飲食店の顧客管理とCRM|常連の見つけ方と離反対策
飲食店の顧客管理とは、誰が常連で、誰が離れかけているかを、記憶ではなく記録で言えるようにすることです。ポイントカードを配ることでも、高いシステムを入れることでもありません。来店した日と、誰が来たか。この二つが残っていれば必要なことはほぼ出てきますし、残っていなければ何を入れても出てきません。難しいのは、飲食店では来店の大半が名前を残さずに終わることです。
やると何が変わるか
先に結論から書きます。顧客管理が動き始めると、店の判断の材料が「今日の売上」から「誰が、どのくらいの間隔で来ているか」に変わります。これが効くのは、売上が落ちたときに打つ手が変わるからです。
売上が落ちた月、多くの店はまず新規集客を考えます。クーポンを出す、掲載を増やす。ところが記録を見ると、落ちた分のほとんどが来なくなった常連で説明がつくことがあります。この場合、新規に使う広告費は穴の空いたバケツに注ぐ水になります。誰が来なくなったのかが分かっていれば、その人たちに向けた一通のほうが安く効きます。
もう一つ変わるのが、空いている日の埋め方です。曜日や時間帯で客層が違うのは肌感で分かっていても、「火曜の夜に来る人」を名指しで呼べる店は多くありません。来店の記録があると、その層にだけ案内を出せます。全員に同じ内容を送るのをやめられる、というのが実務上いちばん大きい変化です。
名前が残る客と、残らない客がいる
予約で来た客は、名前も電話番号も人数も残ります。一方、ふらっと入ってきた客は、会計を済ませて出ていくだけで何も残りません。多くの店では後者のほうが多く、そして再来店してくれるかどうかを一番知りたいのも後者です。
汎用のCRMは「顧客レコードがある」ことを前提に作られています。名前のない来店をどう扱うかは、こちらで設計しないといけません。会計時に会員登録を促すのか、モバイルオーダーで注文させて自動的に紐づけるのか、LINEの友だち追加を入口にするのか。この入口の設計が飲食店の顧客管理の本体で、システム選びはその後の話です。
入口を作るときの原則は一つで、客に名乗ってもらうのではなく、客が得をする動作の副産物として記録が残る形にすることです。注文が早く済む、次回の割引が付く、席が確保される。理由のない登録は頼んでも進みません。回転の速い業態ほど、ここの設計で全部が決まります。
集める項目は、四つでいい
最初から多くを集めようとすると、入力が止まります。止まった台帳は無いのと同じなので、まず四つに絞ってください。いつ来たか、誰が来たか、何人で来たか、何を頼んだか。この四つがあれば、常連の抽出も離反の検知も客単価の把握もできます。
好み、アレルギー、記念日、担当したスタッフの所感。これらは価値がありますが、四つが定着してから足すものです。順番を逆にすると、忙しい日から順に空欄が増えていきます。
アレルギーや体調に関わる情報は扱いが重くなります。対応のために必要なら必要と決めたうえで持ち、そうでないなら持たない。集めた瞬間から守る責任が発生する、というのは意識しておいてください。
常連の定義を、先に決める
「常連を大事にしよう」で終わっている店は多い。誰が常連なのかを決めていないからです。定義が無ければ抽出もできず、抽出できなければ何も打てません。
定義の作り方は二通りあります。回数で決めるか、間隔で決めるか。一定期間に何度も来ている人を常連とするのが前者、来る間隔が安定している人を常連とするのが後者です。業態で向き不向きがあり、ランチ中心の店は前者、単価の高い夜の店は後者のほうが実態に合います。
どちらでも構いませんが、決めたら書き留めて、店の中で同じ言葉として使ってください。スタッフによって常連の意味が違うと、記録の付け方もばらつきます。
離れかけている客は、記録があれば自動で浮かぶ
顧客管理でいちばん金額に効くのがここです。来なくなった客は、来なくなったことを店に告げません。だから気づくのはたいてい、売上が落ちてしばらく経ってからになります。
ところが来店の記録があれば、その人のいつもの間隔を過ぎても来ていない、という形で自動的に浮かびます。全員を追う必要はありません。よく来ていた人が来なくなっているときだけ拾えれば十分です。
