中小企業経営強化税制 使えるかは発注前に決まる
中小企業経営強化税制は、設備を入れた後で税理士に「これ使えますか」と聞いても、たいてい手遅れになります。理由は単純で、この制度は申告の話の前に、経営力向上計画の認定という別の役所手続きが挟まっているからです。決算のときに書類を揃えれば済む制度ではありません。発注の判子を押す前に何を確認しておくか、順番どおりに並べます。
先に見るのは設備ではなく、発注と稼働の予定日
相談で一番多いのが、見積を取って納期を押さえ、社長が「今期の利益をこれで落としたい」と言った段階で、認定が間に合わないと分かるパターンです。計画は申請してから認定が下りるまで待ち時間があります。生産性向上型なら工業会の証明書がメーカー側の作業になるので、メーカーの繁忙期に重なるとこちらの都合では動きません。つまり、税制を使うかどうかを決める最初の材料は、設備の性能ではなく日付です。
原則として、計画の認定を受けた後に設備を取得します。そして取得と事業供用が同じ事業年度に入っていないと、その期の申告では使えません。決算月の直前に納期が寄ると、据付や試運転が翌期に落ちて、狙っていた期の節税にはならない。ここで揉めるのは「いつから使い始めたか」の線です。試運転だけで供用開始と言えるかは微妙なので、検収書、稼働ログ、最初の製品を出した日付といった記録を残しておいてください。後から口頭で説明しても通りません。
自社がこの税制の対象に入っているか
入口は青色申告です。白色のままなら、まずそこを直す話になります。次に中小企業者の範囲で、資本金と従業員数に線があり、その線は業種ごとに違います。金額と人数は改正で動くので、記事末尾の公式ページで現在の数字を見てください。個人事業主も対象になります。
見落としが多いのは、大企業から出資を受けている会社です。親会社やファンドの持株比率によっては、規模の数字が小さくても対象から外れます。持株会社を作って複数社を束ねている場合も、グループ全体で見られることがあるので、資本関係の図を先に書いてから判断してください。ここを確認せずに証明書の手配まで進めてしまうと、かけた時間がまるごと無駄になります。
その設備は対象になるか、どこで外れるか
対象になるのは機械装置、工具、器具備品、建物附属設備、ソフトウェアといった区分で、区分ごとに取得価額の下限があります。下限に届かない小さな機器を並べても、合算はできません。金額の線は公式ページで確認してください。
実務で外れやすいのは、次のような買い方です。並べておきます。
- 中古で購入した設備、または他社から譲り受けたもの
- 他社に貸し出して使わせる、貸付用の設備
- 本社の応接セットや汎用の事務機器など、事業の生産に直接つながらないもの
- 指定事業以外の事業に使う設備。営む事業が指定事業から外れていないかを先に見ます
- 同じ設備で別の設備投資向け税制をすでに使っているケース。二重には使えません
もう一つ、書類上は対象でも実態が伴わないと後で困ります。工場に置いたことになっているが実際は使っていない、というような設備は、税務調査で稼働の説明を求められます。稼働させる場所と担当者を決めてから申請してください。
類型で段取りが変わる
この制度は設備の性格によって通る経路が分かれます。生産性向上を根拠にする経路なら、メーカーが所属する工業会の証明書を取ります。自社の作業は書類を出して待つことが中心で、その代わり待ち時間が読みにくい。収益力強化を根拠にする経路なら、自社で投資計画を作り、税理士や公認会計士の事前確認を受けたうえで、経済産業局の確認書をもらいます。こちらは待つだけでは終わらず、投資後の売上や利益の見通しを数字で組む作業が入ります。
どちらを通るかで、着手しなければならない時期が変わります。設備を決めた時点でメーカーに「この型番で証明書は出ますか、どのくらいかかりますか」と聞くのが最初の一手です。出ないと言われたら、別の経路を検討するか、設備そのものを見直すことになります。なお類型の枠組みは改正で整理されることがあるので、いま何が使えるのかは記事末尾の公式ページで確かめてください。
即時償却と税額控除、どちらを選ぶか
即時償却は、その期に取得価額を一気に費用にできます。ただし税金が消えるわけではなく、翌期以降に落ちるはずだった償却費が前に寄るだけです。今期だけ大きな利益が出て、来期は落ち込む見通しなら効きます。逆に毎期同じくらいの利益なら、前に寄せた分だけ翌期の利益が膨らみます。
税額控除は、計算した税額から直接引きます。ただし赤字で税額が出ていない期には引くものがありません。控除できる額にも上限があり、使い切れない分の扱いは制度側の決まりに従います。赤字の会社が「即時償却で赤字を深くする」のは、たいてい得になりません。
もう一点、銀行を使っている会社は決算書の見え方も一緒に考えてください。即時償却で利益を潰すと、自己資本が薄く見えます。設備投資の借入を申し込んだ直後に利益が消えた決算書を出すと、担当者から説明を求められます。償却の中身を注記や説明資料で示せば通る話ですが、何も言わずに出すと評価だけ下がる。どちらが有利かは会社の利益水準と借入の状況で変わります。
認定が下りた後に残る作業
認定通知が届いたら終わりではありません。申告のときに明細を添付し、証明書や確認書、認定を受けた計画書の写しを保存します。この書類が数年後に行方不明になっている会社は珍しくない。担当していた経理が辞めて、どこに綴じたか誰も知らない、という状態が実際に起きます。認定関係の書類は設備の固定資産台帳と同じ場所にまとめて置き、台帳に「認定計画あり」と一行書いておいてください。
設備を早い時期に売却したり除却したりすると、適用の前提が崩れる場合があります。入れ替えを考えるときは、税理士に取得日と適用内容を伝えてから動いてください。また、認定を受けた経営力向上計画は、金融支援や別の支援制度の入口として使えることがあります。せっかく作った計画を、税制の一回きりで寝かせるのはもったいない。計画に書いた目標をどこまで実行したかは、後から聞かれる可能性があるので、投資後の売上や生産量の推移は簡単な形でも記録しておくと説明が楽になります。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
機械をもう注文してしまいました。今から計画を出しても間に合いませんか。
注文しただけで、まだ引き渡しも稼働もしていないなら望みは残ります。取得の時期をどう見るかは契約と検収の形で変わるので、契約書と納期表を持って税理士に見せてください。取得後の申請を認める例外的な扱いもありますが、猶予は短く、稼働させてから動き出すと選択肢はほぼ消えます。
リースで導入した設備でも使えますか。
ファイナンスリースかオペレーティングリースか、所有権が移転する契約かどうかで扱いが分かれます。所有権移転外のファイナンスリースでは税額控除は選べても即時償却は選べない、という整理が一般的です。契約書の名称ではなく中身で判断されるため、リース会社に契約区分を書面で確認したうえで税理士に渡してください。
一つの経営力向上計画に、複数の設備をまとめて入れられますか。
入れられます。同じ時期に入れる設備が複数あるなら、まとめて申請したほうが手間は減ります。ただし認定後に設備を追加したくなった場合は変更申請が必要で、そのぶん時間がかかります。数か月先に検討している投資があるなら、最初の計画に含めておくか、別立てにするかを申請前に決めておくと後戻りが少ないです。