工場に人を入れる前月にそろえる勤怠の仕組み
従業員のいない工場で勤怠管理システムを調べ始める動機は、だいたい二つに分かれます。近いうちにパートか若手を入れるつもりがある。もう一つは、自分の作業時間を把握して見積の根拠にしたい。この二つは必要な機能がまったく違うので、先にどちらなのかを決めます。混ぜて選ぶと、労務にも原価計算にも使えないものが手元に残ります。
まず「誰の時間を記録するか」を決める
社長ひとりの法人で、打刻を法律上求められる相手はいません。役員は労働基準法でいう労働者ではないので、労働時間を把握して割増賃金を計算する対象から外れます。工場長を兼ねていて実態として指示を受けて働いているような場合は扱いが変わるため、登記と実際の働き方の両方を見る必要があります。いずれにしても、自分の分だけを記録するなら目的は労務ではありません。見積と原価のための記録です。
ところが実際の町工場では、人が「いない」と言いながら誰かが手を動かしています。繁忙期に近所の人へ半日来てもらう。配偶者が検品と梱包を担当している。外注の職人が自社の工場に常駐して機械を回している。このどれかがあるなら、記録する相手は自分だけではありません。短い時間でも人を使えば労働時間の把握と賃金台帳が必要になり、記録がないまま辞められると、後から主張された時間を否定する材料が手元にありません。
同居の親族は原則として労働基準法の適用から外れますが、他に労働者がいる場合や、仕事の指示と賃金の払い方が他の従業員と変わらない場合は労働者として扱われることがあります。ここは会社ごとの実態で変わります。家族に給与を払っているなら、労働基準監督署で一度確認しておいてください。先延ばしにすると、けがが起きた日に初めて考えることになります。
自分ひとりでも作業時間を残す価値はあるか
あります。ただし勤怠管理システムを買う理由にはなりにくい。ひとりの工場で時間を測る目的は、段取り替えを含めて一個の部品に何時間かかっているかを知ることです。図面を見て「前と同じくらい」で見積を出し続けると、材料の値上がりと段取りの手間だけが静かに利益を削ります。切削を始めた時刻と終えた時刻ではなく、材料を出してから片付けて図面をしまうまでを測らないと、数字は実際の負担と合いません。
この用途では、勤怠システムの打刻データはむしろ粗すぎます。欲しいのは受注番号ごとの時間で、出勤と退勤の時刻ではないからです。紙の作業日報でも、スマートフォンのメモでも、続けられる形なら足ります。発注元から工程の実績を聞かれる場面もありますが、そこで出すのも作業実績のほうで、出退勤の記録ではありません。
製造業の現場で引っかかるのはどこか
まず手です。切削油と鉄粉で汚れた手袋のまま、自分のスマートフォンを取り出して画面を触る人はいません。個人のスマホで打刻する方式は、事務所と現場が同じ建物にあっても定着しないことがあります。入口に据え置いた端末にICカードをかざす、あるいは暗証番号を押す方式なら、汚れた手のまま数秒で終わります。手袋を外さずに押せるかどうかは、契約前に実機で試してください。
次に回線です。鉄骨と機械に囲まれた工場の奥は電波が弱く、通信できない瞬間の打刻が受け付けられないことがあります。端末を置く場所を先に決めて、その位置で電波が立つかを確かめます。オフラインでも打刻を溜めておける製品もあるので、通信が不安なら仕様を確認しておくと、導入後に打刻機の場所を動かす手間が消えます。
三つ目は、機械の稼働時間と人の労働時間を同じ画面で管理しようとすることです。夜通し回している機械の稼働と、人が工場にいた時間は別物です。混ぜると、残業していないのに残業しているように見える記録ができあがり、あとで一件ずつ突き合わせる作業が発生します。
何を基準に選ぶか — 四つの分かれ目
一つ目は、記録する相手が自分だけかどうか。自分だけなら勤怠管理システムは要りません。二つ目は、人を雇う予定が具体的に見えているか。求人を出す前から用意しておくと、初日から打刻を始められます。逆に入社後に選び始めると、最初の給与計算を紙の記録から手で拾うことになります。
