業務委託が増えた飲食の独立、請求と入金をどう回すか
独立して最初のうちは、取引先は一つか二つです。ヘルプで厨房に入る店、月に何度かのイベント、知り合いの店のメニュー開発。それが三つ四つと増えたあたりで、誰にいくら請求したのか、どれが入金済みなのかが手元でつかめなくなります。売上が増えているのに通帳の残高が思ったより少ない、という状態はここから始まります。
取引先が三つを超えたあたりで何が壊れるか
壊れるのはまず記録です。週の前半はA店にヘルプで入り、後半は自分の仕込み、週末はイベント。稼働した日と時間は、手帳とスマホのメモとLINEのやりとりに散らばります。月が変わってから思い出そうとしても、あの日は何時から入ったか、追加で頼まれた仕込みは別料金だったか、はっきりしません。曖昧なまま少なめに請求して終わる、というのが実際によく起きることです。
次に壊れるのが入金の確認です。振込名義は店名とは限りません。運営会社の法人名だったり、社長個人の名前だったりします。通帳を見ても、どの仕事の分なのか結びつきません。請求漏れは相手から催促されないので、こちらが気づかない限り永久に入ってきません。半年経ってから請求するのは、金額が正しくても言い出しにくくなります。
仕事を受ける前に、紙で決めておくこと
受ける前に条件を文字にしておくと、あとの請求作業がほぼ機械的になります。逆にここを飛ばすと、毎月の請求のたびに「あれはどうでしたっけ」と相手に聞くことになり、その一往復が積み上がって月初がつぶれます。決めておく項目はそう多くありません。
- 報酬の決め方(時間か、一日か、一件か)と、時間を超えたときの扱い
- 交通費・材料費・道具の持ち出しを別で請求できるか
- 締め日と支払日、振込手数料をどちらが持つか
- 直前にキャンセルされたときの扱い
- 請求書の送り先と送り方(担当者宛のメールか、経理部か、先方のシステム入力か)
発注する側には、取引の条件を書面やメールで示す義務が法律で定められています。ですから「条件をメールで一度いただけますか」と聞くのは、特別に警戒されるような要求ではありません。相手が慣れていない小さな店なら、こちらから文面を作って送り、返信をもらう形で構いません。制度の中身は記事末尾の公式ページで確認してください。
締め日と支払サイトがバラバラなときの回し方
取引先ごとに締め日も支払日も違います。こちらの都合で一本に揃えようとしても、相手の経理の締めは動きません。自分側を相手に合わせるほうが早い、と割り切ったほうがいいです。そのかわり、自分の手元では二つだけ固定します。請求書の番号を通しで振ること、取引先ごとの締めと支払条件を一枚の表にまとめておくことです。
稼働の記録は日次でつけます。その日の帰り道に、スマホのカレンダーへ店名と入った時間だけ入れる。これだけで、締め日の集計が思い出す作業ではなく写す作業になります。そして月初に半日、請求作業の時間をあらかじめ空けておく。空けておかないと、目の前の仕込みに押されて請求書は必ず後回しになります。
入金が合わないとき、どこを疑うか
請求した額と入った額が違う原因は、だいたい四つに絞れます。一つ目は源泉徴収です。料理を提供する仕事そのものは引かれないことが多い一方、レシピ監修や誌面・撮影に関わる仕事が混ざると引かれることがあります。同じ相手でも案件によって扱いが変わるので、額面と入金額の差が源泉で説明できるかを毎回見ます。
二つ目は振込手数料。相手が差し引いて振り込むなら、それは事前の取り決め次第です。三つ目は相殺で、店の材料を分けてもらった分や、まかない、機材のレンタル代が引かれているケース。四つ目は単純な一部入金や翌月回しです。どれであっても、差額に気づいたその月のうちに相手へ確認してください。数か月放置すると、先方の担当者も何を引いたか覚えていません。年末にまとめて調べようとすると、結局こちらが泣くことになります。
現金でもらう仕事を、どう分けて扱うか
