一人社長に勤怠管理は要るか、判断は三つで決まる
先に結論を言います。社長ひとりで、従業員も家族従業員もいない会社なら、勤怠管理システムは入れなくていい。労働時間を記録する義務は「労働者」に対して発生するもので、役員である社長自身はその相手ではありません。判断が変わるのは、人を雇っているか、家族に給料を払っているか、外部に稼働時間を出す必要があるか。この三つのどれかに当たるときだけです。
社長ひとりの会社に、労働時間を記録する義務はあるか
労働基準法が労働時間の上限や割増賃金を定めているのは、雇われて働く人を守るためです。記事末尾の公式ページにある労働時間の把握に関するガイドラインも、対象は労働者で、把握する側は使用者。社長ひとりの会社では、その両方が同じ人になります。自分の労働時間を自分が把握して自分に残業代を払う、という構造は成り立たないので、義務そのものが発生しません。三六協定も休憩の付与も、相手がいなければ関係ない話です。
それでも勤怠管理システムを入れる人はいます。実際にどうなるかというと、朝スマホで打刻して、夜に打刻を忘れて、月末に自分の打刻漏れを自分で直す作業だけが増えます。誰も見ない記録が積み上がり、月額の請求だけが続く。これは効率化ではなく、仕事が一つ増えただけです。
ただし、記録がまったくのゼロでいいかというと、そこは場面によります。次で線を引きます。
分かれ目は三つ。自分がどれに当たるか
迷ったら、次の三つに当てはめてください。ひとつ目は、アルバイトやパートを雇っているか、または近いうちに雇うか。ふたつ目は、同居の家族に給料を払っているか。みっつ目は、発注元や補助金の関係で、自分や誰かの稼働時間を外に出す必要があるか。
この三つは、必要になる理由がそれぞれ違います。ひとつ目は法律上の義務、ふたつ目は勤務実態の説明、みっつ目は請求や報告の根拠です。理由が違うので、用意するものも違います。全部を勤怠管理システム一つで片付けようとすると、どれにも中途半端に合わない道具を選ぶことになります。
どれにも当たらないなら、ここで読むのをやめてもかまいません。導入は不要です。
アルバイトを一人雇った日から何が変わるか
人を一人でも雇えば、出勤簿・賃金台帳・労働者名簿を整えることになります。出勤簿には労働日ごとの始業と終業の時刻、休憩の状況が要る。賃金台帳には労働日数と労働時間数、時間外や深夜の時間数を書きます。ここでつまずくのは書式ではなく、月末に電卓で足す作業です。週に二日だけ来る学生を一人雇っているなら、紙の出勤簿にサインをもらう形で十分に回ります。
システムが要るかどうかを分けるのは、人数ではなく時間帯と場所のばらつきです。シフトが週ごとに変わる、夜の時間帯に食い込む、店と倉庫のように打刻する場所が分かれる、直行直帰がある。こうなると、締め日のあとに自分がタイムカードを並べて集計する時間が毎月発生します。その時間が一時間を超えるようになったら、道具を入れたほうが早い。逆に、来る曜日と時間が毎週同じアルバイト一人なら、紙のほうが速いままです。
もう一点。雇った人が来る日と自分が現場にいない日がずれると、打刻を誰も見ていない状態が生まれます。あとから「その日は実は一時間長く働いた」と言われたときに、確かめる材料が何もない。ここは人数の少ない会社ほど起きます。
家族に給料を払っている場合、何が変わるか
同居の親族だけを使っている場合、労働基準法は原則として適用されません。ただし実態で判断されます。ほかの従業員と同じように指示を受けて働き、働いた時間に応じて賃金が決まっているなら、親族でも労働者として扱われることがあります。家族だから何もしなくていい、と言い切れるわけではありません。
そして、家族に給料を払っている会社で記録を求められる理由は、実は労基法よりも税務の側にあります。勤務の実態があるかどうかが問われたときに、いつ何をしていたかを説明できるものが何もないと、給与として認められるかの話が長くなります。ここで要るのは打刻機ではなく、出勤した日と大まかな時間、その日にやった仕事が分かるメモです。カレンダーに書き込むだけでも成立します。
逆に、家族に役員報酬を払っていて労働時間と無関係に決めているなら、勤怠の記録は必要ありません。給与か報酬か、どちらの形にしているかで結論が変わります。ここは会社ごとに違うので、顧問税理士がいるなら先に確認してください。
