中小企業経営強化税制をECで使えるか、先に確かめる点
自社ECの受注管理を入れ替える、倉庫にピッキング用の機械を入れる、カートを買い切りで導入する。中小企業経営強化税制はこういう投資に効きますが、発注してから相談に来た会社はほぼ間に合いません。落ちる理由は「そもそも対象の資産ではない」「計画の認定が設備の取得に間に合っていない」「期のうちに動かせていない」のどれかに集まります。どれも発注前なら潰せます。
その投資は、そもそも資産になっているか
ECで使うシステムは月額のクラウドサービスが中心です。カート、受注管理、在庫連携、配送連携。どれもログインして使うだけで、帳簿には毎月の支払手数料や通信費として載ります。これは減価償却する資産ではないので、この税制の対象になりません。「システムに何百万も投じたのに使えないと言われた」という相談の大半が、ここで終わります。判定されるのは機能の高さでも金額でもなく、資産に計上されているかどうかの一点です。
逆に検討の土俵に乗るのは、買い切りのパッケージソフト、自社向けに作り込んでソフトウェアとして資産に載せた開発費、検品端末やサーバーなどの器具備品、倉庫の機械装置あたりです。ECだと投資額が大きいのはソフトウェアと物流設備の二つに寄ります。
厄介なのは初期費用の中身です。制作会社の見積が「ECサイト構築一式」でまとまっていると、開発費として資産に載る部分と、デザイン・撮影・広告のようにその期の費用になる部分が混ざります。分けられないと、税理士は安全側に倒して全額を費用にすることがある。そうなると税制は使えません。見積を出してもらう段階で項目を割ってもらってください。納品が終わってから内訳を求めても、根拠のある割り方は出てきません。
取得価額には下限があり、ソフトウェアは別建てで設定されています。しかも一式の合計ではなく、一台・一基ごとに見ます。端末を何台かまとめ買いしても、単価で判定されて全滅ということが起きます。下限の額は改正で動くので、記事末尾の公式ページで最新を確認してください。
業種と使い方で外れることがある
この税制には対象となる事業の指定があります。ECの物販は小売業か卸売業に当たるので、通常は入ります。ただし物販以外の収入が混ざっている会社は、その設備がどの事業のために使われるかで見られます。有料会員向けの配信や、実店舗での飲食を併営している場合、共用の設備をどちらの事業のものとして説明するかを先に決めておかないと、申告のときに詰まります。
もう一つ外れやすいのが貸付用です。他人に貸すために取得した資産は対象外なので、サブスクでモノを貸す形態を持っているECは、その在庫や機器の位置づけを確認しておく必要があります。中古で買った設備も対象になりません。国内で事業に使うことも条件なので、越境ECで海外倉庫に据える設備は外れ、国内センターの設備は入る、という分かれ方をします。
経営力向上計画は、いつ出すか
原則は、設備を取得する前に認定を受けることです。取得の後から申請する例外ルートもありますが、受付までの期間が短く、しかも同じ期のうちに認定まで終わっている必要があります。決算間際に買った設備で例外ルートを使おうとしても、書類が回りきらずに終わります。ここが一番よくある取りこぼしです。
認定までの前工程は、設備の類型によって違います。メーカーが工業会などの証明書を出すタイプなら、依頼してから証明書が届くまでの待ち時間が、そのまま計画申請の遅れになります。ソフトウェアは証明書を用意していないメーカーもあるので、「この製品で経営強化税制を使いたい、証明書は出ますか」と発注前に一本電話を入れてください。出ないと分かれば、別の類型で組むか、製品を変えるかの判断が早くできます。
投資計画を作って税理士等の事前確認を受け、経済産業局の確認書をもらうタイプは、さらに時間がかかります。思い立ってから稼働までを一か月で組むのは無理だと考えてください。なお類型の区分は直近の税制改正で整理されているので、いま何が残っているかは公式ページで確かめるのが確実です。
即時償却と税額控除、どちらを取るか
即時償却は、取得した期に全額を経費に落とす方法です。税金が消えるわけではありません。翌期以降に落とすはずだった償却費を先に使ってしまうだけなので、来期以降はその設備からの経費がゼロになります。売上が伸びている最中のECで、来期の利益が今期を上回る見込みがあるなら、今期に全部落として翌期に重い税負担を抱える、という順番になりかねない。
