製造業の個人事業主、請求書で詰まるのは支給材と検収
製造業といっても、支給された材料を削って加工賃をもらう人と、自分で仕入れて作ったものを納める人では、請求書の中身がまったく違います。ソフトを選ぶときにカタログの機能一覧を眺めても決まらないのは、この違いを先に決めていないからです。ひとりでやっている加工屋が請求で詰まる場所は、だいたい決まっています。
加工賃をもらう仕事か、モノを売る仕事か
まず自分の請求がどちらの型かを紙に書いてください。加工賃型は、注文書に書かれた単価に数量を掛けたものが請求額になります。品目は「◯◯加工 品番××」のような書き方で、単位は個のこともあれば、キロやメートル、時間のこともある。ソフトによっては単位が選択式で固定されていて、自分の使う単位が入れられないことがあります。毎回摘要欄に手で書き足すことになると、月末の作業が減りません。
モノを売る型は、納品書と請求書の関係が主役になります。月に何度も納品して月末にまとめて請求するなら、納品のたびに伝票を起こして、締め日にそれを合算して一枚の請求書にする流れが要ります。この合算ができないソフトだと、納品書を横に並べて電卓を叩くことになる。品番とロットを明細に残しておかないと、後から「この分は入っているのか」と聞かれたときに答えられません。
両方やっている人も多いはずです。その場合は加工賃型のほうに合わせて選ぶほうが失敗しません。加工賃の請求は取引先の都合に引きずられる部分が多く、自由度のないソフトだと後から効きます。
支給材と有償支給、請求書のどこに出るか
無償支給なら加工賃だけを請求すればいいので単純です。問題は有償支給で、材料を買った形にしておいて、加工賃の請求から材料代を差し引く取引先があります。このとき請求書の中にマイナスの行を立てられるかどうかが分かれ目になる。マイナス行が打てないソフトだと、加工賃を減額した金額で出すしかなく、単価と数量が実態と合わなくなります。合わないまま何ヶ月も出していると、単価改定の交渉のときに自分の手元に正しい記録が残っていません。
もう一つ厄介なのが、請求書には材料代を書かず、取引先が支払通知書で勝手に差し引いてくるパターンです。この場合、請求額と入金額が毎月ずれます。入金消込を金額一致で自動化しているソフトだと全部が「不一致」で残り、結局手作業で潰すことになる。差額を許容して消し込めるか、あるいは相殺の伝票を切って合わせるか、どちらの運用にするかを最初に決めてください。決めずに始めると、半年後に売掛の残高が誰にも説明できない数字になります。
締め日と検収日のずれで請求が翌月に飛ぶ
取引先ごとに締め日が違うのは製造業ではふつうです。二十日締めの会社と月末締めの会社を同時に抱えると、ソフト側で取引先ごとに締め日を持てないと、毎月自分で「この会社はここまで」と拾う作業が発生します。拾い漏らすと一ヶ月分まるごと請求が遅れる。ひとりでやっていると、その遅れがそのまま資金繰りに出ます。
さらに検収基準の取引先が混ざると話が複雑になります。納めた日ではなく、先方が検収した日で計上する約束なら、月末に納品したものが翌月の請求に回る。ソフトの中で納品日と請求対象月を別々に持てないと、納品日ベースで勝手に集計されて、先方の買掛と数字が合いません。合わないまま出すと差し戻され、再発行の手間が増えるだけです。取引先が検収書を送ってくるかどうか、送ってこないなら何をもって検収とするかは、注文の段階で確認しておく話です。
取引先の指定様式やWeb-EDIが残るとき
大手と取引していると、先方の購買システムに数字を入力する、あるいは先方が用意したエクセルの様式に書いて送る、という運用が残ります。この場合、自分のソフトで作った請求書はそのまま先方には渡りません。だからといってソフトが無駄になるわけではなく、自分の売掛の一覧と、後から見返すための控えとして必要です。渡す先が違うだけだと割り切ってください。
問題は二重入力です。同じ数字を自分のソフトと先方の画面に打つと、どちらかが必ず間違う。減らす方法は、明細のCSV出力があるソフトを選んで、先方様式への貼り付け元に使うことです。注文番号や品番、先方の管理番号を明細行に持てるかどうかも見てください。摘要欄しか自由に書けないソフトだと、CSVに出したときに欄が分かれず、貼り付けのたびに切り分ける作業が残ります。
