試算表と決算書、銀行はどこを見ているか
融資の相談に行くと決算書と試算表を出します。このとき相手が全部の数字を眺めているわけではありません。見ている場所はだいたい決まっていて、そこから読み取ろうとしていることも決まっています。どこを見られているかが分かれば、日々の経理で何を整えておくべきかが決まります。決算を良く見せる話ではなく、見られている前提で整える話です。
最初に見られるのは、返せるかどうか
相手の関心は単純です。貸した金が返ってくるか。だから最初に見るのは、事業が一年でどれだけ現金を生んでいるかと、いまの返済額がその範囲に収まっているか、という比較です。利益に減価償却を足した額が、年間の返済額を上回っているか。ここが逆転していると、事業の稼ぎでは返せておらず、別の借入か手元資金を取り崩して返している状態になります。
この見方が分かっていると、借入の相談の仕方が変わります。返済額を軽くする組み方を先に相談する、という発想が出てくるからです。同じ額を借りても、期間の取り方でこの比較の結果は変わります。金利の高い低いより、こちらのほうが効くことが多い。
あわせて、純資産がプラスかどうかを見ます。マイナス、いわゆる債務超過になっていると、そこが最初の関門になります。ただし、社長からの借入(役員借入金)がある場合、それを資本に近いものとして扱う見方もあります。該当するなら、その旨を自分から説明してください。黙っていると単なる負債として数えられます。
科目ごとに、疑われる場所がある
貸借対照表で必ず確認されるのが、売掛金・棚卸資産・役員貸付金の三つです。いずれも「本当にその価値があるのか」を疑われやすい項目だからです。
売掛金は、売上の規模に対して不自然に大きくないかを見られます。大きい場合、回収できていない古い債権が残っている可能性がある。だから、回収の見込みが薄い分をいつまでも計上したままにしていると、資産全体の信用が落ちます。得意先別・発生月別の内訳を出せるようにしておくと、この疑いはすぐ解けます。
棚卸資産も同じで、売れない在庫が資産として残っていないかを見られます。動いていない在庫を抱えたままにするのは、決算書の見栄えのためには一見よさそうですが、聞かれたときに説明できないと逆に効きます。売れないものは売れないものとして整理したほうが、全体の数字が信用されます。
役員貸付金は、会社の金が社長個人に流れていることが数字で見えてしまう項目です。ここが残っていると、会社と個人が分離できていないと判断され、経営者保証を外す話も進みません。減らす方法は状況によるので顧問税理士と相談することになりますが、増え続けている状態だけは避けてください。
損益は、額より動いた理由
損益計算書は複数期を並べて見られます。そのうえで、前期から動いたところの理由を聞かれます。売上が伸びたのに売上総利益率が落ちていれば、原価が上がったのに価格を変えていないのではないか。販管費が急に増えていれば、何に使ったのか。この質問に即答できるかどうかが、実は数字そのものより効きます。
答えられないと、数字を作っているのが他人で、社長は把握していないと受け取られます。逆に「原材料が上がった分を価格転嫁できたのが下期からで、上期は吸収していた」と説明できれば、それは把握できている会社の答えです。同じ数字でも、扱いが変わります。
だから試算表は、出す前に自分で見てください。前月と比べて動いた項目を三つ選んで、理由を言えるようにする。それだけで面談の中身が変わります。
整える順番
この順に効きます。月次を締める習慣が最初なのは、他の全部がそこに乗るからです。締まっていない会社は、いざ相談となったときに試算表の作成から始まるので、その分だけ動きが遅れます。急ぎの資金需要があるときに、この遅れは致命的になります。
数字以外で見られていること
資料の出し方そのものも見られています。頼んだ資料が期日に出てくるか、数字が資料ごとに食い違っていないか、前回言っていたことと今回の説明が矛盾していないか。ここは決算内容と違って今日から改善できるうえ、悪い数字を補う方向に働きます。
特に、業績が落ちている局面での対応で差がつきます。悪くなってから連絡が減る会社と、悪いなりに毎月報告してくる会社では、条件変更の相談になったときの扱いが変わる。数字が悪いこと自体より、見えなくなることのほうが警戒されます。
なお、金融機関ごとに評価の仕組みや重視する点には違いがあり、制度融資や保証付き融資では別の判断も入ります。ここに書いたのは共通して見られる部分までです。実際の要件や必要書類は、記事末尾の公式ページと担当者に確認してください。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
試算表は毎月出したほうがいいですか
求められていなくても、定期的に出しておくほうが有利です。決算のときだけ数字が出てくる会社と、毎月の動きが見えている会社では、いざ借入を相談したときの話の速さが違います。悪い月の試算表を出したくない気持ちは分かりますが、悪い月も込みで見えているほうが、良い月だけ見せるより信用されます。
決算書を良く見せる工夫はしたほうがいいですか
税務上認められる範囲の処理を選ぶのは経営判断ですが、実態と違う見せ方は逆効果です。金融機関は複数期を並べて見るので、一期だけ形を整えても前後との不整合が出ます。それより、役員貸付金を減らす、回収の遅れている売掛金を整理する、動かない在庫を落とすといった、実態そのものを直す作業のほうが評価に効きます。
顧問税理士に任せているので、自分は数字を見ていません。問題ですか
融資の面談で答えるのは社長本人です。売上総利益がなぜ前期より落ちたのか、この売掛金はどこの分か、と聞かれて答えられないと、記帳の正確さ以前に会社の把握ができていないと受け取られます。作るのは税理士でよいので、出てきた試算表を毎月見て、動いた理由を説明できる状態にしておいてください。