連絡の中身は売り込みでなくて構いません。むしろ「久しぶりに顔を見たい」に近いほうが返ってきます。ここで効くのが、四つ目に集めた注文の記録です。前に頼んだものに触れられると、宛名だけ差し替えた案内とはまったく別のものになります。
予約・会計・顧客台帳が別々に立っている
もう一つの特殊さは、システムが分かれていることです。予約は予約台帳、会計はPOSレジ、販促はLINEやメール。それぞれ別の会社の別のサービスで、同じ客が三つの場所に別人として存在している。これが普通の状態です。
だから飲食店で顧客管理を考えるときの最初の問いは「どのCRMを入れるか」ではなく、いま使っているPOSと予約台帳がつながるかになります。つながらない組み合わせだと、来店の記録と会計の記録が結びつかず、誰が何をいくら食べたかが分かりません。飲食店向けを掲げるサービスがPOS連携やグルメサイト連携を前面に出しているのは、ここが業界の詰まりどころだからです。
複数の予約経路をどう束ねるか
いまの飲食店は、電話、自社サイト、グルメサイト、地図アプリと、予約の入口が分かれています。それぞれが別の管理画面を持っていて、同じ時間帯の席が別々に押さえられていく。この状態だと、顧客の記録以前に席の管理が破綻します。
顧客管理を考えるなら、まずこの束ね方を決めてください。台帳を一つに決めて、そこに全部の経路を集める。集められない経路があるなら、その経路の予約は手で台帳に写す、と決めておく。写す手間が惜しいからといって二つの台帳を並行して見ていると、いつか必ずダブルブッキングが出ます。顧客の記録が積み上がるのは、この土台が片付いた後です。
写す作業は「誰がいつやるか」を決めた分しか続きません。手が空いた人がやる建て付けにすると、混んだ日から必ず抜けます。開店前の準備か、閉店後の締めに組み込んでください。
汎用CRMでもできるが、作る手間が全部こちらに来る
ここは公平に書きます。汎用のCRMでも、飲食店の顧客管理はできます。項目を自分で定義して、POSからデータを流し込む仕組みを作れば動きます。実際、複数店舗を持つ会社がそうしている例もあります。
問題は、その設計と接続を誰がやるかです。予約の形式を決め、POSとの受け渡しを作り、来店の定義を決める。この作業は一度では終わらず、メニューや業態が変わるたびに直します。店をやりながらこれを続けられるなら汎用でよく、続けられないなら飲食店向けを掲げているものを見る、という判断になります。機能の優劣ではなく、手を入れ続けられるかどうかで選んでください。
飲食店向けを掲げているものは、何を前提にしているか
飲食店向けの製品は、この業界の形をあらかじめ持っています。以下は公式サイトで飲食店向けであることを確認したものです。並び順に意味はありません。
- トレタ — 「飲食店のDX支援サービス」。予約台帳と顧客台帳が中心で、グルメサイト・POS 連携、AI 電話受付、モバイルオーダー、スタンプカードから LINE 配信までを製品群として持っています
- ebica — 「レストラン・飲食店向け予約管理システム」。グルメサイトの予約取込・配席・在庫反映の自動化、AI による電話予約対応、海外予約サイトへの一括掲載と多言語対応まで、予約の入口をまとめる側に厚みがあります
- ダイニー — POS レジ・モバイルオーダー・顧客管理・予約台帳・勤怠・決済を一本化する形。LINE 連携で顧客データを取得し、来店履歴と注文履歴をハンディに出す作りです
- ポスタス — 業界特化型の POS。飲食のほか小売・美容・クリニック向けを掲げ、セルフレジやセルフオーダーまで機器が揃います。年中無休のコールセンターと駆けつけ、ハード保証といった支援側の記載が目立ちます
- クレアンスメアード 顧客カルテ — 対象業種に高級飲食店を含む顧客管理。顧客台帳・購買履歴・ポイント・デジタル会員証に加えて、スタッフのコメントと過去の接客履歴を残すところに寄っています
公表されている対応領域を、同じ軸で並べる
