会計ソフト 製造業|原価と棚卸で決める選び方
製造業で社長ひとり、旋盤や板金の機械を自分で回している。会計ソフトの比較を読んでも飲食や小売の例ばかりで、材料在庫や外注加工の話が出てこない。ここで先に言っておくと、この業種でソフト選びを左右するのは機能の数ではなく、原価と在庫をどこまで帳簿に載せるかという自分側の方針です。順番に決めていきます。
原価をどこまで帳簿で追うかを先に決める
製造業の帳簿が小売と決定的に違うのは、仕入れたものがその月に売上へ変わらないところです。月初に鋼材を仕入れ、削って、翌月に納品し、入金はさらにその先。仕入をそのまま経費にして在庫と仕掛品を無視すると、材料をまとめ買いした月は大赤字、納品が重なった月は大黒字という数字が出てきます。その数字で「今月は余裕がある」と判断すると、支払いの山を見落とします。
追い方はおおまかに三段階あります。期末に材料と仕掛品を数えて在庫だけ計上する形、製造にかかった外注費や工場経費を分けて製造原価報告書まで作る形、製品ごとや工程ごとに原価を出す形。ひとりの加工屋なら現実的なのは前の二つです。三段階目は原価計算の入力そのものが一日仕事になり、機械を止めてまでやる価値があるかは怪しい。ただし取引先に加工賃の改定を申し入れる予定があるなら、二段階目までは組んでおいたほうがいい。材料と外注が上がったという話を、帳簿の数字なしで通すのは難しいからです。
月末に在庫を数えるか、年に一度でいいか
この答えが、会計ソフトに求める機能をほぼ決めます。年に一度だけなら、どのソフトでも標準の機能で足ります。期末在庫を一行入れるだけの作業です。一方、毎月銀行に試算表を出している、あるいは月ごとの利益を見て仕事を受けるかどうか決めている場合は、月末在庫の金額を毎月入れることになります。
ここで在庫管理システムと会計ソフトを連動させたくなりますが、材料の種類が数十点あるだけでも棚卸は半日かかります。毎月それを正確にやろうとして止まった会社をよく見ます。現実的なのは、材料は主要な数品目だけ重さや本数で押さえ、仕掛品は未納品の注文に投入した材料費と外注費を拾って概算する。その合計金額を会計ソフトに手で入れる。連動を諦めるかわりに毎月続く形にする、という割り切りです。
材料代と外注加工費が同じ口座から出ていく問題
ひとりでやっていると、鋼材屋への振込、ネジやドリルの通販、外注先への支払い、運送会社の代引き、これが全部同じ口座とカードから出ます。通帳を後から見ても、どれが材料でどれが工具か区別がつきません。だから銀行やカードの明細を取り込めるソフトを選ぶ意味は、入力が楽になることよりも、取引先名から科目を自動で振り分けるルールを積み上げられることにあります。
ただし振り分けの線引きは自分で決めておく必要があります。刃物や砥石は消耗品なのか、使う期間が長い工具は資産なのか。工場で使う手袋や潤滑油を工場消耗品として別科目にするのか、事務用品と一緒にするのか。決めずに取り込みを始めると、決算前に一年分の明細を開いて記憶を頼りに直す作業が発生します。最初の一か月で科目を決めてルール登録し、あとは触らない。これが一番手間が少ない。
機械とリース、償却をソフトが持ってくれるか
製造業は設備の金額が大きく、償却の計算が利益に直接効きます。固定資産台帳がソフト本体に入っているのか、上位の契約でないと使えないのかは、契約前に確認してください。台帳がないと、機械ごとの取得日と残存額をエクセルで別管理することになり、決算のたびに突き合わせが必要になります。料金や含まれる機能は変わるので、最新の内容は記事末尾の公式ページで確かめてください。
もう一つ、機械をリースで入れている場合は処理が契約の種類で分かれます。契約書の中身を見ないと決められないので、ここはソフトの機能で解決する話ではなく、契約書を持って税理士に聞く話です。あわせて、市町村に出す償却資産の申告に使う一覧が台帳から出せるかも見ておくと、年明けの作業が一日縮みます。