イベント出店の売上や、当日その場で手渡される報酬は、放っておくと財布の中で生活費と混ざります。混ざった時点で、いくら稼いだのかは誰にも分からなくなります。ルールは単純で、受け取ったら事業用の口座に入れる。金額を確定させたいだけなので、すぐに引き出して使っても構いません。入金の記録が通帳に残ることに意味があります。
事業用の口座を生活用と分けておくと、通帳の入出金がそのまま帳簿の下書きになります。会計ソフトに口座を連携させている場合はなおさらで、生活費の引き落としが混ざっていると、月末に一件ずつ「これは事業ではない」と外す作業が発生します。その手間は毎月効いてきます。
ソフトを入れるかどうか、どこで決めるか
判断材料は二つです。月に出す請求書の枚数と、相手が求める形式。毎月同じ相手に同じ内容を出すだけなら、表計算ソフトの雛形でも回ります。相手ごとに単価も締めも違い、途中で追加作業が入るようになると、番号の管理と控えの保存が先に崩れます。同じ番号を二回使った、送ったつもりのPDFが下書きに残っていた、というのは実際によくある事故です。
もう一つ、メールでやりとりした請求書や、こちらが送ったPDFの控えは、電子のまま保存しておく必要があります。印刷して紙で綴じるだけでは足りない場面があるので、保存の形はソフトを選ぶ段階で確認しておいてください。料金体系は各社で変わるため、最新の料金は公式ページで確認してください。
入金額を、そのまま使える金と思わない
業務委託の入金からは、社会保険料も税金も引かれていません。国民年金と国民健康保険、住民税、そして所得税を、あとから自分で払います。独立一年目は前年の給与に対する住民税も重なるので、通帳の残高だけを見て動くと、支払の月に一気に詰まります。入金があった時点で、税と保険に回す分を別口座へ移してしまうのが一番簡単な防ぎ方です。
青色申告を選ぶなら、日々の帳簿づけと保存が前提になります。請求と入金の管理をここまでの形で回していれば、記帳はその延長でほぼ終わります。逆に一年分を確定申告の直前にまとめてやると、入金の差額の理由をもう誰も思い出せません。手元に残る利益が見えてきたら、退職金がわりの共済のように、掛けた分が所得から引かれる制度も検討の対象になります。制度の条件と金額は記事末尾の公式ページで確認してください。
一次ソース(公式ページ)
- 内閣官房 — フリーランス・事業者間取引適正化等法
- e-Gov法令検索 — 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)
- 国税庁 — 青色申告制度(帳簿の記帳と保存)
- 日本年金機構 — 国民年金
- 中小機構 — 小規模企業共済
- 国税庁 — 確定申告に関する手続き
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
発注書もメールもくれない取引先には、どう頼めばいいですか
こちらから確認のメールを送り、その返信を条件の記録にするのが早いです。「この日にこの作業を、この決め方で、締めと支払はこの条件で伺っています」と書いて送れば、相手は違うときだけ訂正してきます。発注する側にどこまでの義務があるかは記事末尾の公式ページで確認できます。口頭だけで進めると、担当者が異動した時点で条件がなかったことになります。
請求書に源泉徴収の欄を自分で作るべきですか
相手の運用によります。引くかどうかを決めるのは支払う側なので、こちらが欄を作っても相手が引かないこともあれば、欄がなくても引かれることもあります。大事なのは、請求した額と入金された額の差を自分の記録に残すことです。支払調書は必ず届くものではなく、届いても翌年になるので、それを待って集計するとまず間に合いません。
屋号の口座は作ったほうがいいですか
取引先が増えるなら作る価値はあります。振込名義が屋号だと相手の経理が処理しやすく、こちらも通帳をそのまま入金台帳として使えます。ただし開設には審査があり、開業届の控えや事業の実態がわかる資料を求められることが多く、すぐには作れません。当面は個人名の口座を一つ事業専用にして、生活費の引き落としを外しておけば足ります。