最低賃金の改定前に社内で洗い出す対象と書類
最低賃金の改定でつまずくのは、額の大小ではありません。確認の漏れです。時給で雇っている人だけ見て安心し、月給の若手や別の県の事業所にいる人が抜ける。発効日を過ぎてから気づけば、賃金台帳を遡って差額を払い直す作業になります。額が発表されてから動くのではなく、その前に「誰と何を比べるか」を決めておく話をします。
まず誰の賃金を見るのか
賃金台帳を開いて時給の低い順に並べる、これは出発点にすぎません。実際に引っかかるのは、時給のパートやアルバイトだけではなく、基本給を低く抑えて通勤手当や家族手当で総額を積んでいる月給者、入社したばかりで試用期間中の人、そして固定額の日給で働いてもらっている人です。総支給額が周りより多い人でも、算入できる賃金だけを時間額に直すと下回ることがあります。
もう一つ抜けやすいのが勤務地です。地域別最低賃金は、その人が働く事業場の所在地の額で判断します。本社が高い地域にあっても、支店や工場が別の県にあればその県の額です。逆に、本社より高い地域に営業所を出していれば、そちらの額に合わせる必要があります。派遣で受け入れている人は、雇用しているのは派遣元でも、比べる基準は派遣先である自社の所在地の額になります。派遣元の担当者が把握していない場合があるので、こちらから所在地を伝えておくほうが早い。
業種によっては、地域別とは別に特定最低賃金が定められています。該当する業種なら、地域別と比べて高い方が適用されます。自社の業種に設定があるかどうかは毎回変わるものではないので、一度確認して社内のメモに残しておけば済みます。
月給や日給は何で割って時間額にするのか
月給者は、算入対象の賃金額を一か月平均所定労働時間で割ります。ここでいう平均所定労働時間は、年間の所定労働日数に一日の所定労働時間を掛けて、月数で割った値です。毎月の実際の労働時間ではありません。実労働時間で割ってしまうと、残業の多い月だけ時間額が下がって見え、判断を誤ります。
ここで意外な結果になるのが、休日の多い会社です。年間休日を増やすと所定労働時間が減るので、同じ月給でも時間額は上がります。逆に、所定労働時間が長い会社は月給が同じでも時間額が低く出ます。日給の人は一日の所定労働時間で割り、歩合給や出来高払いが混ざっている人は、その部分を別に計算して合算します。この換算は一度エクセルの表を作っておけば、翌年以降は数字を入れ替えるだけで終わります。
計算に入らない手当はどれか
比べるのは、毎月決まって支払われる賃金だけです。次のものは最低賃金との比較から除きます。
- 精皆勤手当、通勤手当、家族手当
- 時間外労働・休日労働・深夜労働の割増賃金
- 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
- 一か月を超える期間ごとに支払われる賞与
手当で総額を調整してきた会社は、この除外でごそっと減ります。通勤手当の額が大きい遠方通勤者ほど、明細の見た目と比較用の額の差が開く。だから「うちは全員それなりに払っている」という感覚だけで判断すると外します。是正するときも、算入されない手当を増やしても意味がありません。基本給か、毎月定額で支払う算入対象の手当を動かすことになります。
発効日をまたぐ給与はどう処理するか
新しい額が適用されるのは発効日以降の労働に対してです。締め日が月末で発効日が月の途中に来ると、同じ月の給与の中に旧単価の期間と新単価の期間が並びます。給与ソフトの単価をまとめて書き換えてしまうと、発効日前の勤務分まで新単価で払うことになり、それ自体は違法ではありませんが、他の人との整合が崩れて後の説明が面倒になります。
逆に、書き換えを忘れて発効日以降も旧単価で払った場合は、差額の未払いです。本人から指摘される前に自分で見つけたなら、次の給与で差額を精算して明細に内訳を残しておく。労働基準監督署の調査で指摘された場合、遡って全員分を洗い直すことになるので、手間の差は大きい。答申から発効までの期間は短いので、締め処理の担当者には額の確定を待たずに「今回は単価変更がある」と先に伝えておきます。
