個人事業主の中小企業経営強化税制、使えるか見極める順番
中小企業経営強化税制は法人だけの話だと思われがちですが、青色申告をしている個人事業主も対象に入ります。問題は順番です。設備を先に買ってしまうと、要件を満たしていても使えないことがある。ここでは見積を取り始めた段階で確かめておくことを、判断の順に並べます。
個人でも対象になるのか、最初に落ちる条件はどこか
この制度の対象は青色申告書を提出している中小企業者等で、そこには個人事業主も含まれます。逆に言えば、白色申告のままでは入口に立てません。今まで白色で通してきた人が「今年の設備投資で使いたい」と思っても、青色申告の承認申請には出せる時期が決まっているため、その年分から間に合わないことがあります。まだ白色なら、設備の話より先に申請時期を確認してください。
次に業種です。制度が使える事業は指定されていて、外れている業種があります。もうひとつ、個人事業主で引っかかりやすいのが貸付用の資産です。自分の事業で使うのではなく、他社に貸して賃料を得る目的の設備は対象になりません。所有している建物に置く設備でも、テナントに使わせるためのものなら扱いが変わります。「誰が使う設備か」を最初にはっきりさせておかないと、証明書まで取ってから振り出しに戻ります。
買おうとしている設備は、そもそも対象の種類に入るか
対象になるのは機械装置、器具備品、工具、ソフトウェア、建物附属設備といった区分で、それぞれに最低取得価額の線が引かれています。金額は改正で動くので、記事末尾の公式ページで最新の数字を確認してください。合わせて、新品であることが前提です。中古で状態の良い機械を安く入れる計画なら、この制度では拾えません。
相談が多いのは車両です。営業車やトラックを想定して問い合わせてくる人がいますが、車両の扱いは制度によって違い、経営強化税制で見るのか、中小企業投資促進税制の側で見るのかで結論が変わります。同じ「設備投資の優遇」という言葉でひとくくりにしないこと。ディーラーの営業担当が税制の話をしてくれる場合もありますが、最終的な当てはめは自分の申告を見ている税理士に確認するほうが確実です。
証明書と計画認定、どちらから動かすか
手続きの実体は二本立てです。ひとつは設備が要件を満たしていることを示す書類で、類型によって工業会などの証明書を取る道と、公認会計士・税理士の確認を経て経済産業局の確認書を取る道に分かれます。もうひとつが経営力向上計画の認定です。時間がかかるのはほぼ前者で、メーカーに証明書の発行を依頼して手元に届くまで数週間かかることも珍しくありません。見積を頼むときに「この型式で証明書は出ますか、どれくらいで届きますか」と一緒に聞いてしまうのが早い。
そして原則は、計画の認定を受けてから設備を取得することです。ここを逆にすると、要件をすべて満たしていても対象外になります。取得後に申請する例外的な取り扱いもありますが、期限が短く、間に合わなければそれで終わりです。納期の都合で先に発注したくなる場面は必ず来ますが、認定書が出るまでは契約日と納品日を動かせる状態にしておいてください。
取得した年と使い始めた年がずれると使えない
個人事業主の計算期間は暦年です。ここが法人と違って厄介なところで、決算月をずらして調整することができません。年末に機械が搬入されたが据付と試運転が年明けになった、という場合、事業に使い始めたのは翌年になります。優遇を受けるのは供用した年です。「支払いは済んでいるのに今年は落とせない」という相談は、毎年この時期に出ます。
受注生産の機械や、電気工事や基礎工事を伴う設備は特に注意してください。納期が一か月遅れるだけで年をまたぎます。契約の段階で、据付完了と試運転完了の予定日を書面に残し、遅れそうな気配が出たら早めに供用時期の見通しを立て直すこと。年内に無理に稼働させたことにするのは、記録が残らないので後で説明できません。
即時償却と税額控除、個人はどちらが効きやすいか
