個人事業主が勤怠管理システムを入れる境目はどこか
結論から書きます。従業員が自分ひとりなら勤怠管理システムは要りません。他人を一人でも雇っていて、その人が働いている時間帯に自分がその場にいないなら、二人目を雇う前に入れたほうが結局安く済みます。境目は人数ではなく、締め日の集計を誰が手でやっているか、そして割増賃金の計算が毎月発生しているかです。順に切り分けていきます。
自分ひとりで働いている間は、記録の義務そのものがない
労働基準法は、人を雇う側が雇われる側に対して守るべきことを定めた法律です。事業主自身は守られる側ではないので、自分が何時から何時まで働いたかを記録する義務はありません。だから「個人事業主だからそろそろ勤怠管理を」という発想で製品を探し始めると、必要のない機能に毎月払うことになります。
例外は、稼働時間そのものがお金の根拠になっている場合です。客先に常駐する契約や、時間単価で請け負っている受託の仕事では、月末に稼働時間を報告しないと請求が立ちません。ただしこのとき欲しいのは「誰が出勤したか」ではなく「どの案件に何時間使ったか」です。求めているのは工数の記録で、勤怠管理システムとは別の道具です。ここを混同したまま契約すると、打刻はできるのに案件別の内訳が出せない、という使いにくさに突き当たります。
同居の家族だけに手伝ってもらっている場合は扱いが変わる
同居の親族だけを使っている事業には、労働基準法は適用されません。妻や息子に店を見てもらっていて、ほかに雇っている人がいないなら、労働時間の把握義務や割増賃金の話は生じません。この段階でシステムを入れる理由は、法律の側にはありません。
ただし税務の側には理由があります。専従者給与を出しているなら、その人が実際にどれだけ事業に従事していたかを説明できる状態にしておく必要があります。とはいえ必要なのは出勤簿程度の記録で、月ごとに出勤日と大まかな時間帯が残っていれば足ります。紙のノートで十分です。
注意すべきは、他人を一人雇った時点で前提が崩れることです。ほかの従業員と同じように指示を受け、同じような決め方で給料が決まっているなら、同居の家族でも労働者として扱われます。「家族だから今まで通り」と考えていると、割増賃金の未払いが家族の分だけ積み上がる形になります。
他人を一人雇った日から、何を残す義務が生じるか
アルバイトを一人雇えば、その日から使用者としての記録義務が始まります。労働時間は使用者が適正に把握しなければならず、原則はタイムカードやICカード、パソコンの使用記録といった客観的な方法です。本人の自己申告に頼るのは例外的な扱いで、その場合は申告された時間が実態と合っているかを確認する手間が別に発生します。
そのうえで、次のものを残して法定の期間保存します。
- 出勤簿など、日ごとの労働時間が分かる記録
- 賃金台帳(労働日数、労働時間数、時間外・深夜にあたる時間数を記載する)
- 年次有給休暇の管理簿
ここで押さえておきたいのは、義務は「記録すること」であって「システムを入れること」ではない点です。紙のタイムカードと手書きの賃金台帳でも法律上は成立します。だから雇い始めたからといって、すぐに契約する必要はありません。
紙とエクセルで足りるのはどこまでか
一人か二人、毎日ほぼ同じ時間帯に来て、自分もその場にいる。この条件がそろっているなら紙で足ります。締め日に見返すのが数枚で、時間外もほとんど出ないなら、電卓で終わる作業です。
崩れるのは、条件が一つでも外れたときです。シフトが日によってばらつくと、誰が何時間になっているかを月末まで誰も把握していない状態になります。深夜帯にかかると、深夜の時間数を分けて数える作業が毎月発生します。自分が別の現場に出ていて店を任せている時間があると、書かれた時刻が本当かどうか確かめる方法がありません。エクセルにすれば計算はできますが、行を足したときに数式の範囲が外れる、修正を上書きして前の値が消える、といった事故が起きます。しかも事故に気づくのは、たいてい本人から「先月の給料が足りない」と言われたときです。
導入に踏み切る分かれ目は人数ではない
見るべきは三つです。締め日に自分が手で集計していて、その作業に半日以上取られているか。時間外、深夜、休日にあたる勤務が毎月発生しているか。自分が見ていない時間帯に働いている人がいるか。
一つ当てはまるなら検討の段階、二つ以上なら入れたほうがいい段階です。理由は単純で、一つ目は自分の時間が毎月同じ量だけ消えるからで、二つ目は手計算のミスがそのまま未払い賃金になるからです。三つ目は、記録の正しさを自分で担保できないという意味で、あとから争いになったときにいちばん弱い状態です。逆に三つすべて「いいえ」なら、急ぐ理由はありません。
入れると決めたら、決める順番は三つ
最初に打刻の方法を決めます。従業員のスマホでやるのか、店に置いた共用端末なのか、現場で位置情報を使うのか。ここが現場に合っていないと、打刻漏れの修正申請が毎日届いて、かえって手間が増えます。人数が少ないほど、打刻の面倒さは「まあいいや」につながりやすい。
次に、給与計算との接続を確認します。給与を税理士や社労士に任せているなら、先方が受け取れる形式で出せるかを事前に聞いてください。ここを確認せずに契約すると、集計はできるのに毎月転記する作業が残ります。最後に料金です。少人数だと、一人あたりの単価よりも最低利用人数や基本料金の条件のほうが効いてくることがあります。最新の料金と条件は記事末尾の公式ページで確認してください。
入れないと決めたときに、あとで困らない残し方
紙で続けると決めたなら、原本を捨てないことだけは徹底してください。集計後のエクセルだけ残して打刻の原本を処分すると、金額の根拠を示せません。未払い残業を請求されたときや調査が入ったときに、記録が薄いほど本人の主張がそのまま通りやすくなります。
もう一つは、時刻を直したときの履歴です。打刻し忘れを後から書き足すのは実務上ありますが、誰がいつ何のために直したかをその場でメモしておかないと、あとから見て改ざんと区別がつきません。そして、二人目を雇う時期か、シフトを組み始める時期のどちらかを見直しのタイミングとして先に決めておく。人が増えてから移行すると、過去分の整理を抱えたまま新しい仕組みを覚えることになります。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
繁忙期だけスポットで知り合いに手伝ってもらう場合も記録が必要ですか
時間や場所を指示して働かせているなら、呼び方が「手伝い」でも雇用として扱われ、働いた時間の記録が必要になります。完全に成果物だけを頼んで進め方を任せているなら業務委託ですが、その場合は勤怠ではなく発注内容と納品の記録を残します。判断に迷うのは、指示の度合いが日によって変わるケースです。同じ人に毎月頼むようになったら、雇用として整理し直したほうが後から揉めません。
従業員が私物のスマホを使うのを嫌がる場合、打刻はどうすればいいですか
店やレジ横に置いた共用のタブレット、ICカード、暗証番号入力など、本人の端末を使わない打刻方法に対応した製品があります。私物のスマホを使わせる場合は、通信費や紛失時の扱いをあらかじめ本人と決めておかないと、あとで不満の種になります。どの打刻方法に対応しているかは製品ごとに違うので、契約前に必ず確認してください。
事業主である自分の労働時間も一緒に打刻して構いませんか
打刻しても差し支えはありませんが、それは法律上の労働時間の記録ではなく、自分の稼働を把握するための家計簿のようなものです。混ぜると、賃金台帳や出勤簿として出すときに従業員の記録と切り分けにくくなります。自分の稼働時間を請求根拠にしているなら、勤怠ではなく案件ごとの工数として別に記録したほうが使えます。