CRM 自動車整備・販売の顧客管理を車両単位で設計する
自動車の整備工場や販売店で顧客管理を考えるとき、他の業種と決定的に違う点があります。管理の単位が人ではなく車であることです。ここを取り違えたまま汎用のCRMを入れると、最初の月から噛み合いません。
主キーは顧客名ではなく、車台と車検満了日
一般的なCRMは、顧客がいて、その下に取引の履歴がぶら下がる形をしています。自動車業では順序が違います。車があり、その車に整備の履歴が積まれ、いま誰が乗っているかは変わり得る。同じ人が二台持っていることもあれば、一台を家族で使っていることもあります。
そして次の接点を決めるのは、顧客の属性ではなく車検の満了日です。この日付から逆算して案内を出す。これが売上の柱になるので、満了日で抽出できない仕組みは、それだけで使えません。汎用のCRMで作るなら、車の情報を持つ項目を自分で定義して、日付から抽出する仕組みを組むことになります。
接点が「周期」で決まっている
飲食や小売のように、いつ来るか分からない客を追いかける商売ではありません。車検、法定点検、オイル交換、タイヤの季節交換。いつ声をかけるべきかは、車の側の事情でほぼ決まっています。
だから顧客管理の役割もはっきりしています。忘れずに、適切な時期に、正しい相手へ案内を出すこと。逆に言えば、この一点さえ外さなければ、多機能である必要はありません。導入を検討するときは機能の数ではなく、案内を出す作業が何分で終わるようになるかを見てください。
販売と整備で、見たい情報が違う
同じ会社の中でも、車を売る側と整備する側で必要な情報が分かれます。販売は次の乗り換えの時期や車検の残り、整備は前回の作業内容と部品の交換時期を見ます。ここが別の台帳になっていると、車検で入庫した客に乗り換えの話ができません。
両方をやっている会社なら、販売と整備が同じ車の記録を見られるかを確認してください。中古車の販売だけ、整備だけ、という会社なら片方で足ります。自社がどちらの形かで、必要なものが変わります。
汎用CRMでもできるが、車の項目を自分で作ることになる
公平に書きます。汎用のCRMでも、項目を追加すれば車の情報は持てます。車台番号、初度登録、車検満了日、走行距離。これらをカスタム項目として定義し、満了日で抽出する条件を作れば、案内は出せます。
ただし、その定義と保守は自社の仕事になります。整備の履歴をどう持つか、部品の交換をどう記録するか、所有者の変更をどう扱うか。業界向けの製品はここを最初から持っているので、その分だけ立ち上がりが速い。逆に、自社の業務が一般的な形から外れているなら、汎用に自分で作るほうが素直なこともあります。どちらが優れているかではなく、作る手間を誰が持つかの選択です。
業界向けを掲げているものは、何を持っているか
自動車業界向けの業務システムは、顧客管理だけでなく整備・部品・車両販売までを含む形で作られていることが多くあります。以下は公式サイトで対象業種の明記を確認したものです。並び順に意味はありません。
- ブロードリーフ — 「自動車整備・鈑金・車両販売・サービスステーション向け」と明記。整備・部品・鈑金など製品群が業種ごとに分かれています
- JOCAR — 買取から車販、整備、ネット販売までを一つで扱う形。車販と整備の両方をやっている会社向けの構成です
- GATCH — 「自動車整備・鈑金・販売業務の管理」。電子車検証への対応や継続検査申請書の印刷など、整備の事務に寄っています
- Ribbon — 「自動車ディーラー向けCRM・業務管理SaaS」。車検満了日の自動追跡と呼び込み、ピット予約と作業明細、見積とローン計算、LINE公式アカウント連携(車検リマインダー・ステップ配信)、商談音声の文字起こしと要約、ノーコードのBIまでを一つに載せています。インポーター・代理店・販売店の多層構造にも対応
- クレアンスメアード 顧客カルテ — 対象業種に自動車ディーラーを含む顧客管理。接客の履歴を残す用途に寄った作りです
五つ並べたのは、どれが良いかを決めるためではありません。出自と守備範囲が違うことを見てほしいからです。整備の基幹業務から育ったものは、伝票・部品・鈑金の作り込みが深い。営業の現場から育ったものは、呼び込みや配信、商談の記録といった「顧客に触る回数」を増やす側が厚い。接客記録に特化したものは、その一点だけを軽く足せる。自社でいま溢れているのが伝票なのか、顧客への接触なのかで、見るべきものが変わります。
