美容室の顧客管理とサロンCRM|顧客戦略の土台
美容室の顧客管理が他の商売と違うのは、顧客が店ではなくスタイリストに付いていることです。指名で回っている店ほどこの傾向は強く、スタッフが辞めれば顧客も一緒に動きます。だから顧客管理の設計で最初に決めるのは、どのシステムを買うかではありません。顧客の記録を、誰の手元に残すのかです。
顧客がどこに保存されているかを、まず数える
いまの店で、顧客の連絡先と来店履歴がどこにあるかを書き出してみてください。だいたい三つか四つに散らばっています。予約媒体の管理画面、レジや会計ソフト、紙のカルテ、そしてスタイリスト個人のスマホと手帳。この散らばり方そのものが、店のリスクの形になっています。
スタイリスト個人の中にしか無い情報は、退職と同時に消えます。前回どんな薬剤を使ったか、どのくらいの長さを希望していたか、話していい話題とそうでない話題。引き継ぎを頼んでも、頭の中にあるものは書き出されません。逆に、それが店の台帳に入っていれば、担当が代わっても同じ会話から始められる。
予約媒体の中にしか無い情報も、性質は同じです。媒体は集客の入口として強力ですが、そこに履歴が閉じている限り、掲載をやめた瞬間に顧客との接点が切れます。媒体経由で来た顧客ほど、自店の台帳にも記録を落としておく必要があります。
カルテは「担当以外が読めるか」で決まる
紙のカルテが悪いわけではありません。問題は、書いた本人にしか読めない形になっていることです。略号、走り書き、その人だけの書き方。担当が休んだ日に別のスタッフが入ると、そこで手が止まります。
電子化する利点は、検索できることと、写真が残せることです。仕上がりの写真が履歴として並んでいれば、言葉で伝わらない要望が一目で分かる。この点は、美容サロン向けを掲げるシステムがどれも力を入れているところで、写真や手書きメモを施術情報として記録できることを機能として掲げているものもあります。
入れる項目は絞ってください。全部を埋めさせようとすると、忙しい日から入力が飛びます。最低限、施術内容、使った薬剤、仕上がりの写真、次回の提案。この四つが埋まっていれば、担当が代わっても回ります。項目を増やすのは、この四つが定着してからです。
再来周期を見ると、案内を出す日が決まる
美容室は、来店の間隔がおおよそ読める商売です。カラーやパーマは持ちの期間があり、カットも顧客ごとの周期がある。だから「そろそろの人」に案内を出せば、内容が薄くても反応が返ります。逆に、周期を無視して全員に同じ日に一斉配信すると、来る予定の人には邪魔で、離れた人には届きません。
ここで効いてくるのが、来店履歴が店の台帳に揃っているかどうかです。周期は履歴からしか出せません。媒体とレジと紙に散らばっていると、誰がいつ来たのかを一覧にできないので、案内は勘で出すことになります。
もう一つ見ておきたいのが、来なくなった顧客です。周期を過ぎても来ていない人が誰かは、履歴が揃っていれば自動的に浮かびます。全員に追いかける必要はありませんが、指名が付いていた顧客が来なくなっているなら、担当と共有する価値があります。
面貸し・業務委託があるなら、契約で決めておく
面貸しや業務委託でスタイリストが入っている店では、顧客が誰の顧客なのかが曖昧になりがちです。集客を店がしているのか本人がしているのか、予約は店で受けるのか本人が受けるのか、売上をどう分けるのか。ここが決まっていないまま台帳だけ作っても、辞めるときに必ず揉めます。
決めておくべきは、顧客情報を誰が保有するか、退店時に持ち出せるのか、店から連絡してよいのか、の三つです。文書にしていない口約束は、辞める場面では効きません。あわせて、業務委託の形が実態として雇用に近くなっていないかも見直しておいてください。判断が難しい部分なので、社会保険労務士に相談する筋道を持っておくと安心です。
集める前に、使い道を決める
顧客情報を扱う以上、何のために取得し、何に使うのかを本人に分かる形にしておく必要があります。来店の受付で書いてもらう項目、掲示や同意の取り方、DMやメッセージ配信の扱い。始めてから整えるのではなく、始める前に決めてください。要件は個人情報保護委員会の案内と法令・ガイドラインで確認できます。
