アパレル・小売の顧客管理 — ECと店舗で会員が割れていないか
同じお客様が、店舗の会員番号とECの会員IDで別人として登録されている。アパレル・小売の顧客管理で最も多い詰まりはこれです。人数は二倍に見え、購買履歴はどちらにも半分しか無い。この状態では、接客もセールの案内も、在庫の判断すら鈍ります。買うシステムを決める前に、いま会員がいくつに割れているかを数えてください。
割れていることに気づきにくい理由
会員数は増えて見えます。売上も両方で立っています。数字の上では何も壊れていないので、割れていること自体が問題として浮かんできません。気づくのはたいてい接客の現場で、「前に買っていただいたものが分からない」という形で出ます。
実害は三つあります。ひとつは接客。店頭でサイズや好みが分からないので、毎回一から聞くことになる。ふたつめは案内。同じ人に二通送るか、片方にしか届かない。みっつめは判断で、優良顧客が誰なのかが見えません。ECで年に何度も買っている人が、店舗の台帳では一度きりの客に見えている、ということが起きます。
まず、いくつに割れているかを数える
顧客の情報が置かれている場所を全部書き出してください。店舗のPOS、ECのカート、ポイントカードの台帳、LINEの友だち、メール配信のリスト、そして販売員のスマホ。多くの店で五つ以上に散らばっています。
散らばること自体は避けられません。問題は、どれが「本体」なのかが決まっていないことです。本体が決まっていないと、どこを直せば全体が直るのかも決まりません。会員の本体をどこに置くかを先に決めてから、他をそこへ寄せる。順番を逆にすると、統合作業が永久に終わりません。
本体をどこに置くかは、買い方の中心で決めます。店舗が売上の中心なら POS 側、EC が中心ならEC側。両方が同じくらいなら、両方をつなぐ会員基盤を持っているシステムを選ぶことになります。ここは製品選びより前の、自社の商売の話です。
紐づけは、過去より「これから」を確実にする
過去の会員を機械的に名寄せしたくなりますが、精度は上がりません。家族で同じ電話番号を使っている、EC登録と店頭で違うメールアドレスを出している、旧姓のまま残っている。突き合わせの条件をどう作っても、必ず取りこぼしと誤結合が出ます。誤って別人を統合すると、購買履歴が混ざって元に戻せません。
実務として効くのは、会計時に会員証やアプリを提示してもらう導線を作り、提示があった取引から確実に紐づけることです。半年も回せば、動いている顧客のほとんどが片付きます。動いていない顧客は、そもそも案内を送っても返ってきません。
提示してもらうには、提示する理由が要ります。ポイントが付く、取り置きができる、購入履歴から再購入できる。レジで「お持ちですか」と聞くだけの運用は続きません。
顧客が販売員に付いている店では、そこも設計する
アパレルでは、顧客が店ではなく販売員に付いていることがあります。指名で来る、その人がいる日に合わせて来る、SNSでやり取りしている。売上としては強力ですが、その販売員が異動・退職した瞬間に顧客も動きます。
禁止すると売上が落ちるので、寄せ方を変えてください。店の公式アカウントを用意して、そこでのやり取りを業務として扱う。接客の記録は個人のメモではなく店の台帳に残す。誰がどの顧客を見られるかという権限の設計も要ります。これは顧客データを扱う以上どの業種でも必要になる論点で、店舗数が増えるほど効いてきます。
あわせて、顧客情報の取り扱いを就業規則や契約で明文化しておいてください。持ち出しを完全に防ぐことはできませんが、店の台帳が揃っていれば、担当が代わっても案内は出せます。台帳と契約の両方が要ります。
在庫とつながっていないと、履歴が活きない
小売の顧客管理が飲食や美容と違うのは、顧客の話がそのまま在庫の話になることです。探していたサイズが他店にある、ECに在庫がある、次の入荷で入る。この照会ができないと、履歴を持っていても接客の役に立ちません。
だから顧客管理を単体で選ぶより、在庫とレジと会員がつながっている形で見るほうが現実的です。店舗とECで在庫を分けて持っていると、店頭で「ECにはあります」と言えないまま帰されることになります。
小売・アパレル向けを掲げているものは、何を持っているか
以下は、公式サイトで対象業種と機能名を確認したものです。並び順に意味はありません。料金や契約条件は各社の公式ページで確認してください。
