士業の請求書ソフト|源泉と実費で選び分ける
士業の請求書は、モノを売る商売の請求書とかたちが違います。報酬から源泉所得税が引かれて入金されるので請求額と入金額が一致せず、印紙代や登録免許税のような実費が同じ紙の上に混ざる。この二つを扱えないソフトを選ぶと、発行のたびに電卓を叩いて手で数字を直すことになります。
士業の請求書は、何が普通の商売と違うのか
まず、報酬を法人や事業者である相手に請求すると、相手は支払時に源泉所得税を差し引いて振り込みます。請求書に十万円と書いても、通帳に入るのはそれより少ない金額です。ここを請求書側で表示していないと、相手の経理が自分で計算して差し引き、こちらは通帳を見て「なぜこの端数なのか」を毎月確かめる羽目になる。入金消込が止まる原因のかなりの部分がこれです。
もう一つが実費です。登記の登録免許税、収入印紙、証明書の取得手数料、郵送料。これらは自分の売上ではなく、預かって払っただけのお金で、消費税の課税対象にもなりません。ところが一般的な請求書ソフトは、行に入れた金額はすべて課税売上として扱う前提で作られていることがあります。そのまま出すと消費税が過大に乗り、相手が仕入税額控除を計算するときにも合わなくなります。
選ぶ前に決める三つの軸
機能一覧を上から眺めても決まりません。先に自分の仕事のかたちを三つの軸で見てから、その軸を満たすものだけを比べます。軸は、源泉徴収の表示、実費と立替金の税区分、そして毎月同額の請求をどう回すか。この三つです。
順番は業務の構成で変わります。顧問契約が売上の柱なら定期請求が最優先で、源泉の表示は毎月同じ数字なのでひな形で足ります。登記や許認可のスポットが中心なら、実費の行を分けられるかが先に来る。両方あるなら、どちらの請求が月に何件出るかで決めてください。全部を満たすソフトは限られるので、優先順位を決めずに探すと比較が終わりません。
源泉徴収の行が思った通りに出るか
確認するのは三点です。源泉徴収税額の行を出せるか、その計算の基礎を税抜額にできるか、差し引いた後の振込額まで印字されるか。請求書で報酬と消費税を分けて書いていれば、報酬部分だけを基礎にして計算できます。税込を基礎にするソフトだと金額が変わり、相手の経理と数字が合わなくなる。ここは設定で選べるものと、固定されているものがあります。
資格によって計算の仕方も違います。司法書士の報酬は一定額を差し引いた残りに税率をかける形で、他の士業と同じ式では出ません。一律の掛け算しかできないソフトだと毎回上書きすることになります。行政書士報酬は原則として源泉徴収の対象外なので、そもそも欄を出さない運用になる。自分の資格の扱いを確かめてから、そのかたちが素直に出るかを試用版で一枚作って見てください。
実費と立替金をどう分けるか
実費は報酬と同じ請求書に載せてかまいませんが、行ごとに税区分を分けられることが条件です。報酬の行は課税、印紙や登録免許税の行は対象外。この指定が行単位でできないソフトだと、実費を別紙の精算書に逃がすしかなくなり、請求書と精算書の二枚を毎回作ることになります。件数が少ないうちは回りますが、月に何件も出るようになると必ず片方の送り忘れが起きます。
もう一つ、領収書の宛名を先に決めておくこと。依頼者名でもらって実費のまま請求すれば預かり金の処理で終わりますが、事務所名でもらって報酬に含めて請求すると、こちらの経費と売上が両方立ちます。どちらが正しいという話ではなく、窓口で受け取る瞬間にどちらの扱いにするかを決めていないと、後から帳簿を組み替えることになります。
毎月同じ顧問料をどう出し続けるか
顧問料は金額も宛先も毎月同じです。前月分をコピーして日付だけ直す運用でも出せますが、締めの日に顧問先の数だけファイルを開いて触ることになる。定期請求として登録しておけば、指定した日に下書きが自動で作られ、あとはスポットの行を足すだけで済みます。月末に半日潰れていた作業が、確認と送信だけになります。
実務で効いてくるのは、その定期請求にスポットの一行を足せるかどうかです。決算期の報酬、年末調整、単発の届出。顧問料と別々に請求書を出すと、相手も振込を二回に分けるか合算するかで迷います。一枚にまとめられる作りかどうかを、試用の段階で確かめておいてください。送付方法も同じで、メール送信、PDFダウンロード、郵送代行のどれを使うかは顧問先ごとに違うので、宛先ごとに送り方を記憶できると取り違えが減ります。