実務としては、店で使う項目だけを取るのが安全です。使わない項目を集めても、守る対象が増えるだけで得るものがありません。アレルギーや既往に関することを書いてもらう場合は、扱いをより慎重にしてください。
スタッフが自分のスマホで顧客と直接やり取りしている状態も、ここで整理しておくべきものです。店として把握できず、辞めたあとも関係が続きます。連絡は店のアカウントに寄せる、というだけでかなり変わります。
美容サロン向けを掲げているものは、何を持っているか
以下は、公式サイトで対象業種と機能名を確認したものです。並び順に意味はありません。料金や契約条件は各社の公式ページで確認してください。
- Bionly — 美容室のほかネイル・まつげ・エステ・リラクゼーション・整体・パーソナルジムなど幅広い業種を対象として明記。顧客管理と電子カルテ、予約、レジ・会計、売上集計・分析に加えて、LINE ミニアプリとサロン顧客向けの専用アプリを掲げています
- BEAUTY POS — ヘアサロンからネイル・アイラッシュ・エステ・パーソナルジム・美容クリニックまでを対象。電子カルテで写真や手書きメモを記録できること、顧客情報と LINE 公式アカウントの友だちを連携できること、契約日・有効期限・残り回数を扱う役務・回数管理を機能として挙げています
- サロンアンサー — 美容サロン専用。複数店舗間の予約・顧客・売上・分析を集中管理する多店舗運用と、Web 予約の一元管理、モバイル版でのカルテ機能が中心に据えられています
- Salon de Net — 美容室・美容院向け。予約・会計・顧客管理・在庫・分析をワンストップで扱う構成で、キャッシュレス対応のセルフレジと、LINE ミニアプリからの予約を掲げています
- ポスタス — 業態専用ではなく、飲食・小売・美容・クリニックを対象にした業界特化型の POS。決済まわりの機器や支援体制の記載が厚い一方、カルテや役務管理の作り込みはサロン専用のものとは前提が違います
- クレアンスメアード — 接客業向けの顧客カルテ。美容専用ではなく、接客の記録を残すことに軸がある製品です
六つ挙げたのは順位を付けるためではありません。店の形で必要なものが違うからです。一店舗で指名中心なら、カルテの書きやすさと再来の案内が効きます。複数店舗を持っているなら、店をまたいだ集中管理が先に要る。役務や回数券を売っているなら、その管理を持っているものでないと結局手作業が残ります。
なお、予約媒体は集客の入口であってカルテではありません。ホットペッパービューティーのような媒体から来た顧客も、自店の台帳に履歴が落ちる形にしておかないと、掲載をやめた時点で接点が切れます。媒体と店の台帳は、どちらかではなく両方です。
選ぶ前に確かめる三つ
そして、どれを選ぶにしても契約前に必ず聞いてほしいのが、解約したときに顧客データを出せるかです。CSV などで手元に落とせるのか、形式は何か、費用はかかるのか。ここを聞かずに入れると、乗り換えたくなったときに顧客ごと人質になります。導入時にいちばん聞きにくく、いちばん効く質問です。
紙から移すときの順番
移行が止まる原因はほぼ一つで、全部入れようとすることです。稼働している顧客だけ入っていれば、明日からの営業は回ります。範囲を決めて、決めた分が終わったら次を決める。これが結局いちばん早い。
入力する人と時間帯を決めるのも同じ理由です。「手が空いたときに」では誰もやりません。開店前の決まった時間に決まった人が入れる、という形にしてしまうほうが、結果的に負担が軽くなります。
予約サイト経由で来た新規は、店の顧客データに入っているのか
ポータル経由の予約は、そのポータルの管理画面に名前と連絡先が残ります。店側の台帳に写していなければ、店が持っているのは「その日来た人がいた」という事実だけです。掲載をやめた月に手元に何も残らないのは、あれが自社の名簿ではなく、媒体の会員を店に流し込む場所だからです。入口として使うのは構いませんが、入口を台帳の代わりにすると、次の案内を出す先が消えます。
