会計ソフトの乗り換えで引き継げないもの
会計ソフトの乗り換えでつまずくのは、機能の違いではありません。移行できるものとできないものの線引きを知らないまま切り替えて、あとから手作業が発生することです。先に線引きを確認してください。
移せるものと移せないもの
製品の組み合わせによって差はありますが、傾向はおおむね共通しています。
比較的移しやすいもの
- 過去の仕訳データ。形式を合わせれば取り込めることが多い
- 取引先の一覧。名称と識別のための情報が中心なので移しやすい
- 勘定科目の一覧。ただし名称の対応づけが必要になる
移せないと考えたほうがよいもの
- 銀行・クレジットカードの連携設定。移行先で登録し直しになる
- 自動仕訳のルール。学習した内容は引き継がれない
- 帳票のレイアウトや独自の設定。作り直しになる
- 添付した書類。まとめて移せない製品がある
勘定科目の対応づけが一番の山場
移行元と移行先で科目の名称が違うと、取り込みで弾かれます。対応表を先に作ってから取り込むのが結果的に速い進め方です。件数が多いほど、行き当たりばったりで直す方式は破綻します。
科目を整理したいと考えているなら、このタイミングが唯一の機会です。移行後に統合しようとすると、過去の仕訳との整合が取れなくなります。
乗り換える時期は期首しかない
期の途中で乗り換えると、同じ事業年度の記録が二つのソフトに分かれます。決算のときに両方を突き合わせることになり、その作業は乗り換えで浮くはずだった手間を簡単に上回ります。
期首に切り替えれば、前の年度は前のソフトの中で完結し、新しいソフトは開始残高から始まります。過去の仕訳を移せなかったとしても、前年度分は前のソフトから書き出したファイルで参照できます。移行の成否にかかわらず、期首を選ぶだけで最悪の事態は避けられます。
逆に言えば、期の途中で「今すぐ変えたい」と思ったときが、いちばん判断を誤りやすい時期です。不満が溜まっているときほど、切り替えの手間を軽く見積もります。次の期首まで待てるかを、一度落ち着いて考えてください。
取り込んだあとに必ず突き合わせる
仕訳を取り込むと、件数が合っていても金額の集計が合わないことがあります。科目の対応づけを間違えた行が、別の科目に吸い込まれているためです。件数だけを見て「移行できた」と判断すると、決算のときに気づきます。
確認の方法は決まっています。移行元で試算表を出し、移行先でも同じ期間の試算表を出して、科目ごとに突き合わせます。ここで差が出たら、その科目の対応づけを見直してください。全体の残高が合っていても、科目の中身が入れ替わっていることがあります。
この作業を飛ばしたくなる気持ちは分かりますが、飛ばした場合に気づくのは決算の直前です。時間の余裕がまったくない時期に、一年分を遡ることになります。
解約の順番を間違えない
解約するとデータを取り出せなくなる製品があります。新しいソフトで問題なく回ることを確認してから解約するという順番を崩さないでください。並走する期間の費用は、やり直しの手間に比べれば小さいものです。
料金や解約の条件は変わるため、契約前に記事末尾の各社の公式ページで最新の内容を確認してください。
帳簿の保存義務は移行後も続く
会計ソフトを変えても、帳簿や書類の保存義務がなくなるわけではありません。移行元にしか残っていないデータがある場合、その保存をどうするかを決めてから解約してください。保存の要件は記事末尾の国税庁のページで確認できます。
税理士に依頼しているなら先に相談する
顧問税理士がいる場合、ソフトを変えると事務所側の作業も変わります。事務所が扱っていないソフトに移ると、毎月の資料のやり取りが手作業に戻ることがあります。そうなると、自社で浮いた時間より事務所とのやり取りで失う時間のほうが大きくなります。
相談の順番も大事です。決めてから伝えるのではなく、候補の段階で「これに変えようと思っているが、そちらは対応していますか」と聞いてください。決めたあとに伝えると、事務所は反対しにくくなり、無理な運用を引き受けることになります。
乗り換えないという結論もある
不満の中身を分けてみると、ソフトを変えても解決しないものが混ざっていることがあります。入力そのものが面倒だという不満は、たいていどの製品でも大きくは変わりません。銀行の明細が自動で取り込めないという不満は、ソフトではなく銀行側の対応の問題かもしれません。
いま困っていることを書き出して、それぞれ「ソフトを変えれば消えるか」を確かめてください。消えないものが多いなら、乗り換えの手間を払う価値はありません。設定を見直す、使っていない機能を知る、といったところで解決することもあります。
それでも変える理由が残るなら、そのときは迷わず進めてください。判断の材料がそろっていれば、途中で気持ちが揺れて作業が止まることもなくなります。
移行の作業を誰がやるかを決めておく
乗り換えの作業は、通常の記帳と並行して発生します。誰がやるのかを決めないまま始めると、経理の担当者が通常業務の合間にやることになり、どちらも遅れます。
期首に切り替えるなら、その前の一か月に準備の時間を確保してください。対応表を作る、書き出したファイルを確認する、といった作業は事前にできます。切り替え日にまとめてやろうとすると、その日から記帳が止まります。一人でやっている会社ほど、この段取りが効きます。
作業を外部に頼む選択肢もあります。移行だけを請け負う事業者や、税理士事務所が対応してくれることもあります。自社でやる場合の時間と、頼んだ場合の費用を並べて比べてください。移行は一度きりの作業なので、ここに時間をかけて本業が止まるくらいなら、外に出したほうが結果的に安く済むこともあります。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
仕訳データは全部移せますか
形式を合わせれば取り込めることが多いですが、勘定科目の対応づけが必要です。移行元と移行先の組み合わせで手順が違うので、移行先の公式ヘルプで確認してください。
銀行やカードの連携設定は引き継げますか
引き継げません。移行先で登録し直す必要があります。連携している口座が多いほど、この作業に時間がかかります。
解約したあとでもデータは取り出せますか
取り出せなくなる製品があります。解約する前に必要なデータを書き出してください。順番を逆にすると戻せません。