税制改正の年、一人社長はどこだけ読めばいいか
税制改正のニュースが流れるたびに、概要資料を頭から読む必要はない。社長ひとりの会社で実際に手を動かすのは、毎年だいたい同じ数か所だ。問題は内容よりも順番で、後回しにすると期が始まった時点で選び直せなくなるものがある。
一人社長の会社で、改正が実際に効いてくるのはどこか
改正の概要資料はページ数が多いが、中身の大半は大企業向けの国際課税や、特定の業種に向けた優遇だ。従業員のいない会社に関わるのは、自分に払う役員報酬にかかる所得税と住民税、法人税の中小企業向け特例が今期も使えるか、消費税の課税と免税および届出、それに経費として落とせる範囲の線引き。この四つを押さえれば、残りは読まなくても実務は回る。要件を満たす場面が一生来ない制度を読み込んでも、判断は何ひとつ変わらない。
逆に、見落とすと後から戻せないものが二つある。役員報酬と、設備を発注する時期だ。役員報酬は事業年度が始まってから決められた期間を過ぎると原則として動かせず、期の途中で増やした差額は損金にならない。設備は、取得した日や事業に使い始めた日によって、使える特例が変わる。決算が近づいてから慌てて調整するやり方が通らない項目から先に見る、というのがこの記事の順番の理由だ。
どの順番で見るか — 期限が先に来るものから
順番を決める基準は、制度の重要度ではない。いつまでに決めないと選択肢が消えるか、である。期首に決める役員報酬が最初、次に期中の買い物と経費の扱い、それから決算と申告で選ぶ特例、最後に年末調整や源泉徴収の実務。後ろのものは、様式や解説が出そろってから取りかかっても間に合う。
この順で見ると、改正の解説記事を毎日追いかける必要もなくなる。今週決めなければならないことだけ調べる形になるからだ。反対に「新しく創設された制度」から読み始めると、自社では要件を満たせない制度の細かい条件を眺めて終わり、肝心の役員報酬を前期のまま流してしまう。
役員報酬は、前期と同じ額でいいのか
所得税側の控除や社会保険の料率が動くと、報酬額が同じでも、会社と個人を合わせた手元の残り方が変わる。だから改正があった年は、前期と同額を惰性で続ける前に一度だけ計算をやり直す。会社に利益を残すのと個人で受け取るのとで有利不利が入れ替わる分岐点は、去年と同じ位置にあるとは限らない。
期首を過ぎたら直せない。毎月同額という形から外れると、増やした分が損金にならず、法人税でも所得税でも取られる二重の負担になる。改正の内容が固まる前に期首が来る会社は、方針が示された段階の情報で仮に決め、確定後に修正の必要があるかを見る流れになる。決算月が施行時期と近い会社ほどこの調整が面倒なので、そこは早めに顧問へ投げたほうがいい。
去年使っていた特例は、今期も残っているか
中小企業向けの制度は、適用できる期間が区切られているものが多い。改正では、延長されるか、要件が追加されるか、対象が絞られるかのどれかが起きる。つまり改正の年に確認すべきは新設された制度ではなく、去年使った制度がまだ生きているかどうかだ。少額の資産を買った年に費用として処理できる特例、設備投資に対する特別償却や税額控除、赤字の繰越、交際費の扱いあたりが、毎年名前の挙がる場所になる。
パソコンや車を買う前に、その特例が今期も使えるかを見る。期限が切れた後に買えば、同じ買い物でも費用になる年がずれ、期の利益の見込みが崩れる。もうひとつ、要件の側に規模や株主構成の条件が入っている制度がある。増資した会社や、他社が株主に加わった会社は、自社がまだ中小企業向け制度の対象に入るのかを改めて確認しておく。ここを見ないまま申告して、後から対象外だったと分かる例がある。
消費税とインボイスで変わった部分をどう拾うか
小規模な事業者向けの負担を軽くする措置や、簡易課税の届出の扱いは、改正で手が入りやすい領域だ。免税から課税に変わる、あるいは戻るという判断は、届出をいつ出したかで決まる。期が変わる前に決めておかないと、選べたはずの計算方法がその年は使えない。届出は出し忘れても救済がないため、期首の役員報酬と同じタイミングでカレンダーに載せておくのが現実的だ。
請求書の記載事項に変更が入った年は、自社が出す請求書の様式と、受け取る請求書のチェックの両方に影響する。発行側だけ直しても、仕入税額控除で困るのは受け取り側の管理だ。取引先から届いた請求書に必要な記載が欠けていたときに、だれが電話して差し替えをもらうのか。一人の会社なら、その作業時間も自分の月末に乗ってくる。
会計ソフトは、どこまで自動で追いつくか
税率表や申告様式はアップデートで入ってくる。ただし消費税の計算方式や償却方法、勘定科目の割り当ては自社で選ぶ設定なので、ソフト側が対応済みと案内していても、設定画面を開いて確かめないと反映されない。そのまま放置すると、去年の設定で一年分が集計され、決算のときに数字の根拠を追い直す作業が発生する。
更新の時期が法律の施行と一致しないこともある。仕様が確定してから実装されるまでに時間がかかるためで、切り替え直後の伝票はしばらく手で確認する前提にしておく。年末調整の様式が変わる年は、社長ひとりでも自分の分の書類を作ることになる。扶養や保険料控除の申告書を自分から自分に出す形なので、様式変更の有無は秋のうちに見ておくと年末が静かになる。
どこから人に聞くか
一次資料は記事末尾の公式ページにある。中小企業向けの税制の一覧と、その年の改正の概要が並んでいる。読み方としては、自社が使っている制度名で当たりをつけて、その箇所だけ読む。通読しても、自社に効く行に線を引く判断はできない。制度名が分からないときは、前年の申告書の別表や添付書類に書かれた名称をそのまま手がかりにする。
顧問税理士がいるなら、今期の役員報酬をどうするか、今期に買う予定の設備、消費税の届出、この三点を具体的に持っていく。「改正で何か変わりましたか」と抽象的に聞くと一般論が返ってきて、自社の判断材料にはならない。顧問がいない場合は、決算月の手前でスポットで見てもらうほうが、申告直前に駆け込むより打てる手が多い。申告の段階まで来ると、選択の期限が過ぎている項目がいくつも出てくる。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
改正の内容は、大綱が出た時点で確定しているのですか
大綱は方針の段階で、法律として成立するまでに内容が変わることがあります。発注や届出のように後戻りできない判断は、成立後の情報で最終確認してください。ただし期首の役員報酬のように成立前に決めざるを得ないものは、大綱段階の内容で仮に決めて、後から修正の必要があるかを見る形になります。
従業員がいない一人社長でも、賃上げに関する税制は関係しますか
賃上げを支援する制度は、雇っている従業員の給与を対象にしています。役員である社長自身の報酬や、役員の家族の給与は対象から外れる作りなので、社長ひとりの会社では使う場面が来ません。人を雇う予定が立った年に、雇用関係の助成金とあわせて見れば十分です。
会計ソフトを使っていれば、改正への対応は自動で済みますか
税率表や申告様式はアップデートで入りますが、消費税の計算方式や償却の選択といった自社固有の設定は自分で選ぶ項目です。対応済みと案内されていても設定画面を開いて確認してください。実装が施行に少し遅れることもあるため、切り替え直後の伝票は手で確かめる前提で見ておくと安全です。