製品ごとに説明の書き方が違うので、そのままでは比べられません。同じ軸に並べ直したのが下の表です。入っているのは各社の公式サイトに書かれていることだけで、順位付けはしていません。
| 軸 | トレタ | ebica | ダイニー | ポスタス | クレアンスメアード |
|---|---|---|---|---|---|
| 顧客データの主な入口 | 予約 | 予約 | 注文(モバイルオーダー) | レジ | 接客の記録 |
| 予約管理 | 予約台帳が中心 | 予約管理システムとして中心。配席・在庫反映の自動化 | 予約台帳を一本化の一部として掲載 | 公開ページでは確認できず | 公開ページでは確認できず |
| グルメサイト連携 | グルメサイト連携を掲載 | 予約取込の自動化を掲載 | 公開ページでは確認できず | 公開ページでは確認できず | 公開ページでは確認できず |
| モバイルオーダー | モバイルオーダーを掲載 | 公開ページでは確認できず | モバイルオーダーが中心 | セルフオーダーの機器 | 公開ページでは確認できず |
| POS・会計 | POS連携を掲載 | 公開ページでは確認できず | POSレジを内包 | 業界特化型のPOSそのもの | 公開ページでは確認できず |
| 販促・配信 | スタンプカード/LINE配信 | 公開ページでは確認できず | LINE連携で顧客データを取得 | 公開ページでは確認できず | ポイント/デジタル会員証 |
| 接客記録 | 公開ページでは確認できず | 公開ページでは確認できず | 来店履歴と注文履歴をハンディに表示 | 公開ページでは確認できず | スタッフのコメントと接客履歴 |
「公開ページでは確認できず」は、その機能が無いという意味ではありません。資料請求後の資料や営業の説明でしか出していない会社があり、サイトの作り方によっては書いてあっても機械が読めないことがあります。表の空欄は「サイトを見ただけでは分からなかった」という記録として読んでください。確かめたい軸があるなら、そこを名指しで各社に聞くのがいちばん早い。
この表の使い方としては、埋まっているセルを数えるのではなく、自店で名前が取れる場所がどこかを先に決めてから縦に見てください。一行目の「顧客データの主な入口」が自店と噛み合っていないものは、機能がいくら多くても台帳が埋まりません。予約がほとんど入らない業態に予約台帳を軸にしたものを入れても、埋まるのは席だけです。
もう一つ、レジや勤怠まで含めて一本化するものと、いまのPOSに足すものとで決断の重さが違います。一本化は安くなることがある一方、レジの入れ替えを伴うので止められない時期には動かせません。いまのPOSを残したまま顧客管理だけ足すなら、入れ替えの日を選ばずに済みます。料金と機能の詳細は各社の公式ページで確認してください。改定されるうえ、プランの切り方も各社で違います。
集める前に、何のために持つのかを決める
顧客の情報は、集めた瞬間から管理する責任が発生します。個人情報保護法は、扱う目的をはっきりさせたうえで、その範囲で使うことを求めています。詳細は記事末尾の個人情報保護委員会のページで確認してください。
実務としては、目的を決めてから項目を決めるのが順序です。再来店を促したいなら連絡先と来店日でよく、席の準備をしたいなら人数と好みの席が要ります。逆に、目的を決めずに「取れるだけ取る」と、使わない情報を守り続けることになります。
スタッフの入れ替わりを前提に作る
飲食店はスタッフの入れ替わりが早い業種です。常連の好みや前回の様子が、特定のスタッフの頭の中にしかない状態だと、その人が辞めた日に全部消えます。顧客管理を入れる一番の実利はここにあります。
ただし、記録が続くかどうかは入力の手軽さで決まります。忙しい時間帯に長い入力を求める仕組みは、二週間で使われなくなります。ひと言だけ残せる欄があるか、スマートフォンから入れられるか。デモを見せてもらうときは、機能の一覧ではなくピーク時に触れるかを見てください。
解約したときにデータが残るかを、契約の前に聞く
顧客データは店の資産です。にもかかわらず、サービスを解約したときに持ち出せない形になっていることがあります。予約サイト経由の予約情報が自店の台帳に入らない、という形も同じ問題です。