時給を上げると連動して動くもの
時間単価が上がると、残業代の単価も上がります。割増賃金は通常の労働時間の賃金を基礎に計算するので、残業が多い部署では引き上げ額以上に人件費が増えます。有給休暇を取ったときの賃金も同じように上がる。ここを見ないで昇給分だけを予算に入れると、後半の月で足りなくなります。
本人側の事情も動きます。一定の年収を超えないように働く時間を調整している人は、時給が上がると出られる時間が減ります。何も言わずにシフト希望を絞ってくる人が出るので、改定を伝えるときに「勤務時間を調整したいなら早めに言ってほしい」と一言添えておくと、繁忙期に人が足りない事態を避けられます。
もう一つは社内のバランスです。最低賃金に合わせて新人の時給を上げると、長く働いている人との差が詰まります。放っておくと、先に辞めるのは差を詰められた側です。全体を一律に上げる余力がなければ、役割や責任で差をつける根拠を先に決めておく。パートや有期契約の人と正社員で待遇に差がある場合、その差の理由を説明できるかという論点はパートタイム・有期雇用労働法の話につながります。
直す書類と、本人への伝え方
額を決めたら、書類の側を直します。賃金規程に時間額や日額を書いている会社は本文の修正が必要で、これを放置すると規程と実際の支給額が食い違います。個々の雇用契約書や労働条件通知書に時給が書かれているので、変更後の額を書面で渡す。口頭だけで済ませると、後で「聞いていない」「上がったのは別の人だ」という話になります。
給与ソフトのマスタ、賃金台帳、それに助成金や社会保険の届出で賃金額を使っているものがあれば、そちらも影響します。パートの人数が多い会社なら、対象者の一覧を作って、単価の変更・契約書の差し替え・本人への通知の三つにチェック欄を付けておくと取り漏らしがありません。翌年もそのまま使えます。
社内では誰がいつ動くか
作業を一人に集めると、その人が休んだ月に止まります。額の確認と対象者の洗い出しは事務、単価の決定と原資の判断は経営者、シフトの組み替えは店長や現場責任者、と最初に切り分けておく。特に原資の話は、値上げや受注単価の見直しを伴うことがあり、賃金の締め処理より前に決めておかないと間に合いません。
タイミングとしては、答申が出る前に換算表と対象者リストを用意し、額が確定したら数字を入れ替えて影響額を出す。この順番なら、発効日まで日が少なくても慌てません。地域別の額や特定最低賃金の設定は記事末尾の公式ページで確認できます。毎回同じ場所を見るので、社内の共有フォルダにたどり着き方を書き残しておくと、担当が変わっても回ります。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
月給者で、時間額に換算すると下回るのに手取りは他の人より多い場合はどうなりますか
手取りの多さは関係ありません。算入対象になる賃金だけを時間額に直して比べるので、通勤手当や家族手当で厚くしている人ほど引っかかります。是正は基本給の引き上げが基本で、手当の名称を付け替えても算入されるかは支給の実態で判断されます。すでに下回っていた期間があれば、その分の差額は遡って支払う義務が残ります。
発効日が給与計算期間の途中に来るときは、どう計算しますか
発効日より前の勤務分は旧額、発効日以降の勤務分は新額で計算します。締め日と発効日がずれる会社では、同じ月の給与明細に単価の異なる二つの期間が並びます。給与ソフトで期間を区切った単価変更ができるかは製品によって違うので、締め処理の前に操作を確認しておくと当日慌てません。
最低賃金を下回る額で払える例外はありますか
心身の障害で著しく労働能力が低い人、試用期間中の人、認定職業訓練を受けている人、断続的労働に従事する人などについて、都道府県労働局長の許可を得た場合に限り一定の減額が認められます。許可が出る前に減額して払うことはできず、申請から許可までには時間がかかります。対象や手続の詳細は記事末尾の公式ページで確認してください。