年末調整の書類集め、いつ誰に何を渡すか
年末調整でつまずくのは計算ではありません。書類が返ってこないことです。給与ソフトに数字を入れる作業は半日で終わっても、保険の証明書を出さない人を追いかける時間が二週間かかる。ここを設計しておくかどうかで、年末の忙しさが変わります。
そもそも会社が何を精算しているのか
毎月の給与から引いている源泉所得税は概算です。扶養している家族が増えた、生命保険料を払った、住宅ローンを組んだ——こうした事情は月々の税額表には入っていません。だから年末に一年分の給与を実額で計算し直し、引きすぎていれば返し、足りなければ追加で引く。この精算を従業員本人ではなく会社がやるよう決められているので、「面倒だから自分で確定申告する」と言われても、対象者を勝手に外すことはできません。
集める書類はすべて、この計算に使う材料です。逆に言えば、材料が来なければ控除が入らず、本人の手取りが減ります。回収の督促は「規則だから出してください」より「これを出さないと戻る分が戻りません」と言ったほうが動きます。配布時にその一文を添えるだけで、一次回収の返り具合が変わります。
誰の分を集めるのか、名簿で先に線を引く
最初にやるのは書類の準備ではなく名簿です。年末時点で在籍している人を全員書き出す。パート、アルバイト、役員も入ります。他社にも勤めていて、そちらへ扶養控除等申告書を出している人は自社では精算しません。年内に入社した人は前職の給与を合算するので、前職の源泉徴収票が必要になります。年内に辞めた人は原則として本人の確定申告です。
この線引きを先にやらないと、配りすぎたぶんだけ回収管理が崩れます。十数人の会社でも、二週間経つと「誰から返ってきたか」が分からなくなる。名簿に配布日と回収日の欄を作り、返ってきたらその場で印を付ける。エクセル一枚で足りますが、これを作らずに机の上の紙の山で管理すると、必ず一人二人が抜けます。
集める書類はどれか
申告書と、控除の裏付けになる証明書の二種類です。申告書は会社が用紙を用意して配りますが、証明書は本人が保険会社や金融機関から受け取ったものを持ってくる形になります。
- 扶養控除等(異動)申告書(翌年分の提出と、当年分の異動の確認)
- 基礎控除申告書・配偶者控除等申告書・所得金額調整控除申告書
- 保険料控除申告書と、生命保険・地震保険・国民年金・小規模企業共済等の控除証明書
- 住宅借入金等特別控除申告書と、税務署から届いた証明書・金融機関の残高証明書
- 年内に入社した人の、前職の源泉徴収票
証明書は原本を預かります。「保険会社のサイトで見られます」と言われても、画面のコピーでは足りません。電子の控除証明書は所定の形式のデータでなければ使えないので、紙が確実です。再発行には日数がかかるため、配布の時点で「無くした人は今日のうちに保険会社へ電話」と言い切っておく。ここを遠慮すると、締切の前日に「見つかりません」と言われます。
回収が止まるのはどこか
止まる場所はだいたい決まっています。住宅ローン控除の初年度は本人が確定申告する必要があるため、会社で預かっても処理できません。二年目以降は税務署から本人宛に証明書が届きますが、これを引き出しに入れたまま忘れている人が毎年います。国民年金を自分で払った人の証明書も、届く時期が遅くて手元にないことがある。
もう一つは配偶者やアルバイトをしている子の収入が確定していないケースです。年末の時点では見込みで書いてもらうしかありません。あとで実際の金額が違えば、会社で計算をやり直すか、本人が確定申告して直すことになります。この可能性を配布時に伝えていないと、翌年になって「税金を追加で払えと言われた、会社の計算が間違っている」という話に発展します。伝えておくだけで防げます。
社内の段取りをどう組むか
締切は二段構えにします。会社が計算に入る日ではなく、その手前に本人の提出締切を置く。不備の返却と再提出に使う余白がないと、書き漏れ一つで給与計算の締めに間に合いません。一次回収の段階で三割くらいは記入漏れか押印漏れか証明書の添付漏れがあるものとして日程を引いてください。
誰が催促するかも決めておきます。経理担当や社長が全員に声をかけるより、現場の責任者に名簿を渡して未提出者に言わせたほうが早い。経理からの連絡は後回しにされますが、直属の上司から言われると出てきます。精算は年内最後の給与か、間に合わなければ年明け最初の給与に乗せる形になり、還付が給与明細に出ると従業員は必ず金額を聞いてくるので、明細のどこに出るかを事前に案内しておくと問い合わせが減ります。
紙で集めるか、画面で入力させるか
給与ソフトの年末調整機能を使うと、従業員がスマホやパソコンで入力し、回収状況が一覧で見えます。転記のミスと計算のやり直しが減るのが一番の効果で、紙を集めて回って手入力する時間はほぼなくなります。従業員からの電子提出は、以前は税務署への申請が前提でしたが、現在はその手続きが要らなくなっています。自社のソフトがどこまで対応しているか、必要な準備は記事末尾の公式ページとソフト側の案内で確認してください。
ただし全員が画面で完結するとは考えないほうがいい。パソコンを持たない現場スタッフ、スマホ操作に慣れない年配の従業員は必ずいます。初年度は紙と併用にして、翌年から段階的に寄せる。それと、証明書だけは紙で回収するケースが残るので、「入力は画面、証明書は封筒で提出」という二本立ての説明を用意しておくと混乱しません。
集め終わったあとに残る仕事
計算して精算したら終わりではありません。従業員に源泉徴収票を交付し、市区町村へ給与支払報告書を出し、税務署へ法定調書合計表を提出します。納付のスケジュールも精算後の金額で変わるので、還付が多い年は納付額が減ることを見込んで資金の予定を立てておく。ここを忘れると、年明けに二つの提出物が同時に来て慌てます。
預かった申告書と証明書は会社で保存します。税務署から提出を求められることがあるため、年ごとにまとめて封筒に入れ、どこに置いたか分かるようにしておく。マイナンバーが書かれた書類は別扱いで、鍵のかかる場所に入れて、コピーを机に残さない。退職者から「あの年の源泉徴収票をもう一度ほしい」と言われるのは珍しくないので、給与データと紙をひとまとめにしておくと再発行が数分で済みます。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
中途入社した人の前職の源泉徴収票が届かないときはどうするか
前職分の給与と源泉税額を合算しないと正しい税額が出ないため、揃わないうちは年末調整の計算に入れられません。本人から前の会社へ催促してもらい、それでも間に合わなければ自社では精算せず、本人が確定申告する形になります。前職が廃業している場合など、どうしても入手できないケースの取り扱いは税務署に事情を伝えて確認してください。
年内に辞めた従業員の分も年末調整するのか
原則として在職中の人が対象で、年の途中で辞めた人は退職時に交付した源泉徴収票をもとに本人が確定申告します。ただし年末近くの退職で最後の給与を年内に支払い切っている場合や、死亡退職などは扱いが変わります。退職者から「還付されないのか」と問われることが多いので、退職時に確定申告になる旨を口頭でも伝えておくと後の連絡が減ります。
集めた申告書や証明書は返さずに保管していいのか
申告書は会社が保管し、税務署から求められたときに提出する扱いです。保管が必要な期間は書類の種類で変わるので、記事末尾の公式ページで確認してください。マイナンバーが記載された書類は鍵のかかる場所に分けて置き、コピーを取って机に残さない運用にしておくと、退職者からの問い合わせ対応も楽になります。