先方が支払通知書を発行して請求書を求めない取引もあります。その場合はこちらから請求書を出す必要がありませんが、通知書の内容が自分の計算と合っているかは毎月見てください。単価の改定が反映されていないことは実際に起きます。
インボイスの登録番号と、受け取った請求書の保存
登録番号は請求書に印字されていないと、相手が仕入税額控除の書類として使えません。自分のソフトで出す分は設定しておけば自動で入りますが、先方指定の様式に手で書き写している人は入れ忘れが起きます。様式のテンプレートに最初から番号を入れておけば済む話です。税率ごとの合計と端数処理の扱いも、ソフト側の設定を一度は開いて確認してください。加工賃だけなら単一税率なので悩みは少ないほうです。
受け取る側の話も同じソフトの範囲に入ってきます。外注先や材料屋からPDFで請求書が届いたら、それは電子のまま保存する必要があり、後から日付・取引先・金額で探せる状態にしておかなければなりません。メールの添付を探して開く運用は、税務調査のときに時間がかかります。請求書ソフトに受け取り側の保存機能があるものと、会計ソフト側で受け持つものがあるので、どちらでやるかを決めてから契約してください。要件の細かいところは記事末尾の公式ページで確認できます。
見積から注文請書、請求までを一本にできるか
試作や単発の加工が多い人ほど、見積書を出す回数が増えます。見積を出し、注文書をもらい、注文請書を返し、納品して請求する。同じ品名と単価を四回打っているなら、そこが一番削れる場所です。見積からワンクリックで請求書に変換できるソフトなら、打ち間違いも消えます。
逆に、量産品を毎月同じ内容で納めているだけなら、見積機能はほとんど使いません。その場合は前月の請求書をコピーして数量だけ書き換えられるか、定期請求として自動で作れるかを見たほうが実益があります。自分の仕事がどちらに寄っているかで、見るべき機能は入れ替わります。
費用と乗り換えの手間をどう見るか
月額の安さだけで決めると、発行件数の上限や、電子保存が別料金だったことに後から気づきます。年額に直して、必要な機能を全部足した状態で比べてください。最新の料金は各社の公式ページで確認するのが確実です。会計ソフトを既に使っているなら、同じ会社の請求書機能で足りることも多い。連携のために別会社の組み合わせを選ぶと、仕訳の取り込みで毎月ひと手間かかります。
乗り換えるなら、締め日の切れ目でやってください。月の途中で切り替えると、前のソフトと新しいソフトに売掛が分かれて、どちらを見ても残高が分かりません。移すのに手間がかかるのは取引先マスタと品目の単価です。ここをCSVで移せるかは契約前に聞いておく。単価表が数百行あるなら、手入力でやる話ではありません。
もう一つ、続けられるかどうかも判断材料です。工場から戻って夜に事務をやる人が、パソコンを立ち上げないと何もできないソフトを選ぶと、月末にまとめてやることになります。スマホで納品の記録だけ入れておければ、月末は確認して出すだけになる。自分がどこで作業するかを想像してから決めてください。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
支給材の代金が請求書に出てこず、支払通知書で差し引かれるだけの取引先はどうすればいいですか。
その場合は請求書の額面と入金額がずれるのが正常なので、ソフト側では材料の仕入れを別途計上し、入金消込のときに差額を材料代として突き合わせる形になります。差額の理由を毎月メモに残しておかないと、年をまたいだときに何の差か分からなくなります。支払通知書は取引先から電子で届くことが多いので、届いたその月のうちに保存先を決めておいてください。
型代や治具代は、加工賃と同じ請求書に載せていいですか。
同じ請求書でも構いませんが、明細行を分けて品名を「型製作費」などと書き、単価と数量が加工賃と混ざらないようにします。分割で回収する約束なら、初回に総額と回数を注文請書で確定させておくと、途中で担当者が替わっても話が戻りません。分割請求に対応した機能がなくても、明細の摘要欄に「何回目のうちのいくつ目か」を書けば実務は回ります。
取引先のWeb-EDIに直接入力するなら、自分の請求書ソフトは要らないのでは。
取引先が一社だけならその通りで、無理に入れる必要はありません。ただしEDIの画面は自分の売掛の一覧としては使いにくく、複数社を抱えたときに「どこがまだ入っていないか」が分からなくなります。二社目が増えた時点で、自社側の控えと売掛管理を一箇所にまとめる意味が出てきます。