ECの勤怠管理システム、倉庫と在宅で要件が割れる
ECの勤怠がややこしいのは、同じ会社の中で働き方が三つに割れているからです。倉庫で梱包している人、事務所で受注とカスタマーサポートを回している人、在宅で商品ページや広告をつくっている人。この三者を一つの打刻方法でまとめようとすると、必ずどこかが破綻します。勤怠システムを比べるときは、機能一覧ではなく「うちの三種類の働き方が同じ画面に載るか」から見ていきます。
ECの勤怠が他業種と違うのはどこか
店舗商売なら、人はだいたい同じ場所に同じ時間帯にいます。ECはそうなりません。出荷が朝早い、問い合わせ対応が夕方まで、撮影や更新作業が夜になる。しかも人が働く場所が分かれているので、社長が全員の出退勤を目で見て把握することがそもそも不可能です。紙のタイムカードで回している会社が倉庫を借りた途端に管理が崩れるのは、この「目が届かない」が一気に増えるからです。
もう一つはセールです。モールの大型セールや自社の周年企画に合わせて、その週だけ出荷量が跳ね上がる。人を足す、シフトを組み替える、事務所のスタッフを倉庫に応援に出す。この動きが月に一度か二度ある会社では、月末に集計しようとした時点で「誰がどこで何時間働いたか」が分からなくなります。集計が終わらないから給与計算が遅れ、遅れるから社長が深夜に電卓を叩く、という流れになりがちです。
記録が甘いままだと、辞めた人から未払い残業を請求されたときに反論できません。労働時間は使用者が客観的な方法で把握すべきものとされていて、そのやり方の目安は記事末尾の厚生労働省のガイドラインに出ています。手元に残っているのが本人の申告メモだけ、という状態は避けたいところです。
打刻手段を場所ごとに分けられるか
倉庫は共有端末が現実的です。作業者は手袋をしていることがあるし、私物のスマホを作業エリアに持ち込ませたくない会社も多い。タブレットを一台入口に置いてICカードやコードをかざす、という形が一番トラブルが少ないです。逆に、スマホアプリ専用のシステムを選んでしまうと、初日から「スマホを持っていないパートさん」で詰まります。
事務所はPCのログインと連動させるか、同じくブラウザ打刻で足ります。在宅のスタッフはスマホかPC。ここで大事なのは、これらを別々のシステムで運用しないことです。倉庫だけタイムカード、在宅はチャットで報告、という混在をやると、月末に三種類の記録を突き合わせる作業が残ります。それが一番時間を食う。
選定時に確認するのは、一つの契約の中で打刻方法を人ごと・拠点ごとに割り当てられるか、そして共有端末の打刻でも本人が特定できるかの二点です。共有端末で誰でも押せる状態にすると、代理打刻が起きたときに止められません。
セールで人が増える月をさばけるか
短期の増員を前提にするなら、契約人数の増減がどう扱われるかを先に聞いておきます。多くのサービスは登録人数や打刻した人数で料金が変わる仕組みですが、月の途中で入って途中で抜けた人をどう数えるかは各社で違います。ここを確認せずに繁忙期を迎えると、想定していなかった請求が来ます。最新の料金体系は各社の公式ページで確認してください。
運用面では、応援に出た人の扱いが問題になります。事務所のスタッフが二日だけ倉庫に入ったとき、その時間を倉庫の人件費として集計したいのか、本人の所属部署のままでいいのか。原価を部門別に見ている会社なら、打刻時に業務や拠点を選べる機能が要ります。見ていないなら不要です。ここは会社によって変わるので、いま何を見ているかで決めてください。
シフト機能については、組んだシフトと実績のズレが一覧で出るかを見ます。セール週は「予定より一時間長く残った」が全員に起きるので、ズレが見える形になっていないと、承認作業が形だけになります。
深夜・休憩・残業の記録が抜けると何が起きるか
出荷ピークの日は休憩がずれます。決まった時刻に一斉に休めないので、抜けられる人から順に抜ける。この状態でシステム側が「所定の時刻に休憩を自動控除」する設定になっていると、実際には働いていた時間が消えます。消えた時間は割増賃金の計算からも落ちるので、後で指摘されたときに払い直しになります。休憩は自動控除ではなく打刻で取れるか、少なくとも実績を後から直せるかを確認してください。
