士業事務所の会計ソフト、源泉と預り金で決まる
士業の事務所で会計ソフトを選ぶとき、迷いの中身は他業種と同じではありません。報酬から源泉徴収されて振り込まれる入金、クライアントから預かった登録免許税や印紙の実費、毎月同額で出ていく顧問料の請求。この三つを帳簿の上でどう受けるかを先に決めると、候補は自然に絞れます。逆に決めずに機能一覧を眺めると、どの製品も同じように見えて決められません。
士業の帳簿が他の商売と違うところ
一番違うのは、請求した額がそのまま入金されないことです。報酬から源泉税を差し引いて振り込む取引先がいるので、通帳の金額と請求書の金額がずれます。物販や飲食ではまず起きません。この差額を毎回手で調整していると、月末の入金確認だけで午後がつぶれ、売掛の残高が実態とずれたまま決算まで持ち越されます。
もう一つは預り金と立替金です。登記の登録免許税、収入印紙、郵券、裁判所に納める費用、手続きにかかる実費。いったん預かる金と、自分が先に払って後で請求する金が常に走っています。これを報酬と一緒に売上へ計上すると、売上が実態より膨らみます。消費税の判定や事業規模を見る数字が全部ずれるので、後から分け直す作業が決算前に丸一日入ってきます。
選ぶ前に決めておく三つのこと
製品を比べる前に、自分の事務所がどの型かを決めます。源泉徴収される取引がどれくらいあるか。実費の預かりや立替が動くか。売上の柱が毎月同額の顧問料か、案件ごとのスポットか。この三つで必要な機能は変わり、逆にどれも薄い事務所なら、申告書まで作れる最小構成で十分です。
ここを決めないまま「士業向け」と書かれた製品を探すと、業界向けの案件管理システムに行き着いて、会計の話が置き去りになります。案件管理と会計は別の道具です。会計ソフトに求めるのは、入金の差額を素早く落とせること、取引先ごとに預り金と売掛を追えること、その帳簿から申告まで持っていけることに絞ってください。
源泉徴収で減った入金をどう合わせるか
処理の形は決まっています。請求時に報酬の全額を売上に立て、入金時に差額を源泉税として別の科目へ落とす。個人事業なら事業主貸や仮払の科目、法人なら仮払税金です。ソフト側で見るのは、一件の入金に複数の科目を割り当てられるか、つまり消込の画面で差額行に科目を指定できるかどうかです。銀行明細を自動で取り込めても、差額を毎回別途仕訳するなら手間はほとんど減りません。
年明けの突き合わせも見ておきます。取引先から届く支払調書の額と自分の記録が合わないと、申告で精算する源泉税額の根拠が作れません。摘要欄にメモを書くだけの運用は件数が増えると崩れます。取引先ごとに源泉税を集計して一覧で出せるか、補助科目や取引先タグで集計できるかを、体験版で実際に試してください。
預かった実費が売上に混ざると何が起きるか
請求書には報酬と実費が並びます。会計側で行ごとに科目を分けられるかが分かれ目で、請求書ソフトと会計を連携させるときも、明細行がまとめて売上に流れる作りだと毎月手直しが発生します。実費が売上に入ると課税売上の額が変わるので、消費税の届出や判定の前提が狂います。ここは後から気づくと影響範囲が広い。
実費が動く事務所は、取引先ごとに預り金の残高が見える状態を作っておきます。補助科目でも補助元帳でも構いませんが、「A社から預かって、まだ納めていない金」がいつでも出せること。これが出ないと、返金が必要な残りがいくらか分からず、業務が終わった案件の金を運転資金として使ってしまう事故が起きます。
顧問料の請求を会計とつなぐか、切るか
毎月同額の顧問料が柱なら、請求書側で繰り返し発行を設定して、そこから売上と売掛を会計へ渡す形が一番効きます。月初に何十通も作り直す作業がなくなるからです。ただし連携させると、前述の源泉差額と実費の科目分けが必ず絡んできます。連携で自動化されるのは請求書の作成までで、入金の突き合わせは残ります。
顧問先が少なく、スポット案件が中心なら、会計ソフトに付いている請求機能で足ります。別の請求書ソフトを入れると、二つの画面を行き来する手間のほうが大きい。判断は件数と報酬形態の数です。定額と時間制と成功報酬が混在していて、案件ごとに実費が乗るなら、請求は請求専用の道具に任せて会計と分けたほうが続きます。