近いうちに人を雇うなら、いつ契約するか
採用を考えているから今のうちに入れておく、という順番はおすすめしません。人がいない期間に払う料金の見返りがないからです。ただし、採用が決まってから初回の給与を締めるまでの期間は思っているより短い。求人を出す前に決めておくものと、決まってから動いていいものを分けておきます。
先に決めるのは、締め日と支払日、賃金の単位(時給か月給か)、そして打刻の場所です。この三つが決まっていないと、システムを選んでも設定できません。実際にありがちなのは、締め日を月末に置いたのに給与計算を回す日を作っておらず、初月から社長が夜中に集計する形になるパターン。道具より先に、月のどこで締めて、どこで払うかを決めてください。
もうひとつ。製品によっては契約できる最少の人数が決まっていたり、人数に関係なく基本料が発生する形になっています。ひとりまたは二人で契約できるか、人数が月によって増減したときにどう請求されるかは、最新の条件を公式ページで確認してください。
入れると決めたとき、料金と契約のどこを見るか
見るのは月額だけではありません。初期費用があるか、打刻用の端末やICカードを別に買う必要があるか、給与計算のソフトに数字を渡せるか、締め日を自社の締め日に合わせて設定できるか。特に締め日の自由度は後から効いてきます。締め日を製品側に合わせて変えると、給与の支払日も動かすことになり、雇っている人に説明が必要になります。
人の入れ替わりが多い業種なら、その月に働いた人数で課金される形のほうが管理が楽です。反対に人数が安定しているなら、年払いのほうが安くなる製品もあります。どちらが得かは自社の人の動き方で変わるので、契約前に「来年の同じ月に何人いそうか」を一度考えてください。金額は変わるので、記事末尾の公式ページで最新のものを見てください。
入れないと決めた人が、それでも残しておくもの
導入しないと決めた場合も、次の三つだけは当日のうちに残してください。あとから作った記録は、必要になった場面で説得力を持ちません。
- アルバイトや家族従業員の、日付・始業終業の時刻・休憩の記録(紙でもカレンダーでもよい)
- 自分の稼働のメモ。案件ごとにどれくらい時間を使ったかが分かる程度
- 外注先から受け取った作業報告や納品の記録
ひとつ目は、辞めたあとに未払いの残業を請求されたときに、唯一の材料になります。記録がない側は不利になりやすい。ふたつ目は法律のためではなく経営のためで、月にどれだけ自分の時間を食っている仕事かが分からないと、値上げも外注も判断できません。「忙しいのに残らない」の原因は、たいていここを測っていないところにあります。
そして三つ目。委託先の出退勤を管理し始めると、契約の形と実態がずれていく方向に寄ります。時間ではなく成果物で記録を残す。この線は最初に引いておいたほうが、あとで直すより楽です。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
社長ひとりでも、自分の出勤の記録を残しておいたほうがいい場面はありますか
労災の特別加入を検討するときや、自宅の一部を事務所として使っていて按分の根拠を説明するときには、いつどこで働いていたかの記録が話を早くします。ただし打刻の形式は問われないので、手帳やカレンダーに残す程度で足ります。勤怠管理システムを契約する理由にはなりません。
配偶者が役員になっている二人法人の場合はどう考えますか
役員だけの会社なら、労働時間の把握義務の対象になる人はいません。ただし役員でありながら従業員としての仕事もして、その分の給与を受けている扱い(使用人兼務役員)にしている場合は、従業員部分について労働時間の記録が必要になります。どちらの扱いにしているかは登記や報酬の決め方で変わるので、顧問税理士に確認してください。
業務委託で人に手伝ってもらっています。勤怠管理は必要ですか
委託先の始業終業を指示して管理し始めると、契約書の名前とは別に労働者として扱われる方向に寄ります。記録は出退勤ではなく、何を納品したか・いつ検収したかで残してください。稼働時間で精算する契約なら、作業報告書を相手から出してもらう形にしておくと、管理しているという形が残りません。