士業事務所の補助金、決算書類はどこまで出すか
公募要領の提出書類一覧に「直近の決算書」とだけ書いてある。士業の事務所は自分で申告書を作っている人が多いので、一見すぐ出せそうに見える。ところが申請してから差し戻される理由で多いのが、この決算関係の書類です。何を何枚出すのかが、法人か個人か、紙で申告したか電子で送ったかによって変わるからです。
「決算書を出せ」と言われたとき、審査側は何を見ているのか
事務局が確認したいのは大きく三点です。事業として現に続いているか、規模が補助金の対象範囲に収まっているか、そして申請書に書いた売上や従業員数が税務署に出した書類と合っているか。だから会計ソフトから出力しただけの損益計算書や試算表では足りません。税務署が受け取ったという証拠が付いている状態で求められます。
逆に言えば、この三点が確認できる形になっていれば体裁は問われません。決算報告書を製本しているか、片面印刷か両面かは審査に関係ない。ここを取り違えると、締切前夜に表紙を作り込んで、肝心の受信通知を入れ忘れる、ということが起きます。時間をかける場所は中身の整合であって見た目ではありません。
個人で開業している事務所が出すもの
確定申告書の第一表と第二表、それに青色申告決算書(白色なら収支内訳書)です。青色申告決算書は複数ページあり、月別の売上、給料賃金、減価償却の内訳が別の面に載っています。一枚目だけ提出して戻ってくるのが定番です。事務局は従業員の有無や人数を給料賃金の欄で見ていることがあるので、そのページが抜けると規模の確認ができません。
士業の場合、勤務時代の給与、他の事務所からの非常勤報酬、研修講師の謝金などが同じ申告書に混ざります。申請書の「売上高」に書くのは事業所得の売上であって、第一表の収入合計ではありません。ここがずれると「申告書と申請内容が一致しません」という指摘が来て、説明のやりとりで一週間単位の時間を失います。書き写す前に、決算書の売上金額の欄を指で押さえて確認してください。
法人にしている事務所で追加になるもの
貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表までの決算報告書一式に加えて、勘定科目内訳明細書と法人事業概況説明書、法人税申告書の別表を求められることがあります。概況説明書には従業員数や事業内容、月別の売上が書かれているので、規模要件の確認に使いやすい。事務局がこれを名指しで求めてくるのは、そのためです。
直近の期だけでなく、その前の期も出させる補助金があります。設立から日が浅い一人法人だと、そもそも期が足りません。足りない場合にどう扱うかは要領に書いてあるので、勝手に空欄で出さず、記事末尾の公式ページから該当する公募要領の様式一覧を開いて確かめてください。書類が足りないこと自体より、断りなく出さないことのほうが問題になります。
電子申告していると、収受印の代わりに何が要るか
紙で提出していれば控えに税務署の収受印が押してあります。e-Taxで送信した場合、その印はどこにもありません。代わりに受信通知(メール詳細)を印刷して添えます。受付日時、受付番号、利用者識別番号が載っていて、これで税務署に到達したことが確認できる。受信通知がないと、その申告書は「作っただけの下書き」と区別がつきません。
顧問先の代理送信をしている事務所ほど、自分の事務所の分をどの環境から送ったか忘れます。メッセージボックスを切り替え損ねて顧問先の通知を印刷し、そのまま添付してしまえば、情報の取り違えという別種の事故になります。印刷したら必ず宛名と識別番号を目で追う。これは事務所の内部ルールにしておいたほうがいい部分です。
まだ決算を一度も迎えていない事務所はどうするか
開業直後で申告実績がないなら、開業届の控え、法人なら履歴事項全部証明書、直近の試算表、事業用口座の入出金が分かるものが代わりになる扱いが多い。創業して間もない事業者向けの枠が別に設けられている補助金もあります。ただし代替できるかどうかは補助金ごとに違います。ここは事務所の事情ではなく制度側の設計で決まるので、要領を読む以外に確かめようがありません。
前職が勤務税理士や勤務社労士で、前年の申告は給与だけ、という人もいます。その申告書を出しても事業の裏付けにはなりません。開業後に発行した請求書の控え、入金の記録、事務所の賃貸借契約書のほうが、事業を始めている証拠として使えます。申請を考えているなら、開業した日から通帳を事業用に分けておくと後が楽です。
差し戻される場所は毎回だいたい同じ
提出前に見るのは次の箇所です。
- 青色申告決算書や内訳明細書のページ抜け
- 収受印または受信通知の欠落
- 申告書の数字と申請書に書いた数字の不一致
- 氏名・屋号・法人名の表記ゆれ(旧姓、株式会社の前後、事務所名の略称)
- スキャンの傾き、上下逆、文字のつぶれ
- 指定されたファイル形式・容量からの逸脱
電子申請の場合、事務局からは「決算内容が確認できません」といった一行で戻ってきます。どのページの何が足りないかまでは書かれないことが多い。だから提出直前に、自分が審査する側だったらこの束だけで判断できるか、という目で一度通して見る。他人の申請書を見慣れている士業なら、この見方は難しくないはずです。
いつから手を付ければ間に合うか
電子申告していれば受信通知はその場で取れます。問題は紙で申告していて控えを紛失している場合で、税務署の申告書等情報取得サービスや開示請求で取り寄せることになり、手元に届くまでに相応の日数がかかります。締切の直前に気づくと打つ手がありません。申請を考えた時点で、控えが手元にあるかどうかだけ先に確認してください。
もうひとつ先に済ませておくのがGビズIDです。電子申請の入口で必要になるもので、これがないと書類がそろっていても提出できません。取得までの手続きと所要期間は記事末尾の公式ページで確認できます。決算書類の準備とGビズIDの取得は並行して進められるので、片方を待つ理由はありません。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
決算書に税理士の署名や押印がないと受け付けてもらえませんか。
税理士が関与した申告かどうかは、補助金の提出書類としての要件になっていないことがほとんどです。事務局が見ているのは税務署に提出されたものかどうかで、そこは収受印か受信通知で確認されます。自分が税理士で自分の事務所の申告をしている場合も同じ扱いです。ただし補助金によっては認定経営革新等支援機関の確認書が別途必要で、これは署名する側と申請者が同一だと成立しないことがあるため、要領の該当欄を先に読んでください。
顧問先の申請を手伝うときと、自分の事務所が申請するときで、集める書類は違いますか。
求められる書類の種類は基本的に同じです。違うのは、顧問先の場合は決算書も申告書も手元にあるのに対し、自分の事務所の分は電子申告のIDが別で、受信通知を探すところから始まる点です。代理送信用の環境と自分の申告用の環境を混同して、顧問先の通知を印刷してしまう事故が起きやすいので、印刷後に宛名を読む習慣をつけてください。
決算月の直後に申請することになりました。まだ申告が終わっていません。
申告が済んでいない期の書類は原則出せないため、その前の期のものを提出する扱いになっている補助金が多いです。ただし「直近」の定義は要領によって違い、申告期限が到来しているかどうかで線を引くものもあります。判断に迷ったら事務局の問い合わせ窓口に、決算月と申告予定日を伝えて確認したほうが早いです。