ECの電子帳簿保存法 会計ソフト確認点
ネットショップを運営していると、注文データも領収書も入金明細も、ほとんどが画面上のデータでやり取りされます。紙の書類が少ないぶん「電子帳簿保存法の対応は会計ソフトを入れれば終わる」と思われがちですが、実際にはソフトが受け持つ範囲と、自社で決めるルールの範囲がはっきり分かれます。ここを確認しないまま導入すると、期末に「この明細はどこに保存したのか」で手が止まります。
ECで問題になるのは「電子取引」の量
電子帳簿保存法には、帳簿を電子で作る話、紙の書類をスキャンする話、そして電子でやり取りしたデータをそのまま残す話が含まれます。ECで負担が大きいのは三つ目です。モールの管理画面からダウンロードする売上明細、決済代行会社の入金明細、仕入先からメールで届く請求書のPDF、広告費やシステム利用料の領収書。どれも紙では届きません。
件数が多いうえ、発行元が分かれているのがECの特徴です。保存場所がバラバラのまま増えていくと、後から探せなくなります。会計ソフトを選ぶときは、仕訳の入力しやすさよりも先に、この散らばったデータをどこに集めるかを考えてください。
会計ソフトに確認すべきこと
電子取引データを保存する機能があるか
仕訳にファイルを添付できるだけの機能と、書類を保存する場所として設計された機能は別物です。仕訳に紐づかない書類(発注段階の見積書など)も置けるか、確認してください。
取引年月日・金額・取引先で探せるか
保存したデータは後から探せる状態にしておく必要があります。ソフト側の検索窓で三つの条件から絞り込めるのか、それともファイル名を自分で整える運用になるのかで、日々の手間がまったく変わります。
訂正や削除の扱いをどうするか
データを後から書き換えられない仕組みを使うか、社内で事務処理のルールを定めて運用するかの二通りがあります。ソフトが前者に対応していない場合は、自社でルールを作る前提になります。どちらを選ぶかで準備する書類が変わるため、契約前に聞いておくところです。
保存できる件数や容量に上限があるか
ECは少額の取引が数多く積み上がります。プランごとに保存できる範囲が決まっていることがあるので、最新の条件は公式ページで確認してください。
解約したときにデータを取り出せるか
書類の保存には決められた期間があり、その間に会計ソフトを乗り換える可能性は十分あります。まとめてダウンロードできるかどうかは、導入時に確認しておく数少ない「後戻りできない論点」です。
モールや決済代行のデータをどう取り込むか
売上のCSVを取り込めるソフトは多いのですが、粒度が合うかは別問題です。注文ごとに取り込むのか、日ごとの合計で取り込むのか。決済手数料が差し引かれて入金される場合に、売上と手数料を分けて記録できるのか。ここが合わないと、取り込んだあとに毎月手作業が発生します。
あわせて、インボイス制度に関係する情報も見ておきます。仕入先の登録番号を取引先ごとに登録しておけるか、税率が混在する取引を分けて集計できるか。ECは仕入先も広告媒体も数が多いため、一件ずつ手で判断していると続きません。
進め方は「洗い出し」から
いきなりソフトを比較するより、先に自社が電子で受け取っている書類と発行している書類を並べたほうが早く決まります。並べてみると、会計ソフトで受け止められるものと、別のフォルダ運用で足りるものが見えてきます。
保存の運用は担当者が替わっても続く形にする
洗い出しが終わったら、どこに何を保存するかを一枚にまとめてください。頭の中で運用していると、担当者が替わった時点で崩れます。ECは発行元が多いので、覚えている人がいなくなると、探す手がかりも失われます。
書くのは三つです。どこから受け取るデータか、どこに保存するか、いつ保存するか。三つ目が抜けやすく、「あとでまとめて」にすると溜まります。売上の明細なら月初に前月分をまとめて取る、というように日を決めてください。
モールや決済の会社の管理画面は、過去のデータを見られる期間が決まっていることがあります。期間を過ぎると自分でも取り出せなくなるので、その周期より短い間隔で保存する運用にしておいてください。
広告費と少額の支払いが抜けやすい
売上と仕入れは意識して残しますが、広告の費用やアプリの利用料は見落とされます。金額が小さく、明細もメールで届くだけだからです。件数が積み上がると、決算のときに合わないところとして残ります。
支払いに使うカードを事業用の一枚に寄せると、少なくとも支払いの事実は明細で追えます。そのうえで、領収書のデータをどこに置くかを決めてください。カードの明細だけでは、書類を保存したことにはなりません。
料金は保存の使い方で変わる
会計ソフトの料金は、仕訳の機能だけでなく、保存できる範囲や連携できるサービスの数で段階が分かれることがあります。ECの取引量は途中で増えやすいので、今の件数だけでなく一段上のプランの条件も見ておくと判断しやすくなります。
返品と相殺の処理を先に決める
ECでは返品やキャンセルが一定の割合で発生します。売上を取り消す処理をどう記録するかを決めていないと、月ごとの売上が実態とずれます。とくに、月をまたいで返品が起きたときの扱いは先に決めておいてください。
決済の会社からの入金が、手数料や返金を差し引いた金額で届く場合も同じです。差し引かれた後の金額だけを記録すると、売上そのものが小さく見え、手数料の負担も見えなくなります。総額で売上を立てて、差し引かれたものを別に記録する形にしてください。
在庫を持つなら期末に数える
仕入れた商品のうち、売れ残っている分は在庫です。数えていないと、その期の利益が実態からずれます。ECは商品の種類が多くなりがちで、数える作業自体が負担になります。
全部を同じ精度で数える必要はありません。金額の大きいものから順に、上位のいくつかを丁寧に数えて、残りは概算にする。続けられる形にするほうが、完璧を目指して一年でやめるより正確です。倉庫を外部に預けているなら、預け先が出す在庫の一覧を使えることもあります。
まとめて対応しようとしない
保存の要件、インボイスの対応、在庫、返品。一度に全部を整えようとすると、どれも中途半端になります。件数が多くて負担が大きいものから順に手を付けてください。
多くのショップでは、いちばん重いのは売上と入金の取り込みです。ここが自動で流れるようになるだけで、月末の作業はかなり軽くなります。その次が電子で受け取る書類の保存先を一箇所に決めること。この二つが片付いてから、細かい論点に進んでも遅くありません。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
モールの購入者に発行した領収書も保存の対象になりますか。
自社が電子で発行した領収書や請求書は、発行した側にも控えの保存が求められます。モール側の管理画面に残るからといって自社で保存しなくてよいとは限らないため、記事末尾の公式ページで対象範囲を確認してください。
決済代行会社からの入金明細は、帳簿と書類のどちらとして扱えばよいですか。
入金明細そのものは電子的に受け取った取引情報として保存し、その内容をもとに売上と手数料を帳簿に記録するのが基本です。会計ソフトに取り込む場合も、元の明細データを別に残せるかを確認しておくと安心です。
紙で届いた納品書は必ずスキャンして電子化しないといけませんか。
紙で受け取った書類は紙のまま保存する方法も認められており、スキャンして保存する場合に追加の要件がかかる形です。EC特有の大量の電子データとは扱いが分かれるので、混ぜて考えないようにしてください。