建設業の会計ソフト、工事原価をどこまで追うか
建設業の会計ソフト選びは、機能表を横に並べても答えが出ません。決め手になるのは、工事ごとの利益を会計ソフトの中で出すのか、それとも会計は税務用と割り切って原価は別で管理するのか、という一点です。ここが決まらないまま導入すると、入力の手間だけ増えて、知りたかった現場ごとの儲けは結局わからないまま終わります。従業員が数人規模の会社を前提に、判断の順番で整理します。
工事ごとの利益を、会計ソフトで出すか外で出すか
まずここを決めます。会計ソフトの中で工事別の原価を集計するというのは、materialsの仕入も外注の請求も、伝票を切るたびに「どの現場のものか」を必ず選ぶということです。月に数十枚の請求書なら耐えられますが、現場が同時に何件も動いていて、材料屋からの納品書が現場ごとにばらばらに届く状態だと、その紐付けを誰がやるのかという問題になります。社長が夜に一人でやることになるなら、続きません。
逆に、外で出すというのは、会計ソフトには完成工事高と完成工事原価をまとめて入れておいて、現場ごとの粗利はエクセルの工事台帳で追う形です。これでも見積と実行予算の差は見えます。ただし台帳と会計の数字は自動では合いません。合わせる作業を月次でやらないと、決算のときに未成工事支出金がいくらなのか誰も答えられなくなり、税理士から同じ質問が毎年飛んできます。
判断の目安は、同時に動く現場の数と、原価に占める外注費の割合です。現場が数件で、外注先も固定の数社なら、台帳は外でも回ります。現場が入れ替わり立ち替わりで、応援を頼む相手も毎回違うなら、入力の入口を会計ソフト一本にまとめたほうが、二重管理のずれが起きません。
他の業種の帳簿と何が違うのか
一番大きいのは、決算日をまたぐ工事があることです。三月に着工して五月に引き渡す工事があれば、決算のときにその現場に出ていった材料費や外注費は、まだ費用にできません。未成工事支出金として資産に残します。逆に、着手金や中間金をもらっていれば、それは売上ではなく未成工事受入金という預かりの扱いになります。この二つを処理しないと、利益が実態とずれて、銀行に出す試算表の数字が季節ごとに大きく振れます。
科目の呼び方も違います。売上高は完成工事高、売上原価は完成工事原価、売掛金は完成工事未収入金、買掛金は工事未払金。税務申告だけを考えれば一般の科目でも通りますが、建設業許可を持っていて決算変更届を出すなら、いずれ組み替えが必要になります。期中から建設業の科目で入れておけば、その手間が消えます。会計ソフトを選ぶときに、勘定科目を自分で追加・改名できるかを見ておいてください。
もう一つ、原価を労務費・材料費・外注費・経費に分ける習慣があります。小さい会社ほど「外注費に全部入れている」状態になりがちですが、これをやると現場の赤字が出たときに、どこで出たのかを追えません。せめて外注費と材料費だけは分けてください。
小さい会社で外せない条件はどれか
機能を欲張ると、使わない画面ばかりのソフトを高い費用で持つことになります。数人規模で本当に効くのは三つです。ひとつは、工事名や現場名で取引を分類して、そのまま集計が出せること。部門機能でもタグでも呼び方は何でもかまいません。大事なのは、集計を出すのにボタン一回で済むかどうかです。
次に、電子で受け取った請求書や注文請書を、そのまま保存して後から探せること。建設の現場では、元請からの注文書がメールのPDFで来て、現場の写真と一緒にチャットで請書が返ってくる、ということが普通に起きます。紙に印刷して綴じる運用は電子帳簿保存法の下では通りません。取引年月日・取引先・金額で検索できる形で残せるかを、導入前に確認してください。詳しい要件は記事末尾の公式ページにあります。
三つめは、銀行口座とクレジットカードの明細が自動で取り込めること。建設の支払いはガソリン、資材、駐車場、道具と細かいものが毎日出ます。これを月末にレシートの束から手入力していると、それだけで半日が消えます。自動取込にしておけば、あとは科目と現場を選ぶだけになります。
汎用のクラウド会計で足りるのはどこまでか
結論から言うと、数人規模で、同時進行の現場がそれほど多くなく、原価が外注費と材料費に集約されているなら、汎用のクラウド会計で足ります。工事名を部門やタグとして登録し、仕訳を入れるときに必ず選ぶ。それだけで工事別の粗利表は出ます。未成工事支出金の振替も、決算のときに手で数本仕訳を切ればいい話です。
足りなくなるのは、実行予算と実績を並べて途中経過を見たくなったときです。汎用の会計ソフトは、着工前に組んだ予算を持たせる場所がありません。予算はエクセル、実績は会計ソフト、という分かれ方になり、比較のたびにコピーする作業が発生します。月に一度なら我慢できますが、週次で見たいなら別の道具が要ります。