税額控除は、計算した税額から直接引きます。ただし引ける額に上限があるので、赤字の期や利益が薄い期には効きません。控除しきれなかった分の扱いには決まりがあるので、そこは公式ページで確認してください。
もう一点、銀行の見え方があります。即時償却をすると利益が大きく凹み、決算書だけ見れば急に業績が落ちたように映ります。融資の途中や次の借入を控えているなら、担当者に「税制を使って一括で償却した」と説明できる資料を先に用意しておく。申告で一度選んだら、後から入れ替えることはできません。
補助金と組み合わせるときに崩れるところ
補助金で買った設備に圧縮記帳を使うと、帳簿上の取得価額が下がります。その結果、下限を割って税制の対象から外れることがある。ソフトウェアは下限が別建てなので、ここに引っかかりやすい。補助金の申請を出す前に、圧縮記帳を使った場合の取得価額でも条件を満たすかを一度計算しておいてください。
順序も窮屈です。補助金は交付決定より前の発注が対象外、税制は設備取得より前の計画認定が原則。両方の「前」を同時に満たせる発注日は、思っているより狭い。ECは年末や大型セールに合わせて稼働日を先に決めがちなので、そこから逆算すると、計画づくりを数か月前に始めないと発注日が作れないという結論になります。
決算直前に落ちる二つの穴
一つ目は、事業に使い始めた日です。納品書の日付ではありません。ECのシステムなら本番に切り替えた日。テスト環境で動かしているだけ、検収が終わっていない、繁忙期を避けて切替をセール明けに延ばした——このどれかで期をまたいだ瞬間に、その期では使えなくなります。稼働日を後ろにずらす判断をするときは、税制への影響もセットで考えてください。
二つ目は申告書への添付漏れです。書類が揃っていないと、要件を全部満たしていても適用が受けられません。申告のときに慌てないよう、認定が下りた時点でまとめて一つのフォルダに入れておくのが早い。
- 経営力向上計画の申請書の写し
- 認定書の写し
- 類型に応じた証明書または確認書の写し
- 申告書に添付する明細書
税理士に「今期これを使いたい」と伝えるのが申告の直前になると、そもそも計画認定が済んでいないので手の打ちようがありません。決算の二か月前ではなく、投資を検討し始めた時点で共有してください。
発注前にやる順番
整理すると、見積の内訳を資産と費用に分ける、メーカーに証明書が出るか聞く、計画を書いて認定を取る、それから発注する、という並びになります。この順番が逆になると、後から取り返せません。特に発注書を先に出してしまうと、そこで打ち切りです。
計画の作成自体は、身構えるほどのものではありません。様式と記載例は公式に出ていますし、商工会議所や取引銀行、顧問税理士が認定支援機関になっていれば相談に乗ってもらえます。ただし、税制を使うために本来要らない設備を買うのは順番が逆です。投資として合うかどうかを先に決めて、合うと決まった投資の負担を軽くする手段としてこの制度を当てる。この順序を崩すと、使わない機械のリース料だけが残ります。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
法人化していない個人事業のECでも使えますか
個人事業主も対象に含まれますが、青色申告であることが前提です。所得税での適用になるため、控除の上限の考え方や、赤字の期に使ったときの扱いが法人と同じではありません。自宅兼事務所で使う機器を家事按分している場合、事業専用でない部分は対象から外れるので、按分している設備は先に税理士へ確認してください。
自社ECサイトの制作費は、どこまでが対象になりますか
ソフトウェアとして資産に計上される開発部分が検討対象で、デザイン、商品撮影、広告運用、SEOの作業費は通常その期の費用になります。既存サイトの改修は、機能追加なのか不具合直しなのかで資本的支出と修繕費に分かれ、後者なら資産になりません。制作会社には見積の段階で工程別の内訳を頼んでおくのが確実です。
設備を買うたびに経営力向上計画を出し直すのですか
一つの計画に複数の設備を書けるので、同じ期に予定している投資はまとめて記載しておくのが実務的です。認定後に機種や金額が変わったときは変更申請が要ります。当初の計画に書いていない設備は後から足しても遡って対象にはならないため、迷っている投資も候補として入れておく判断があります。