インボイス対応の会計ソフト、どの機能で選び分けるか
インボイスに対応するために会計ソフトを見直すとき、機能一覧を横に並べて比べても決まりません。決まらない理由ははっきりしていて、自社が「発行する側」で困っているのか「受け取る側」で困っているのかを分けずに見ているからです。ここを先に切り分けると、見るべき機能は半分以下に減ります。
発行で困っているのか、受け取りで困っているのか
発行側の手間は、請求書の様式と計算のところに集中します。登録番号を載せる、税率ごとに分けて合計を出す、消費税額を書く。これは一度形を作ってしまえば、あとは毎月同じものが出ていくだけです。テンプレートを直す作業であって、日々の判断はほとんど発生しません。
厄介なのは受け取り側です。届いた請求書や領収書を一枚ずつ見て、登録番号があるかないかを確認し、ない相手の分は控除できる金額が変わる。ここは毎日発生し、担当者の判断が入り、間違えると決算のときに消費税の申告額が合わなくなります。外注先に一人親方やフリーランスが多い建設業や制作業なら、負担は完全に受け取り側に寄っています。逆に、店頭でお客さんから現金をもらうだけの商売なら、発行側の要件を満たすレシートが出れば会計ソフトに求めるものは少ない。
選び分けの軸は三つしかない
一つ目は、取引先のなかに登録していない相手がどれくらい混じるか。全員が登録済みなら、仕入の仕訳はほぼ一律の処理で済み、ソフトに求めるのは登録番号を取引先マスタに持てることくらいです。混在しているなら話は変わって、仕訳ごとに区分を切り替える必要が出ます。この切り替えを取引先マスタの設定で自動化できるかどうかが、月末の作業時間をそのまま左右します。
二つ目は、請求書が何経路から入ってくるか。紙、メールのPDF、取引先の専用サイトからのダウンロード。経路が三つあると、保存場所も三つに割れます。三つ目は、経理を誰がやるか。社長が夜に自分でやるのか、パートの経理担当がいるのか、税理士が月次でまとめて入力するのか。税理士に丸投げしているなら、税理士側が使っているソフトと同じにしたほうが、データの受け渡しでもめません。
受け取り側でほんとうに効く機能はどれか
まず、取引先ごとに登録番号を登録しておけること。そして、その番号を持たない取引先を選んだときに、仕入の仕訳が自動で別の区分に落ちること。この二つが揃っていないと、経理担当が請求書を見ながら毎回頭のなかで判断することになります。人が判断する限り、忙しい月にはかならず取りこぼしが出ます。
次に、登録していない相手からの仕入について、経過措置で控除できる分を自動計算すること。手で計算しようとすると、電卓を叩いた結果を仕訳に打ち込むことになり、後から検算ができません。決算のときに消費税額が合わず、どの仕訳が原因か探して一日潰す。これが一番起きやすい事故です。
もう一つ、番号の照会機能があると効きます。取引先マスタの番号をまとめて公表サイトに照会し、無効になっているものを教えてくれる仕組みです。登録の取消は起こりうるので、こちらが古い番号のまま処理し続けていると、控除できないはずの分を控除していたことになります。
発行側は、登録番号より端数処理でつまずく
登録番号を印字する機能はどのソフトにもあります。実際に問い合わせが増えるのは端数の処理です。税率ごとに一度だけ端数を処理する、というのが決められた形で、明細行ごとに切って合計するやり方は認められていません。ところが、以前から使っている受発注システムや業種別のレジは、行ごとに消費税を計算して積み上げている作りのものがあります。そのデータを会計ソフトに取り込むと、請求書の合計と帳簿の金額が数円ずれる。金額は小さくても、毎月続くと入金消込のたびに差額を追うことになります。
値引きや返品を後から出す場合の返還インボイスも、発行側の論点です。売上の締めが終わったあとに単価訂正が入る商売なら、マイナスの請求書を正しい様式で出せるかを確認してください。一定金額に満たない返還は交付が不要とされていますが、その線引きは記事末尾の公式ページで確認したほうが確実です。
電子帳簿保存法と一緒に見ないと二度手間になる