費用は、契約するプランと利用する機能で変わります。工事別の集計に必要な部門機能が上位プランにしかない場合があるので、いちばん安いプランで見積もらないでください。最新の料金は各社の公式ページで確認してください。
建設業専用のソフトに寄せるのはどんな会社か
専用ソフトが効くのは、見積・実行予算・発注・原価・請求までを一本の流れで持ちたい会社です。元請から仕事を受けて、下請に発注書を出し、出来高で請求を上げる。この流れが毎月あるなら、会計ソフトの外で見積と発注を作っている限り、同じ数字を二回入力し続けることになります。専用ソフトはそこを一本にします。
ただし、専用ソフトの多くは原価管理が主で、仕訳や申告は会計ソフトに渡す前提の作りになっています。つまり二つ持つことになります。数人の会社でそこまで組むかは、社長が現場に出ているかどうかで変わります。社長が朝から現場に行き、事務は奥さんが週に何日か見ている、という体制なら、覚えることが増えるほうが痛い。まずは汎用の会計ソフトで工事別集計を回して、手に負えなくなってから専用を足すほうが、失敗が小さく済みます。
許可を持っている会社が追加で見る点
建設業許可を持っていれば、毎期、決算変更届を出します。ここで出す財務諸表は建設業の様式で、税務申告用の決算書とは科目の並びが違います。会計ソフトから直接その様式は出ません。誰かが組み替えます。期中から完成工事高と兼業事業売上を分けて記帳しておけば、この組み替えが単なる転記で終わります。分けていないと、一年分の売上を伝票までさかのぼって仕分ける羽目になります。
経営事項審査を受けるなら、もう一段細かくなります。完成工事原価の中の労務費、外注費、経費の内訳が点数に関わってきます。社員の給与のうち現場に出ている分をどう按分するか、その基準を先に決めて、毎期同じ基準で通してください。年によって基準が変わると、審査で説明を求められます。青色申告の帳簿保存の要件と合わせて、記事末尾の公式ページで根拠を確認しておくと安心です。
入れ替えるとき、どこで詰まるか
乗り換えで一番詰まるのは、期の途中で切り替えようとしたときです。工事が決算をまたいでいるので、未成工事支出金の残高を新しいソフトに正しく持っていかないと、完成したときの原価が合いません。切り替えは期首に合わせるのが原則です。どうしても途中でやるなら、開始残高を税理士に作ってもらってください。
次に詰まるのが取引先データです。外注先や材料屋の名称、インボイスの登録番号、支払サイトは、たいてい手で入れ直すことになります。数十件なら一日仕事ですが、この機会に取引のなくなった先を落としておくと後が楽です。過去の仕訳データは、形式が合えば取り込めることもありますが、部門や工事名の紐付けまでは引き継げないと思っておいたほうがいい。
最後に、現場の入力ルールを決めてから切り替えること。誰が、いつ、どの単位で工事名を入れるのか。ここを決めずにソフトだけ新しくすると、分類のない仕訳が積み上がり、三か月後には工事別の集計が使い物にならなくなります。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
一人親方への外注費は、会計ソフト上でどう管理すればいいですか
支払先ごとにインボイスの登録があるかどうかを台帳に持たせ、仕訳の税区分を分けて入力するのが基本です。多くのソフトは取引先マスタに登録番号の欄があり、登録の有無で税区分が自動で切り替わります。ただし登録状況は途中で変わることがあるので、期首と、新しく取引を始めたときに確認する運用にしてください。経過措置の扱いは変更が入るため、最新の内容は記事末尾の公式ページで確かめてください。
工事台帳はエクセルのままでも問題ありませんか
同時に動く現場が数件までで、原価の大半が外注費と材料費なら、エクセルでも回ります。問題になるのは、会計側の数字と台帳の数字が合わなくなったときに、どちらが正しいか誰も言えなくなることです。エクセルを続けるなら、月次で完成工事原価の合計と台帳の合計を突き合わせる担当と日を決めてください。それができないなら、ソフト側に寄せたほうが結局は早いです。
建設業許可の決算変更届に付ける財務諸表は、会計ソフトから出せますか
一般的な会計ソフトが出すのは税務申告用の決算書までで、建設業の様式にそのまま使える形では出ません。勘定科目を許可の様式に組み替える作業が必ず入ります。行政書士や税理士に任せている場合でも、完成工事高と兼業売上を期中から分けておけば、その組み替え作業が短くなります。提出時期や様式は所管の窓口で最新のものを確認してください。