初回のうちに自店の台帳へ登録し、二回目からは自店の予約窓口に移す導線を作ってください。指名の再来まで媒体経由で受け続けると、来店履歴が媒体側と店側に割れます。そうなると同じ人が二人分に見え、前回いつ来たのかも、どの担当が触ったのかも読めなくなります。再来周期を数えようとした時点で、この分裂が最初の壁になります。
転記は「誰がいつやるか」を決めた分しか続きません。手が空いた人がやる建て付けにすると、混んだ日から必ず抜けて、抜けた日の新規だけが台帳に存在しないという穴になります。受付の締め作業に組み込んで、その日の新規が台帳に入ったかを目で確認する。ここまでやらないと、媒体を離れた瞬間に顧客がゼロになる店のままです。
入力が続かないのは、担当者の意識の問題なのか
入力が止まる店は、たいてい書く時間が業務の中に置かれていません。施術が終わって次の方がもう座っている組み方だと、記録は「後で」になり、後になれば細部は思い出せません。意識の話ではなく、シフトと予約の入れ方の話です。空欄が増えるのは、埋める時間を誰も予約表の上で確保していないからです。
項目を減らすのも同じ理由です。全部書かせようとすると、忙しい日に形式だけ埋まって中身が入らなくなります。次回の判断が変わるもの、つまり薬剤の反応や仕上がりの好みのように、それを知らないと施術の手が止まる情報に絞る。減らした分だけ、書く行為が数十秒で終わる作業になり、続くようになります。
それでも溜まらないなら、締めの時間に空欄を見る係を置いてください。個人の落ち度として指摘すると、指摘された人は書かなくなるか、当たり障りのない一行で埋めます。店の運用として空欄を拾う形にすれば、抜けた理由も出てきます。放置すると、担当が休んだ日に前回の内容が分からず、お客様に同じことを聞き直すことになります。
一次ソース(公式ページ)
- 個人情報保護委員会 — 個人情報保護法について
- 個人情報保護委員会 — 法令・ガイドライン等
- Bionly(美容室・サロン向け顧客管理・電子カルテ)公式サイト
- BEAUTY POS(美容サロン向け予約・顧客管理・電子カルテ)公式サイト
- サロンアンサー(美容サロン向け管理システム)公式サイト
- Salon de Net(美容室向けPOS・電子カルテ)公式サイト
- ポスタス(業界特化型POS。飲食・小売・美容・クリニック向け)公式サイト
- クレアンスメアード 顧客カルテ(接客業向け顧客管理)
- ホットペッパービューティー(サロン検索・予約)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
スタイリストが辞めるとき、顧客名簿を持ち出されないようにできますか
技術的に完全に防ぐことはできませんが、店の台帳が整っていれば実害はかなり減ります。顧客の連絡先と来店履歴が店のシステムに揃っていれば、担当が代わっても案内は出せるからです。逆に、履歴がスタイリスト個人の手帳とスマホの中にしか無い状態だと、辞めた時点で店には何も残りません。あわせて、雇用契約や業務委託契約で顧客情報の取り扱いを文書にしておいてください。契約と台帳の両方が要ります。
予約媒体から来た顧客は、店の顧客として登録していいですか
店で施術した以上、店にも顧客として記録が残ること自体は自然です。ただし、取得した情報を何に使うかは、あらかじめ本人に分かる形にしておく必要があります。媒体の規約で連絡先の扱いが定められていることもあるので、DMやLINEでの案内を始める前に、媒体側の規約と自店の掲示・同意の取り方の両方を確認してください。ここは個人情報保護委員会の案内が判断の土台になります。
紙のカルテからシステムに移すとき、全部入力し直す必要がありますか
全部を一度に入れる必要はありません。実務では、次に来る予定のある顧客から順に入れるのが最も無駄がない。再来周期の短い顧客から入れていけば、稼働している顧客のデータが先に揃います。何年も来ていない顧客まで遡って入力すると、そこで力尽きて移行そのものが止まります。入れる範囲を決めてから始めてください。