算が終われば用済み、と考えて紙のタイムカードを店の裏で束ねたまま湿気で読めなくしている店がありますが、これは危ない扱いです。労働時間の記録は賃金台帳と並んで一定期間の保存が求められる書類で、保存すべき期間は法令で定められています。何年分かは制度改正で変わってきた部分なので、厚生労働省の公式ページで現行の期間を確認してください。
残す理由は二つあります。一つは監督署の調査で、賃金台帳と打刻記録を突き合わせて、記録された労働時間どおりに賃金が払われているかを見られます。もう一つは退職者からの未払い賃金の請求で、このときに店側に記録がないと、従業員側が出してきたメモや手帳の内容がそのまま前提になりがちです。記録は従業員を管理するためというより、店が説明できる状態を保つために残します。
紙からシステムに切り替えるときは、切り替え前の紙のタイムカードを捨てないでください。新しいシステムには過去のデータが入っていないので、切り替え時期をまたぐ請求や調査があると、その期間の記録が空白になります。紙は月ごとにまとめて店外の乾いた場所に保管し、システム側のデータも、契約を解約したら閲覧できなくなるのが普通なので、解約前に自店で出力して持ち出せる形式を確認しておくことです。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
家族だけで営業している店でも勤怠管理システムは要りますか
同居の親族だけで回している間は、労働時間の記録義務そのものが問題になりにくい規模です。ただ、繁忙期に短期のアルバイトを一人入れた時点で話が変わります。あとから慌てて入れると、その人の分だけ記録の形式が違う月ができるので、雇う予定が見えた段階で先に器だけ作っておくほうが手間は少ないです。
アルバイトがスマホ打刻を嫌がる場合はどうしますか
私物のスマホに業務用アプリを入れさせることを強制はできない、と考えて設計しておくほうが揉めません。共有タブレットとスマホ打刻を併用できる製品なら、本人に選ばせれば済みます。通信料や端末の扱いを店側がどこまで負担するかは、入れる前に口頭でなく紙かチャットで残しておくと後で言った言わないになりません。
シフト表は手書きのまま、打刻だけシステムにできますか
できます。打刻と集計だけ使い、シフトは紙やスプレッドシートのままという運用は珍しくありません。ただしシフトを取り込まないと「予定より何時間多く出たか」が自動では出ないので、人件費を日次で見たいならどこかの段階でシフトも同じ場所に入れることになります。