契約の前に、書き出せる形式と、解約後にどれくらいの期間データを取り出せるかを聞いてください。答えられないなら、そこで一度立ち止まる価値があります。この確認をしておくと、後で乗り換えるときの選択肢が残ります。
まず一店舗、一つの目的から始める
複数店舗を持っているなら、全店に一度に入れないでください。業態が違えば必要な項目が違い、最初から全部を満たそうとすると誰も使わない設計になります。
一店舗で、目的を一つに絞って始めるほうが早く回ります。再来店を促すのか、席の準備を良くするのか。どちらかに決めて、そのために必要な項目だけを取る。三か月やってみて、実際に使われている項目と使われていない項目が見えてから広げてください。使われていない項目を消すのも作業のうちです。空欄が並んだ台帳は、見るのをやめる理由になります。
一次ソース(公式ページ)
- 個人情報保護委員会 — 個人情報保護法について
- 個人情報保護委員会 — 法令・ガイドライン等
- トレタ(飲食店向け予約・顧客台帳)公式サイト
- ダイニー(飲食店向けモバイルオーダー・CRM)公式サイト
- ebica(飲食店向け予約管理・CRM)公式サイト
- ポスタス(業界特化型POS。飲食・小売・美容・クリニック向け)公式サイト
- クレアンスメアード 顧客カルテ(接客業向け顧客管理)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
飲食店の顧客管理とは、具体的に何をすることですか
誰が常連で、誰が離れかけているかを、記憶ではなく記録で言えるようにすることです。ポイントカードを配ることでも、高価なシステムを入れることでもありません。来店した日と、誰が来たかが記録として残っていれば、そこから常連も離反も自動的に浮かびます。逆にその二つが無ければ、どんなシステムを入れても何も出てきません。
名前を聞かない業態でも顧客管理はできますか
できますが、名前を聞く以外の入口を作る必要があります。モバイルオーダーで注文させる、LINEの友だち追加を会計時の割引と結びつける、予約サイト経由の来店を自店の台帳に写す、といった方法です。どれも「客に名乗ってもらう」のではなく「客が得をする動作の副産物として記録が残る」形にするのが要点です。回転の速い業態ほど、この設計が全てを決めます。
何人くらいの規模から顧客管理を入れるべきですか
規模ではなく、常連の売上構成で決めてください。売上の多くを顔なじみが作っている店なら、席数が少なくても効きます。逆に立地で回っていて再来店がほとんど無い業態なら、顧客管理より回転と原価の管理が先です。まず一か月、来店客のうち何人が二回目以降かを手で数えてみると、入れる価値があるかどうかがはっきりします。
ポイントカードとの違いは何ですか
ポイントカードは再来店を促す仕掛けで、顧客管理は記録の仕組みです。紙のポイントカードは押した回数が客の手元にしか残らないので、店側には何も蓄積しません。同じ仕掛けでも、デジタル会員証やアプリにすると来店日と客が店側の台帳に残り、そこから常連の抽出も離反の検知もできるようになります。目的が違うのではなく、記録が残るかどうかが違います。
予約サイト経由の客は自店の顧客として扱っていいですか
店で提供した以上、記録が残ること自体は自然です。ただし取得した情報を何に使うのかは、あらかじめ本人に分かる形にしておく必要があります。予約サイト側の規約で連絡先の扱いが定められていることもあるので、案内を送り始める前に、媒体の規約と自店の掲示・同意の取り方の両方を確認してください。判断の土台は個人情報保護委員会の案内にあります。
導入しても入力が続きません。どうすればいいですか
入力の手軽さと、入力する時間が業務のどこにあるかで決まります。忙しい時間帯に長い入力を求める仕組みは短期間で使われなくなるので、項目を絞り、ひと言だけ残せる欄にしてください。そのうえで、閉店後の締め作業に「その日の記録が入ったか」を見る手順を組み込む。個人の心がけではなく、業務の順番として置くのが唯一続く方法です。