インボイスと電子保存でそろえる最低限
適格請求書として成立させるには、登録番号、取引年月日、税率ごとに区分した対価の額と消費税額、相手の名称といった項目が要ります。ソフト側で登録番号を事務所情報に一度入れておけば毎回印字されるので、ここで詰まることはあまりありません。免税事業者のままなら登録番号は入りませんが、顧問先から聞かれる場面が増えるので、答え方を決めておいたほうが揉めません。
手間になるのは控えの保存です。メールにPDFを添付して送ったなら、その控えも電子データのまま保存します。あとから取り出せるように、日付・金額・取引先で探せる状態にしておくことが求められる。ソフトの中に発行履歴が残るなら、その画面がそのまま保存要件を満たすことが多いので、確認するのは次の点です。
- 発行済みの請求書を、日付・金額・取引先で検索できるか
- 過去分の再ダウンロードが、契約を続けている間ずっとできるか
- 受け取った請求書や領収書も同じ場所に置けるか、会計ソフト側に置くのか
制度の細かい要件は運用が変わることがあるので、記事末尾の公式ページで最新の内容を確認してください。
会計ソフトに付いてくる請求書機能で足りるか
選択肢は三つです。使っている会計ソフトの請求機能を使う、請求書専用のサービスを入れる、表計算のまま続ける。一人事務所で顧問先がそれほど多くないなら、会計ソフト付属で足りる場面が多い。請求を発行した時点で売上と売掛金の仕訳が立ち、源泉分も預り処理までつながるので、月次で二度入力する必要がなくなります。
専用サービスを選ぶ理由になるのは、定期請求の自動作成、見積書からの変換、郵送代行あたりです。紙で受け取りたい顧問先が残っている事務所だと、封入して切手を貼る時間がまるごと消えるので、そこだけで元が取れることがあります。ただし会計ソフトへはCSVか連携機能で流し込むことになり、勘定科目の対応付けを最初に決める手間がかかる。表計算のまま続けるのは、件数が少なく、保存の検索要件をファイル名の付け方で自分が管理しきれる場合に限ります。
切り替えるときに詰まるのは、過去の請求データと、進行中の未入金分です。多くの場合、過去に発行した請求書のPDFはそのまま持ち込めず、旧ソフト側からまとめて出力して自分で保管することになります。未入金の売掛は新旧どちらで消し込むかを決めておかないと、二重計上か計上漏れが起きる。期の途中で替えるなら、締め日を境にきれいに分けたほうが後で楽です。料金はプランと機能で変わるので、最新の内容は各社の公式ページで確認してください。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
行政書士は源泉徴収されないと聞きました。源泉欄のあるソフトを選ぶ必要はありますか。
行政書士報酬は原則として源泉徴収の対象外なので、ふだんは源泉欄を使わない運用になります。ただし同じ事務所で他の資格の業務も受けている場合や、支払う側が源泉徴収義務のない個人かどうかで扱いが変わるため、相手によって請求書のかたちが二通りになります。源泉欄を行ごとに出す・出すを切り替えられるソフトなら、テンプレートを二つ持つだけで済みます。判断に迷う業務があれば顧問税理士か所轄税務署に確認してください。
請求書に源泉徴収税額を書かなくても問題はありませんか。
請求書への記載義務はありません。書かないと相手の経理が自分で計算して差し引くため、計算の基礎を税込にするか税抜にするかで金額がずれ、入金額の食い違いとして戻ってきます。差引後の振込額まで書いておくと、相手はその数字をそのまま振込依頼に打つので照合が楽になります。それでも間違いは起きるので、入金消込の段階で確認する手順は残してください。
クライアントの代わりに払った実費の領収書は、誰の経費になりますか。
領収書の宛名が依頼者名で、立替金として実費のまま請求しているなら自分の経費にはならず、預かって払っただけの処理になります。宛名が自分の事務所名で、報酬に含めて請求しているなら自分の経費と売上の両方が立ちます。同じ支出でも宛名と請求のしかたで扱いが変わるので、窓口で領収書をもらう時点でどちらにするかを決めておくと後から直さずに済みます。