クライアントの資料と自分の帳簿は分けて保存する
電子帳簿保存の話になると、業務で預かった顧客資料の保存まで一緒に考えてしまう人がいます。分けてください。守秘義務のある預かり資料の管理と、自分の事務所の帳簿・領収書・請求書控えの保存要件は別の問題です。会計ソフトのファイル保管領域に顧客資料を置く運用にすると、解約時や担当者の入れ替え時に持ち出しの線引きができなくなります。
自社分については、電子で受け取った請求書や領収書をそのまま保存する運用に先に切り替えます。要件の詳細は記事末尾の公式ページで確認してもらうとして、ソフト会社に聞くのは次の点です。
- 電子で受け取った請求書や領収書を、日付・取引先・金額で検索して取り出せるか
- 訂正や削除の記録が残る仕組みになっているか
- 保存した書類を、解約後にも読める形式でまとめて出せるか
- 顧客から預かったデータを同じ保管場所に置かずに済む運用にできるか
事務所の形に当てはめる
一人でやっていて顧問先も数件、実費の立替がほとんどないなら、個人向けの最小構成で足ります。機能が多い製品を入れると、初期設定と勘定科目の整理に何日か取られるだけで、日々の入力は変わりません。源泉の差額処理さえ迷わず落とせれば、確定申告まで一人で回せます。
家族や補助者が入力を手伝う、あるいは士業法人になっている事務所は、利用者を追加できるか、権限をどこまで絞れるかを見ます。給与の金額や役員報酬まで補助者に見えてしまう設定しかないと、入力を任せられません。人が増えるほど、機能より権限の細かさが選定の理由になります。
数人規模で給与計算と源泉の納付が毎月あるなら、給与側を同じ系列でそろえておく価値があります。年末調整の時期に会計と給与を別々のソフトで突き合わせるのは、それだけで数日仕事になるからです。ここは会社によって変わるので、給与の締めと支給日を書き出してから決めてください。
料金と乗り換えは何で見るか
料金は利用者数、機能の段階、請求書機能を含むかで変わります。年払いと月払いで扱いが違う製品もあるので、最新の料金は公式ページで確認してください。見落としやすいのは、税理士に決算を頼んでいる場合に相手側が読み取れる形式かどうかで、ここが合わないと安いプランを選んでも決算前に転記作業が戻ってきます。
乗り換えるなら期首に合わせます。期中に替えると、残高の移行と二重管理で二度手間になり、消込の途中の案件が宙に浮きます。移行前に必ず確かめるのは、取引先ごとの預り金と売掛の補助科目が引き継げるかどうか。ここが引き継げないソフトに移ると、残高の内訳を手で組み直すことになります。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
税理士事務所です。顧客の記帳に使っている会計事務所向けソフトで、自分の事務所の帳簿もつけていいですか
技術的にできる場合が多いものの、自社分の入力枠がライセンス上どう扱われるかは販社に確認してください。実務でよく起きるのは、顧客データと自社データが同じ一覧に並んで、決算のときに取り違えることです。自社分だけは別のログインか別ファイルにして、担当者を自分に限定しておくと事故が減ります。
預り金の入出金は、専用口座を作ったほうがいいですか
登録免許税や印紙の立替が毎月動くなら分けたほうが照合は早くなります。ただし口座を増やすと同期対象と通帳確認の手間も増えるので、月に数件しか動かない事務所なら一本のままで、取引先ごとの補助科目で追う運用でも回ります。判断は件数と、実費を先に預かるか後から請求するかの違いです。
源泉徴収された分は、会計ソフト側で何か特別な設定が必要ですか
設定より先に、差額をどの科目で受けるかを決めるほうが大事です。個人事業なら事業主貸や仮払の科目、法人なら仮払税金として持つのが一般的で、これは処理の決め事なのでソフトの機能では解決しません。決めた科目を消込画面で一発指定できるかどうかだけ、体験版で確かめてください。