メールにPDFで届いた請求書は電子取引に当たるので、印刷して紙のファイルに綴じるだけでは保存したことになりません。データそのものを、決められた検索のしかたができる状態で残す必要があります。インボイスの対応だけを考えて会計ソフトを選び、証憑の保存を別の共有フォルダで運用すると、番号の確認は会計ソフト、現物はフォルダ、という二か所を見る運用になります。税務調査で「この仕訳の請求書を出してください」と言われたときに、探すのに時間がかかるのはこの形です。
だから、仕訳に証憑ファイルを直接ひも付けられるか、取引年月日・取引先・金額で検索できるかを、インボイス対応の機能と同じ画面で見てください。保存できる容量に上限があるソフトもあるので、請求書の枚数が多い会社は最新の条件を公式ページで確かめておく。ここは会社によって必要な容量がまるで違います。
今のソフトを続けるか、替えるか
結論から言うと、今のソフトで取引先ごとの登録番号が持てて、番号なしの相手の仕訳が自動で区分されるなら、替える必要はありません。インボイスへの対応はどのソフトも済ませていて、そこで大きな差はつかないからです。差が出るのは、証憑の保存と、銀行やレジからのデータ取り込みのほうです。
替えるべきなのは、紙の請求書を見ながら手入力していて、その入力自体が毎月何日も潰している場合。あるいは、経理を任せたい相手が別のソフトしか触れない場合です。乗り換えるなら期首に合わせるのが原則で、期の途中で切ると、前半と後半で消費税の集計方法が変わって決算がややこしくなります。残高と補助科目は引き継げないことがあるので、移行前に手元に控えを出しておいてください。料金は改定されるので、最新の金額は各社の公式ページで確認してください。
切り替える前の一週間で片付けること
やることは多くありません。まず、外注先と仕入先の一覧を出して、登録番号を持っている相手と持っていない相手に印を付けます。番号を聞いていない相手には、この機会にまとめて依頼を出す。個別に思い出したときに聞くやり方だと、必ず何社か抜けます。
そのうえで、次の点だけは新しいソフトの体験版で実際に触って確かめてください。
- 取引先マスタに登録番号を登録し、その相手の仕入仕訳が意図した区分で計上されるか
- 登録番号のない相手からの仕入で、控除できる額が自動で計算されるか
- メールで届いたPDFを仕訳にひも付け、取引先名で検索して呼び出せるか
- 税率ごとの集計表を出して、申告に使える形になっているか
この四つが通れば、あとは日々の入力に慣れるだけです。逆に、どれか一つでも人の手作業が残るなら、その作業が毎月何回発生するかを数えてから決めてください。月に数回なら我慢できますが、毎日発生するなら半年で担当者が音を上げます。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
取引先の登録番号は、どうやって確認すればいいですか
国税庁の公表サイトで番号を照会できます。会計ソフトや請求書ソフトによっては、取引先マスタの番号をまとめて照会し、結果を一覧で返す機能を持つものがあります。番号は取消や失効で状態が変わることがあるため、登録時に一度確認して終わりにせず、決算前などに再照会する運用にしておくと安全です。
家賃の口座振替のように請求書が届かない取引はどう扱いますか
契約書に登録番号や税率の記載があり、実際の支払いが通帳で確認できれば、複数の書類を合わせて要件を満たす扱いができます。契約書が古く番号の記載がない場合は、貸主から番号の通知書をもらって契約書と一緒に保存します。会計ソフト側では、その通知書を該当の仕訳に添付できるかを見ておくと、後から探す手間が消えます。
自動販売機や公共交通の少額支出も、いちいち保存が要りますか
帳簿への記載だけで足りる類型が定められていて、実務では出張の交通費などがこれに当たります。ただし金額の基準や対象の範囲は条件が細かいので、記事末尾の公式ページで最新の要件を確認してください。会計ソフト側では、この類型を選ぶと保存不要と判定してくれる区分があるかを見ておくと、経費精算の差し戻しが減ります。