固定資産税の特例、士業が計画認定で詰まるところ
サーバーを入れ替える、測量や製図の機器を買う、書庫を減らして事務所内を作り替える。固定資産税の特例を使えるかどうかは、見積書を見ている段階ではまだ決まっていて、発注書を出した時点で決まります。順番を間違えると、要件をすべて満たす設備でも軽減を受けられません。士業の事務所が実際に詰まるところから順に書きます。
士業の事務所でも固定資産税の特例は使えるのか
この特例は、市区町村が「導入促進基本計画」を定めていて、そこに事業者の先端設備等導入計画が認定されたときに、対象設備の償却資産にかかる固定資産税が軽減される仕組みです。まず確かめるのは制度の中身ではなく、事務所のある市区町村がその基本計画を作っているかです。作っていない自治体では申請の受け皿がなく、要件を満たしていても話が始まりません。支店や別拠点に設備を置く場合は、設備の所在地の自治体で判断されるので、本店の窓口に聞いても答えが出ないことがあります。
業種の扱いも先に潰します。中小事業者向けの制度なので、士業だから一律で外れるわけではありませんが、対象業種の指定や資本金・従業員規模の条件がかかります。事務所のある地域の指定状況は自治体ごとに違うので、記事末尾の公式ページで制度の枠を押さえたうえで、窓口に自分の業種を伝えて確認するのが確実です。
もうひとつ、士業でつまずきやすい点。ソフトウェアやクラウドの利用料は固定資産税の対象になる償却資産ではないため、この特例の話に乗りません。会計システムを入れ替える投資が計画の中心だと、税額が軽くなる部分がほとんど残らないことがあります。
どの設備なら対象に入るか、線はどこか
事務所で候補になるのは、機械装置というより器具備品、測定工具・検査工具、そして建物附属設備です。複合機やサーバー、什器、空調や照明の更新工事がここに入ってきます。共通するのは新品であることと、設備の区分ごとに取得価額の下限があること。中古の複合機を安く入れると、性能が同じでも対象から外れます。下限を下回る小型の機器を何台まとめて買っても、合算して一つの設備として扱うことはできません。
用途も見られます。事務所の業務に直接使うものが前提で、応接の装飾や社長個人の使用が混じるものは説明が難しくなります。ここは「生産性を上げるために何をどう使うか」を計画書に書く段で必ず問われるので、買う理由を一行で言えない設備は候補から落としたほうが早い。
認定までに誰と何を話すか
動く相手は二つです。ひとつは市区町村の産業振興や商工の担当課、もうひとつは認定経営革新等支援機関。計画書の様式や添付書類は自治体ごとに違い、同じ県内でも求められる資料が揃いません。電話一本で済む確認なので、設備の候補が三つ四つに絞れた時点で聞いてしまってください。窓口で聞くのは次の点です。
- 導入促進基本計画があるか、対象業種と対象設備の区分に自分の事務所が入るか
- 申請から認定までに実際どれくらいかかるか、受付の締め方はあるか
- 認定支援機関の確認書について、自分の事務所が支援機関の場合に自己確認を認めるか
- 賃上げの表明を計画に入れる場合、どの書類を出すか
三つ目は士業に固有の論点です。自分が支援機関でも、自社の計画を自分で確認するのを認めない運用の自治体があります。ここを詰めないまま確認書を自作すると、申請の最後で差し戻され、発注の予定が丸ごとずれます。
計画書に何を書けば通るのか
計画の中心は、設備を入れることで労働生産性が一定以上上がる見込みを示す部分です。分子は営業利益と人件費と減価償却費の合計、分母は従業員数や人時といった労働投入量で、要するに人の時間あたりでどれだけ稼げるようになるかを書きます。士業の場合、売上が急に増える絵は描きにくいので、時間が減る側で組むほうが現実的です。
たとえば、申告期に紙の資料をスキャンして名前を付け直す作業に何人が何時間取られているか、過去の書類を書庫で探すのに一件あたりどれくらいかかっているか。その作業が機器の入れ替えでどう変わるかを、担当者の作業時間として数えて根拠にします。感覚で「効率化する」と書いた計画は、窓口でも支援機関でも必ず根拠を聞かれます。