守備範囲の広さは、そのまま長所とは限りません。広いものは動かす対象も増えるので、設定と運用の設計に手間がかかります。逆に狭いものは、いまの基幹システムを残したまま足せます。既存の整備システムを入れ替えるのか、残したまま横に足すのか。ここを先に決めてから見比べてください。
この種のシステムを見るときは、顧客管理の部分だけを切り出して比べないでください。整備の伝票や見積、部品の発注と一体になっているのが業界の形で、そこを分けると二重入力が発生します。いま使っている整備システムがあるなら、まずそれに顧客管理の機能が付いていないかを確認するのが先です。料金と機能の詳細は各社の公式ページで確認してください。この記事では書きません。改定されるうえ、プランの切り方も各社で違うからです。
公表されている対応領域を、同じ軸で並べる
製品ごとに説明の書き方が違うので、そのままでは比べられません。同じ軸に並べ直したのが下の表です。入っているのは各社の公式サイトに書かれていることだけで、順位付けはしていません。
| 軸 | Ribbon | ブロードリーフ | JOCAR | GATCH | クレアンスメアード |
|---|---|---|---|---|---|
| 掲げている対象 | 自動車ディーラー向けCRM・業務管理 | 自動車整備・鈑金・車両販売向けの業務システム群 | 買取・車販・整備・ネット販売 | 自動車整備・鈑金・販売業務 | 接客業向けの顧客カルテ。対象業種に自動車ディーラーを含む |
| 顧客・車両の管理 | 顧客・車両・商談・整備履歴をCSVで取込 | 公開ページでは確認できず | 顧客管理/車両管理 | 顧客・車両管理/車両在庫管理 | 顧客検索/会員情報参照/購買履歴参照 |
| 車検・点検の案内 | 車検のLINEリマインダー/呼び込みの自動作成ルール | 公開ページでは確認できず | 公開ページでは確認できず | 車両点検案内(車検満了日の前や法定点検・消耗品の交換時期に自動配信) | 公開ページでは確認できず |
| 入庫・ピットの予約 | 車検・点検の入庫予約をカレンダーで一元管理 | 公開ページでは確認できず | 公開ページでは確認できず | 入庫(受付)予約 | 公開ページでは確認できず |
| 見積・請求 | タブレットでその場で見積作成・PDF送付 | Priceprint.c(見積・請求に関わる製品として掲載) | 公開ページでは確認できず | 整備見積・請求書/販売見積・注文書/請求・売掛管理 | 公開ページでは確認できず |
| 販売・商談 | 商談録音とAI要約/活動記録から営業日報を生成 | 公開ページでは確認できず | 営業強化/MYPAGEサービス | 販売見積・注文書/名義変更書類印刷 | コメント入力・履歴 |
| その他に掲げているもの | 権限管理/マルチテナント・B2B連携/メール配信と効果測定 | 検査業務・タブレット対応・ホームページなど製品群 | レンタカー管理(オプション) | 部品仕入在庫管理/車検書類印刷/メンテナンスパック管理/会計ソフト連動 | ポイント付与・利用/ポイント履歴 |
「公開ページでは確認できず」は、その機能が無いという意味ではありません。資料請求後の資料や営業の説明でしか出していない会社があり、サイトの作り方によっては書いてあっても機械が読めないことがあります。実際、公開ページの見え方には差があって、製品群の名前だけを並べているところもあれば、機能名まで一覧にしているところもあります。表の空欄は「サイトを見ただけでは分からなかった」という記録として読んでください。確かめたい軸があるなら、そこを名指しで各社に聞くのがいちばん早い。
この表の使い方としては、埋まっているセルを数えるのではなく、自社が絶対に外せない軸がどれかを先に決めてから縦に見てください。整備が売上の中心なら入庫予約と車検案内の行、販売が中心なら見積と商談の行、複数拠点を持っているなら権限とテナントの行。全部が入っているものを探すと、使わない機能の分まで払うことになります。
予約は「席」ではなく「ピット」で埋まる
飲食や美容の予約管理と、自動車の予約管理は形が違います。押さえるのは席や人ではなくピットと、その日その作業ができる整備士です。車検・法定点検・一般整備・鈑金で作業時間がまったく違い、認証や指定の区分によって受けられる作業も変わる。だから予約表は時間の枠だけでは組めません。
ここを紙の予定表やホワイトボードで回している工場は多く、そのこと自体は悪くありません。問題は、車検満了日から逆算した呼び込みと、実際の予約枠が別々の場所にあることです。案内を出して電話が鳴っても、その場で空きを答えられなければ「折り返します」になり、そこで他店に流れます。案内と予約枠が同じ画面にあるかが、自動車の予約管理でいちばん効く一点です。