三つ目は、打刻する場所が工場の一箇所に固定されるか。据置端末で足りるなら、選べる製品の幅が広がり、個人のスマホを使わせる話をしなくて済みます。四つ目は、給与計算まで同じ画面で済ませたいか。人が数人までなら、勤怠の集計結果を給与ソフトに手で入れても大した手間ではありません。ここを欲張ると、使わない機能に毎月払い続けることになります。
紙・エクセル・クラウドを当てはめる
記録するのが自分の分だけなら、紙の日報かエクセルで足ります。後から思い出して書く記録は労務の証拠としては弱いのですが、対象が自分だけなら誰とも争いません。原価の把握が目的なので、受注番号と時間だけ埋まっていれば用は足ります。
人が一人でも入るなら、客観的な記録が残る方式に切り替えます。厚生労働省のガイドラインも、タイムカードやICカード、パソコンの使用記録といった客観的な記録を原則としています。クラウド型は最低契約人数や最低利用料の考え方が製品ごとに違い、一人分だけ使いたい会社は下限に当たることがあります。料金は変わるので、各製品の公式ページで確認してください。
工数まで一つで管理したい場合は、勤怠側ではなく生産管理側の製品を見ることになります。ただし両方を入れると同じ作業を二回入力する日が来ます。人の労務は勤怠で、部品ごとの時間は日報で、と役割を分けたほうが続きます。
入れる前に決めておく前提
締め日、休憩の扱い、端末の置き場所。この三つは製品を選ぶ前に決めます。締め日を給与の締めとずらすと毎月の集計が合いません。休憩は、機械が止まっている間に食事をとるような働き方だと、実際に手を離せた時間を後から説明できなくなります。昼と午後で何分ずつ取るのかを先に紙に書いてください。
もう一つ、打刻漏れを誰がどう直すかを決めておきます。一人社長の会社では、修正するのも承認するのも社長です。誰が直したか記録に残る製品なら、後から「勝手に書き換えた」と言われる余地が減ります。修正の理由を一行書く運用にしておくと、時間が経ってから見返しても事情が分かります。
人を入れる月に間に合わせる段取り
逆算します。初回の給与を払う日から数えて、その前に締めと集計があり、その前に一か月ぶんの打刻があり、さらにその前に労働条件を紙にする作業があります。始業と終業の時刻、休憩、残業の扱いが決まっていないと、勤怠システムの設定画面で手が止まります。設定項目はそのまま労働条件の写しです。
採用が決まったら、社長が自分で一定期間、試しに打刻してみてください。手袋のまま押せるか、電波が届くか、忘れやすい場面はどこか。ここで見つかる問題は、入社した人に説明する前に潰せます。初回の給与計算まで一度通しておけば、集計結果をどこから出すのかで慌てません。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
役員である自分の打刻記録は、どこかに提出する必要がありますか
社長自身の出退勤を役所に出す場面は通常ありません。ただし工場長を兼ねていて実態として指示を受けて働いている場合、労働者かどうかが争点になることがあり、そのときは記録の有無が判断材料になります。作業時間の記録は提出用ではなく、見積と原価を自分で確かめるために残すものと考えてください。
配偶者に手伝ってもらっているだけなら、打刻はいらないのでしょうか
同居の親族は原則として労働基準法の適用外ですが、他に従業員がいる場合や、指示の受け方と賃金の払い方が他の従業員と変わらない場合は労働者として扱われることがあります。判断は実態次第なので、給与を払っているなら所轄の労働基準監督署で一度確認しておくと確実です。労災保険の特別加入の扱いも合わせて聞いておくと二度手間になりません。
従業員が一人でも契約できる勤怠管理システムはありますか
契約自体はできる製品が多いですが、最低契約人数や最低利用料の考え方が製品ごとに違い、一人分だけ使う会社は下限に当たることがあります。料金体系は変わるので各製品の公式ページで確認してください。あわせて、無料お試し期間に工場の端末を置く予定の場所で打刻できるかを試しておくと、契約後の置き換えを避けられます。