- RECORE — リユース・小売・アパレル向けのクラウド基幹システム。POSだけでなく、在庫・仕入れまで含めた基幹の作りになっているのが特徴です
- STORES POSレジ — 小売店・飲食店・美容サロンを対象。顧客カルテを会計の場で確認できること、ポイント・ランクの仕組み、デジタルポイントカードに加えて、商品データと在庫をネットショップと一元管理する連携を掲げています。ECと店舗を同じ会員で扱いたい店に噛み合います
- Airレジ — 飲食店・小売店・サービス業や美容・医療機関を対象。小売向けには在庫管理・原価設定・売上分析・バーコード読み取り、顧客管理とポイント機能が挙げられています
- ポスタス — 飲食・小売・美容・クリニックを対象にした業界特化型のPOS。決済まわりの機器と支援体制の記載が厚い構成です
- クレアンスメアード — 接客業向けの顧客カルテ。POSではなく、接客の記録を残すことに軸がある製品なので、既にレジがある店が顧客側だけ足す形に向きます
五つ挙げたのは順位を付けるためではありません。店の形で必要なものが違うからです。ECと店舗の両方で売っているなら在庫と会員の連携が先に要る。実店舗だけで接客が売りなら、カルテの書きやすさのほうが効きます。中古やリユースを扱っているなら、一点ごとの在庫を持てる作りでないと最初から回りません。
選ぶ前に確かめること
そして契約前に必ず聞いてほしいのが、解約したときに顧客データと購買履歴を出せるかです。形式は何か、履歴まで出るのか、費用はかかるのか。ここを聞かずに入れると、乗り換えたくなったときに顧客ごと動けなくなります。
集める前に、使い道を決める
購買履歴は、扱いを決めてから集めるものです。何のために取得し、何に使うのか。会員規約とプライバシーポリシーの記載、店頭の掲示、アプリの同意画面。始めてから整えるのではなく、始める前に決めてください。要件は個人情報保護委員会の案内と法令・ガイドラインで確認できます。
使う予定のない項目を集めないことも同じくらい大事です。誕生日を聞いて何もしないなら、聞かないほうがいい。守る対象が増えるだけで、得るものがありません。
統合の順番
統合が止まる原因は、たいてい最初から完璧を目指すことです。動いている顧客だけ紐づけば、明日の接客は変わります。範囲を決めて、決めた分が終わったら次を決める。これが結局いちばん早い。
一次ソース(公式ページ)
- 個人情報保護委員会 — 個人情報保護法について
- 個人情報保護委員会 — 法令・ガイドライン等
- RECORE(リユース・小売・アパレル向けクラウド基幹システム)公式サイト
- STORES POSレジ 公式サイト
- Airレジ 公式サイト
- ポスタス(業界特化型POS。飲食・小売・美容・クリニック向け)公式サイト
- クレアンスメアード 顧客カルテ(接客業向け顧客管理)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
ECと店舗の会員を統合したいのですが、何を鍵にすればいいですか
実務では、お客様自身に紐づけてもらうのが最も確実です。メールアドレスや電話番号で自動的に突き合わせる方法もありますが、家族で同じ番号を使っている、EC登録時と店頭で違うアドレスを出している、といったずれが必ず出ます。会計時に会員証やアプリを提示してもらう導線を作り、提示があった取引から確実に紐づける。過去分を機械的に名寄せするより、これから積む分を確実にするほうが早く効きます。
販売員が自分のSNSでお客様とやり取りしています。やめさせるべきですか
接客の質としては有効なので、一律に禁止すると売上が落ちることがあります。問題はやり取りが店から見えないことと、その販売員が辞めたときに関係ごと消えることです。店の公式アカウントに寄せる、業務で使うアカウントを店が用意する、といった形にして、顧客情報の取り扱いを就業規則や契約で明文化してください。個人の善意に任せた運用のままにしないことが要点です。
購買履歴はどこまで残していいのですか
何のために取得し何に使うのかを、あらかじめお客様に分かる形にしておく必要があります。会員規約やプライバシーポリシーの記載、店頭での掲示、アプリの同意画面などです。使う予定のない項目まで集めると、守る対象が増えるだけで得るものがありません。要件は個人情報保護委員会の案内と法令・ガイドラインで確認してください。