即時償却は税金が消えるわけではなく、払う時期を前に寄せる仕組みです。今年の所得は大きく下がりますが、翌年以降に本来計上できたはずの減価償却費がなくなります。個人事業は所得の波が大きいので、たまたま利益が出た年に寄せられるなら効果は大きい。所得税が累進であることに加え、国民健康保険料や住民税も所得に連動するため、下げた年の負担はまとめて軽くなります。逆に、来年から売上が伸びる見込みなのに今年落としてしまうと、税率の高い年に費用がない状態を作ることになります。
税額控除は税額から直接引く形ですが、引ける額には上限があり、引き切れなかった分の扱いは制度側で決まっています。青色申告特別控除や専従者給与で所得がすでに小さい人、赤字が見込まれる年は、控除枠を使い切れず旨みが出ません。どちらを選ぶかは、来年と再来年の売上見通しをどう置くかの問題です。ここは会社によって変わるので、直近の申告書を持って一度試算してください。
申告のときに何を添付し、どこに残すか
確定申告では、計画の認定書と申請書の写し、設備の証明書の写し、そして適用する優遇に応じた明細書を添付します。電子申告の場合は添付書類の送信方法が決まっているので、期限直前に慌てないよう、書類が揃った時点でPDF化しておくと楽です。紙で提出する人は、原本を渡してしまわないよう控えを取ってください。
認定を受けた計画は、出したら終わりではありません。設備の構成や事業内容が計画と大きく変わるときは、変更の手続きが必要になる場合があります。設備を早期に手放す、別の場所に移す、事業をたたむといった動きが出たときは、税務の処理と計画側の手続きの両方を見ること。片方だけ直して、もう片方が放置されている状態が一番あとで困ります。
あえて使わない判断をする場面
制度が使えるからといって、使うべきとは限りません。証明書の取得と計画申請にかかる手間、税理士に頼む場合の報酬、そして年内供用に間に合わせるための工程の無理を足すと、得られる税負担の軽減とほぼ釣り合ってしまう規模の投資はあります。特に、もともと買う予定がなかった設備を税金対策で買うのは順番が逆です。現金は確実に出ていきます。
借入で買う場合はもう一段考えてください。即時償却で今年の所得はゼロ近くまで落ちても、返済していく元本は経費になりません。所得が小さい年が続いた後に、返済だけが残る形になります。金融機関に決算内容を見せる立場なら、即時償却で所得が消えた申告書をどう説明するかも先に考えておくこと。設備が事業に必要かどうかを決めたうえで、税制は最後に乗せるものです。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
補助金をもらって買った設備でも、中小企業経営強化税制を併用できますか
税制側と補助金側の両方の要件を満たせば併用できる場合がありますが、補助金の公募要領で他制度との重複を制限していることがあるため、採択前に確認が必要です。もうひとつ見落としやすいのが圧縮記帳です。補助金分を差し引いて取得価額を計上すると、設備ごとの最低取得価額の線を下回って税制の対象から外れることがあります。判断が微妙なときは、圧縮記帳を使わない選択も含めて税理士と並べて検討してください。
顧問税理士がいなくても経営力向上計画は自分で申請できますか
申請書自体は事業者が自分で作れる様式で、記載量も事業計画書ほど多くありません。ただし設備の類型判定と証明書の取り方でつまずく人が多いので、商工会・商工会議所や認定経営革新等支援機関に一度見てもらうと差戻しが減ります。申請先は事業分野ごとに主務大臣が分かれているため、提出窓口を最初に確認してください。
近いうちに法人成りする予定です。個人のうちに使っても問題ありませんか
認定は事業者ごとに受けるものなので、法人になれば同じ内容でも新会社として改めて申請することになります。個人で即時償却した設備を法人へ移す場合、譲渡か現物出資かで個人側の所得計算も変わります。法人成りの時期が見えているなら、設備の購入自体を法人設立後に回したほうが処理は単純です。