運送業の求人票を出す前に決める賃金と拘束の線引き
ドライバーを一人雇うと決めてから求人票を書き始めると、たいてい賃金欄で手が止まる。運送は運行ごとの手当や歩合が絡み、拘束時間の数え方も他の業種と違うからだ。先に決めるのは求人の文言ではなく、賃金の形、一日の拘束の上限、任せる車両と免許区分。この三つが決まっていれば、求人票そのものは半日で書ける。
求人票を出す前に、決まっていないと後で揉めること
職業安定法では、募集の段階で労働条件を示すことになっている。業務内容、契約期間、就業場所、始業終業の時刻、賃金、加入する保険。運送で引っかかりやすいのは就業場所で、営業所を書くのか、主に走る荷主の拠点を書くのかで応募者の受け取り方が変わる。面接で「聞いていた場所と違う」となれば、そこで話は終わる。
もう一つの典型が月収例だ。よく走った月の数字を出しておいて、実際に入った月は運行が少なく届かない。数か月で辞められ、また求人に金と時間をかけ直すことになる。募集の時点で額を大きく見せるほど、定着はしない。内訳と、忙しい月と暇な月でどれだけ振れるのかを、自分の中で先に数えておく。
賃金を日給にするか、歩合を混ぜるか
日給制は運行が減った月に人件費も下がるので、会社側は読みやすい。ただしドライバーからすると来月の収入が読めない。生活が読めない仕事は、家族のいる応募者から真っ先に外される。月給に運行手当を足す形なら応募は集まりやすいが、荷が薄い月も固定費として出ていく。どちらが正しいということはなく、荷主の波の大きさで決まる。
歩合を混ぜるときに見落とされるのが割増賃金の計算だ。固定給の部分と歩合給の部分では割増の出し方が違い、歩合の割増はその期間の歩合総額をその期間の総労働時間で割った単価をもとに出す。手計算で回すと必ず崩れる。使っている給与計算のやり方が歩合に対応しているかを、募集条件を決める段階で確かめておく。
それから最低賃金。都道府県ごとに額が決まっていて、歩合込みで時間あたりに換算したときに下回ってはいけない。荷待ちが長引いた月は労働時間だけ伸びて歩合が増えないため、ここで割れることがある。地域ごとの額は記事末尾の公式ページで確認してほしい。
一日の拘束をどこまで見込めるか
自動車運転者については、実際に働いた時間だけでなく、休憩や荷待ちを含む拘束時間の上限と、勤務と勤務の間に空ける休息期間のルールがある。求人票に書いた始業終業と実際の運行ダイヤが合っていないと、入社した本人から早々に指摘される。行政の調査で見られるのもここだ。
だから求人を出す前に、いま走らせている便を紙に書き出し、一人増えたときの割り振りを作ってみる。それで収まらないなら、雇う人数ではなく車の配置か荷主との時間交渉を先に動かすしかない。深夜帯にかかる運行を任せるなら、深夜の割増と、健康診断を受けさせる頻度が変わることも人件費に入れておく。
免許と経験の条件はどこまで絞るか
免許は取得した時期によって区分が違い、同じ表記でも乗れる車が変わる。応募書類の自己申告ではなく、面接で免許証の現物を見て、条件欄(眼鏡等など)と有効期限まで確認してコピーを取る。ここを省いて乗せてしまうと、事故が起きたときに保険と会社の責任が一気に問題になる。
未経験を採る判断もある。その場合は初任運転者への教育と適性診断が必要になり、しばらくは社長か先輩が同乗する。一人目の採用では、その同乗の時間が丸ごと社長の稼働から抜ける。未経験可にするなら、自分の運行をその分だけ減らせるかを先に見ておく。
雇う側で先に整える体制と保険
労働保険の手続きと社会保険の加入は、雇った時点から必要になる。会社負担分が乗るので、提示する賃金だけを見て人件費を組むと足りなくなる。就業規則は一定の人数から作成と届出が義務になるが、義務になる前でも、労働時間・休日・賃金の締めと支払日くらいは文書にしておいたほうがいい。モデル就業規則が公開されているので、それを叩き台にすると早い。
運送特有なのは点呼だ。出庫前と帰庫後の点呼、アルコール検知器の使用。社長自身が走っている会社では、社長が出ている時間帯の点呼を誰がやるのかが必ず問題になる。運行管理者や補助者をどう置くかは保有車両数によって変わるので、雇う前に自社の台数で確認しておく。
もう一つが任意保険の運転者条件。年齢条件や運転者限定が付いたままだと、若い人を採用しても乗せられず、気づかず乗せれば事故のときに支払われない。採用が決まってからではなく、募集の要件を決める段階で証券を開く。
- 免許証の現物(区分・条件欄・有効期限)
- 雇入れ時の健康診断の結果
- 初任運転者の適性診断の受診予定
- 任意保険証券の運転者年齢条件と限定
ハローワークの求人票に落とすときの詰め
ここまで決まっていれば、求人票は転記作業になる。気をつけるのは固定残業代で、入れるなら何時間分をいくらとして払うのかを明示しなければならない。運送は残業が読みにくいぶん、曖昧なまま「手当に含む」と書くと、後で未払いの話になりやすい。
細かいところでは、マイカー通勤の可否、車両や備品の持ち込みの有無、免許取得の費用を会社が出すならその条件。免許費用を負担する場合、辞めたら返させるという約束は、書き方によっては無効になる。応募を増やしたい一心でここを曖昧にすると、入社後の面談で必ず蒸し返される。
入社の日までに何を順番に済ませるか
採用を決めてから初出勤までにやることは、ほぼ決まっている。労働条件を書面で渡し、免許証と健康診断を確認し、適性診断と初任者教育の日程を押さえ、保険の手続きをする。これを入社後にまとめてやろうとすると、初日から車に乗せられない。
最初の給与計算日も先に決めておく。締めと支払日を決めないまま走り出すと、初回の給与で歩合の対象期間がずれ、本人の期待と食い違う。ドライバーが辞める最初のきっかけは、たいてい一枚目の給与明細だ。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
求人票に月収例を載せてもいいですか
載せること自体は問題ないが、どういう条件で走った月の額なのかを併記しておく。前提を書かずに大きい額だけ出すと、面接で内訳を聞かれて答えられず、そこで辞退される。社会保険料などが引かれた後の手取りも必ず聞かれるので、自分で一度計算してから面接に臨むこと。
未経験者と経験者、どちらを採るべきですか
経験者は即戦力になる一方で、前職の点呼や日報の運用、荷扱いの癖をそのまま持ち込む。最初の面談で自社のやり方を説明し、合わせてもらえるかを確かめておくと後がもめない。未経験は教育と同乗の期間が必要なので、その間に社長自身の運行を減らせるかどうかで決まる。
繁忙期だけスポットで走ってもらう場合も同じ準備が要りますか
雇用契約を結ぶ以上、労働条件の明示、点呼、日報、任意保険の運転者条件は短期でも同じ扱いになる。繰り返し頼む相手ほど、先に体制を整えておいたほうが手戻りがない。外注として個人事業主に頼む形にしても、指揮命令の実態があれば労働者として扱われることがあるので、契約書の形だけで判断しないこと。