図面付きの注文書と検収書をどう保存するか
製造業でやっかいなのは、取引先ごとに書類の来方が違うことです。大手からは発注システムにログインしてPDFをダウンロード、古い付き合いの町工場からはFAXの手書き、間に入る商社からはメール添付。検収書や支給材の受領書も混ざります。メールやシステム経由で受け取ったものは電子データのまま保存する扱いになるため、印刷してファイルに綴じるだけでは要件を満たしません。
ソフト選びで見るのはこの点です。
- 受け取った注文書や請求書のPDFを会計ソフト内に保存できるか、別のサービスが必要か
- 日付・金額・取引先名で後から探せるか
- 保存できる容量やファイル数に制限があるか
- 紙で来たものをスキャンして入れる場合の扱い
要件の詳しい内容は記事末尾の公式ページに整理されています。青色申告で残す帳簿の種類も同じところで確認できます。
三つの選択肢に当てはめる
ここまでの方針が決まっていれば、選択肢は三つに絞れます。一つ目は銀行とカードの明細取り込みを軸にしたクラウド型。口座から材料代と外注費が細かく出ていく会社ほど効きます。税理士と同じ画面を見ながら決算の相談ができるのも実務では大きい。二つ目はパソコンに入れて使う従来型。工場のネット環境が不安定でも動き、決算書や製造原価報告書の帳票が最初から揃っているものが多い。三つ目は、顧問税理士が使っているソフトに合わせる形です。
三つ目を軽く見ないほうがいい。ひとりの会社では、決算の実作業を税理士に投げられるかどうかが、年末年始に工場を止めるかどうかを決めます。事務所側がデータを受け取れない形式だと、こちらで出力して渡す手間が毎期発生します。先に「うちのデータはどの形で渡せばいいか」を聞いてから決めると、あとで揉めません。
乗り換えるなら期首、最初の月にやること
期の途中で切り替えると、前のソフトと新しいソフトの両方に残高を入れることになり、決算で必ず突き合わせが必要になります。固定資産台帳の移し替えも二度手間です。今のやり方で今期を終わらせて、新しい期の初日から新しいソフトに入れる。これが一番安全です。
最初の月にやる作業は決まっています。期首の残高と在庫金額を入れる、機械と車両を固定資産台帳に登録する、材料仕入や外注加工費といった自社に必要な科目を足す、口座とカードを連携して振り分けルールを作る。ここまで済ませれば、あとは月末に通帳を見て確認するだけの運用になります。逆にこの初期設定を飛ばすと、翌年また同じ悩みで比較記事を読むことになります。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
期末の棚卸をずっとやっていません。今から始めても間に合いますか
材料と仕掛品が残っている状態なら、まずは今期末から数え始めてください。前期末の在庫が帳簿になければ、今期の利益が実態より低く出るか高く出るかのどちらかになります。過去の分をどう扱うかは税理士と相談が必要で、会計ソフトの機能では解決しません。数えた紙のメモは写真でも残しておくと、後から根拠を聞かれたときに困りません。
製造原価報告書は、社長ひとりの会社でも作ったほうがいいですか
税務申告の上で必ず求められるものではありませんが、加工賃の値上げを取引先に説明するときと、銀行に設備資金を相談するときに効きます。作るなら、電気代や工場の家賃を製造分と事務分に分ける基準を先に決めてください。基準は毎期同じものを使うことが前提で、年ごとに変えると比較できなくなります。
中古の機械を買った場合、償却の計算までソフトがやってくれますか
耐用年数を入力すれば計算自体はソフトが持ちますが、中古資産の年数の決め方は使用済み期間によって変わるため、最初の登録値は自分で判断するか税理士に確認する必要があります。ここを間違えると毎期ずれ続けます。売買契約書と、いつから工場で動かしたかのメモを台帳の登録時に紐づけておいてください。