もう一つ、予約が埋まらない原因が需要ではなく枠の切り方にあることがあります。車検を長い枠で押さえていて、短い作業を入れる隙間が無い。逆に細かく切りすぎて、時間の読めない鈑金が入ると後ろが全部ずれる。作業区分ごとに標準の所要時間を決めて枠に反映しないと、システムを入れても紙のときと同じ埋まり方になります。
予約を受ける入口も決めてください。電話、店頭、自社サイトのフォーム、LINE。入口が分かれていても構いませんが、枠を持つ台帳は一つにする。複数の台帳を並行して見ていると、同じピットに二台入ります。
案内の出し方で、返ってくる率が変わる
抽出ができるようになると、次は出し方の話になります。はがき、電話、ショートメッセージ、LINE。どれが効くかは客層で違い、同じ店でも年齢層で分かれます。全部を一つの手段に寄せると、届かない層が出ます。
実務としては、顧客ごとに連絡の手段を記録しておくのが確実です。この人ははがき、この人はLINE、と決めて台帳に持つ。手段を記録できない仕組みだと、毎回全員に同じ方法で出すことになり、届かなかった分は気づかないまま消えます。届いたかどうかを追えるかも、あわせて見ておいてください。
入庫のたびに、次の予定を書き込む
顧客管理が回っている工場に共通しているのは、車が出ていく時点で次の予定が入っていることです。次の車検、次のオイル交換、そろそろ替えたほうがいいタイヤ。この三つを作業のときに記録しておけば、案内の中身が「車検です」から「前回替えなかったタイヤの件です」に変わります。
これは仕組みの話というより運用の話です。ただし、記録する場所が無ければ運用も定着しません。整備の履歴に自由に書き込める欄があるか、それが次の案内のときに見えるか。この二つが揃っていると、現場が書くようになります。
案内を出す前に、個人情報の扱いを決めておく
車検の案内を出すということは、氏名と連絡先を業務に使うということです。個人情報保護法は、扱う目的をはっきりさせたうえでその範囲で使うことを求めています。詳細は記事末尾の個人情報保護委員会のページで確認してください。
実務で決めておくのは三つです。何のために連絡先を持つのか。誰が見られるのか。売却などで関係が終わった顧客の情報をいつまで持つのか。三つ目が抜けている会社が多く、十年前に一度来ただけの客の情報が残り続けます。使わない情報は、守る手間だけが残ります。
紙の台帳から移すときは、車検の月ごとに分けて入れる
いまが紙やエクセルなら、全件を一度に移そうとしないでください。台数が多いほど途中で止まり、中途半端に二重管理になります。
現実的なのは、車検の満了月が近い順に入れていくやり方です。来月満了の車から入れれば、入れた端から案内に使えます。効果が出るまでが短いので、作業も続きます。全件が入り終わるのは一年後で構いません。一巡すれば、そのときには全部が入っています。
一次ソース(公式ページ)
- 個人情報保護委員会 — 個人情報保護法について
- 個人情報保護委員会 — 法令・ガイドライン等
- ブロードリーフ(自動車整備・鈑金・車両販売向け業務システム)公式サイト
- JOCAR(自動車販売・整備の業務管理システム)公式サイト
- GATCH(自動車整備・鈑金・販売の業務ソフト)公式サイト
- Ribbon(自動車ディーラー向けCRM・業務管理SaaS)公式サイト
- クレアンスメアード 顧客カルテ(接客業向け顧客管理)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
名簿はエクセルで足りているのですが、変える必要はありますか
台数が少なく、車検の案内も漏れていないなら急ぎません。判断の目安は、案内を出す作業に何日かかっているかです。抽出に丸一日かかっているなら、その日数が毎回の固定費として乗っています。
車を売った後に所有者が変わった場合、記録はどう扱いますか
前の所有者の情報を残したままにすると、案内が誤って届きます。名義の変更を記録に反映する運用を決めてください。車の履歴は残し、人の情報は現在の所有者に付け替える、という分け方が実務では扱いやすくなります。
整備の記録はどこまで細かく残すべきですか
次に案内を出すときに使う情報かどうかで決めてください。交換した部品と時期は次回の提案に効きますが、使わない項目まで細かく取ると入力が続きません。続かない記録は無いのと同じです。