深夜帯にかかる作業がある会社は、日をまたぐ勤務の集計方法も見ます。日付が変わった瞬間に別の日の勤務として切られると、一回の勤務が二日に分かれて残業の計算が合わなくなる。夜間出荷を回している会社ではここが致命傷になります。
それから、時間外労働が上限に近づいた人を早めに知らせてくれるかどうか。月末に集計して初めて気づいても手の打ちようがありません。労働時間の上限や割増の考え方は労働基準法の条文と厚生労働省の解説にあたるのが確実で、リンクは記事末尾にあります。
集計したあと、給与へどう渡すか
勤怠システムを入れる目的は打刻ではなく、給与計算を早く終わらせることです。だから見るべきは、締めたあとのデータがどの形で出るか。自社で給与ソフトを使っているなら連携できるか、社労士や税理士に渡しているならその人が読める形式で出せるか。ここを確認せずに導入して、結局CSVを手で加工している会社は珍しくありません。
ECでよくあるのが、出荷件数に応じた手当や、倉庫勤務日だけつく手当です。これを勤怠側で計算させるのか、給与側で持つのか、最初に決めておかないと二重管理になります。件数は勤怠システムでは拾えないことが多いので、勤怠は時間だけ、手当は給与側、と割り切るほうが運用は続きます。
締め日を変えたいなら導入と同時にやってください。稼働してから締め日を動かすと、移行月だけ変則的な集計が必要になり、その月の給与でトラブルが起きます。
費用はどこで膨らむか
本体の利用料そのものより、周辺で増えることが多いです。倉庫に置く端末、ICカードの発行、拠点を増やしたときの追加、使うつもりのなかったオプション。導入前の見積もりに端末代が入っていないケースがあるので、倉庫に一台置く前提の総額で比べてください。
もう一つ効くのが、退職者アカウントの整理です。短期の人を大量に登録する会社では、抜けた人を消さずに放置すると人数課金がじわじわ増えます。月初に前月退職者を落とす、と決めて誰かの担当にしておくだけで違います。料金の詳細と最新のプランは各社の公式ページで確認してください。
導入は何から着手するか
いきなり全社に入れないでください。まず倉庫だけ、あるいは人数の多い部署だけで一か月動かして、休憩と残業の実績が想定どおり集計できるかを見ます。ここで設定の穴が出ます。全社同時に始めると、穴が出たときに全員分の修正が必要になって手が回りません。
並行して、就業規則や雇用契約書に書いてある所定労働時間・休憩時間と、実際の運用が合っているかを見直します。システムは書いてあるルールを再現する道具なので、そもそものルールが実態とずれていると、設定した瞬間に毎日エラーが出続けることになります。ここを飛ばして導入すると、結局「例外だらけで手修正」に戻ります。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
倉庫業務を物流会社に委託している場合、その人たちの勤怠も自社で管理するのですか
委託先が自社の従業員として雇っている人の労働時間は、原則として委託先が管理します。ただし自社のスタッフが同じ倉庫に常駐していれば、その人の記録は自社で取る必要があります。判断が微妙なのは、自社の担当者が現場で作業指示を出しているケースです。契約が業務委託でも実態が指揮命令に近ければ扱いが変わるので、契約書と現場の実態が食い違っていないか一度確認しておいてください。
繁忙期だけの短期アルバイトも、初日から打刻させるべきですか
初日から打刻させてください。数日だけだから紙に書かせて後でまとめて入力する、という運用にすると、記録が本人の記憶頼みになり、後から時間を争われたときに何も残りません。短期の人ほどID発行が手間なので、共有端末で暗証番号や貸出カードを使う方式にしておくと、初日の朝に登録して当日から打てます。
在宅のスタッフに位置情報の取得を必須にしたほうがいいですか
在宅勤務では位置情報より、中抜けと再開が記録できるかのほうが実務に効きます。自宅の座標を毎日取られることに抵抗を示す人は多く、離職の理由になることもあります。どうしても確認したいなら、位置情報ではなく業務開始・終了の連絡と勤怠記録の突き合わせで足ります。