賃上げの表明を入れるかどうかは別の判断です。表明すると軽減の条件が変わる一方、従業員への表明と実行が後から問われます。人の入れ替わりが多い事務所では、無理に載せないほうが後の説明が楽になります。
発注を先にすると何が起きるか
計画の認定を受ける前に発注・契約・支払いをした設備は、対象になりません。これが一番多い失敗で、しかも取り返しがつきません。見積を取る、仕様を詰める、納期を押さえるところまでは問題ありませんが、注文書を出した日付や契約日が認定日より前だと、その一点で落ちます。業者に「内示だけ入れておく」と言われたときは、書面に日付が残る形になっていないか確認してください。
もうひとつ、取得のタイミング。固定資産税は賦課期日時点で所有している償却資産に対してかかるので、納品と検収がいつになるかで、軽減が始まる年がずれます。工事を伴う建物附属設備は特にずれやすい。年をまたぐ工程になりそうなら、業者に引き渡し日を先に確定させ、認定の所要期間から逆算して申請の着手時期を決めます。
認定を取ったあとに残る手続きは何か
認定書が届いても、それだけでは税額は変わりません。設備を取得した後の償却資産申告で、特例の適用を受ける資産として申告し、認定書の写しなど自治体が指定する書類を添えます。申告しなければ軽減されないので、ここが抜けると計画を作った手間がそのまま無駄になります。償却資産申告を顧問先の分だけ意識していて、自分の事務所の分を毎年ほぼ同じ内容で出している事務所は、この年だけ内容が変わることを担当者に伝えておいてください。
計画の中身を変える場合も手続きが要ります。機種を変えた、台数を増やした、時期を延ばした——こうした変更は変更申請の対象になることがあり、勝手に入れ替えると対象外の設備が混ざります。設備の入れ替えは業者側の都合で起きるので、納品前に一度、認定した内容と現物が一致しているか突き合わせる。軽減の期間にも限りがあるため、何年目で終わるかを固定資産台帳のメモに残しておくと、翌年以降の申告で迷いません。
顧客の申請を手伝う場合と、自分の事務所の場合で何が違うか
顧問先の計画を支援するときは、確認書を書く立場として計画の根拠を第三者目線で見ます。手が止まるのは、だいたい設備の見積と生産性の数字が噛み合っていないところ。一方、自分の事務所の投資では、決めるのも払うのも自分なので、機器の在庫や工事の空きに合わせて発注を急いでしまいがちです。制度の順番を知っているはずの事務所が、認定前発注で落ちる。これは実際に起きます。
対策は単純で、設備の話が出た日に、認定にかかる期間を窓口で聞いて発注可能日をカレンダーに入れてしまうことです。その日より前の発注はしない、と決めておけば、業者から「今月なら入る」と言われても判断がぶれません。認定までの期間は自治体によって差が大きく、繁忙期に申請が集まると延びます。制度の詳細と最新の要件は、記事末尾の公式ページで毎回確認してください。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
自分の事務所が認定経営革新等支援機関のとき、自社の計画の確認書を自分で書けますか
自己確認を認めるかは市区町村や運用によって差があります。申請前に窓口へ電話で聞くのが早く、口頭で曖昧な回答だった場合は、別の支援機関に確認書を依頼したほうが差し戻しのリスクが小さくなります。顧問先の確認書を書いている事務所でも、自分の分は第三者に回すという判断は珍しくありません。
リースで入れた複合機やサーバーは対象になりますか
所有権が移らないリースだと償却資産の納税義務者はリース会社になるため、事務所側が固定資産税の軽減を受ける構図になりません。所有権移転付きのリースや割賦なら自社資産として扱う余地がありますが、契約書の名義と所有権条項を先に見てください。見積段階でリース会社に「この契約は誰の償却資産になるか」を確認しておくと手戻りが減ります。
賃借している事務所ビルに空調や間仕切りの工事をした場合はどうなりますか
賃借人が負担した造作は、契約や工事内容によって賃借人の償却資産として申告する扱いになることがあります。貸主が資産計上している部分と二重にならないよう、工事の見積書を区分して残してください。建物本体と一体と判断されると家屋の評価側に入り、償却資産の特例とは別の話になります。