法人成り後の領収書と請求書、個人時代の分と混ぜない
法人成りして最初の数か月でいちばん散らかるのが、領収書と請求書の置き場です。会社の口座はできたのに引き落としは個人口座のまま、名刺は会社名なのに請求書は個人名で届く。この時期の書類は、あとから見ると「どちらの帳簿に入れたのか分からないもの」の塊になります。決算の直前や税務調査のときに探し回らないよう、最初に決めておくことを順に説明します。
法人成りの日で書類を切る、切れないものはどうするか
まず紙とデータを、引継ぎの日より前か後かで物理的に分けます。会社は個人事業とは別の人格なので、同じ棚に混ぜて綴ると、個人の申告と会社の申告のどちらの根拠なのかが判別できなくなります。判断の軸は日付と宛名です。会社名で発行され、引継ぎ後の取引なら会社の書類。引継ぎ前の取引で支払いだけが後ろにずれたものは、原則として個人の書類として個人側で保存します。
やっかいなのは、宛名が個人名なのに会社の事業で使った分です。リース、携帯、電気、サブスクの類は名義変更に時間がかかり、その間も請求は個人名で届きます。この場合は請求書の写しに「会社が使用・会社が負担」と分かる精算書を付けて会社側に綴り、原本は名義人側に残す形にしておくと、どちらから聞かれても説明が通ります。迷ったものをその場で判断しないのもコツです。判断保留の封筒を一つ作り、月末にまとめて仕分けたほうが、間違った綴りをあとで解体するより早い。
個人事業の帳簿と領収書は、誰が持ち続けるのか
個人事業を廃業しても、その期間の帳簿と証憑を保存する義務は個人に残ります。会社に引き継がれるわけではありません。ここを勘違いして「法人成りしたから前の分は不要」と処分してしまうと、過去の年分について問い合わせが来たときに何も出せません。保存すべき期間は制度で決まっているので、具体的な期間は記事末尾の公式ページで確認してください。
実務上は、会社の書庫の一角を個人時代の箱に充てて構いません。ただし箱の外側に「個人事業・○年分」と書き、会社の年度別ファイルとは棚を離してください。調査は会社に対して来ることが多く、同じ棚に混在していると、その場で片方だけ出すのに時間がかかります。倉庫を借りるほどの量でなければ自宅でもいいのですが、どこに何があるかを一枚にまとめておくこと。社長の記憶だけが索引になっている会社は、決算のたびに探す時間が増えます。
紙で来たものとデータで来たものを、入口で仕分ける
いまの取引先は郵送とメール添付が混ざります。同じ会社から先月は封書、今月はPDFという状態も普通です。ここで「届いた形に合わせて置き場を決める」とやると、月末に両方の場所を見に行かなければならず、片方を見落とします。決めるのは取引先ごとではなく自社の入口です。紙は届いたその日に受け取り用のトレーに入れ、メール添付は請求書専用のフォルダかメールアドレスに集める。この二本だけにします。
もう一つ、メールで受け取ったPDFを印刷して紙で綴るだけの運用は避けてください。メールやサイトからダウンロードして受け取った請求書・領収書は、電子取引としてデータのまま保存することが原則になっています。紙に印刷したものを本体扱いにしていると、その分だけ保存できていない状態になります。細かい要件と例外の扱いは改正が続いているので、記事末尾の公式ページで最新の内容を確かめてください。
電子取引のデータは、どこに置いて何で探せるようにするか
データ保存でつまずくのは技術ではなく、名前の付け方と置き場です。ダウンロードしたままの「invoice_0001.pdf」が数百件たまると、取引先も日付も分かりません。ファイル名は日付・取引先名・書類の種類の並びで固定し、社内で誰が保存しても同じ形になるようにします。会計ソフトの仕訳に添付できるなら、そこに入れるのがいちばん探しやすい。仕訳から辿れるので、決算で疑問が出たときに一手で原本に届きます。
クラウドストレージに置く場合は、フォルダを月別か取引先別のどちらか一つに決めてください。両方作ると、必ず片方にしか入っていないファイルが出ます。あわせて、データを訂正・削除するときのルールを文書にしておく必要があります。様式や記載例は公式ページに出ているので、自社の名前を入れて使えば足ります。
- 受け取ったメールと添付ファイルの両方を残しているか
- ファイル名で日付と取引先が分かるか
- 保存先が社長の個人アカウントになっていないか
社長のカードや立替が混ざったとき、何を残すか
法人成り直後は法人カードの審査が終わっておらず、社長の個人カードや現金で払う場面が続きます。このときの領収書は宛名が個人名で出ることが多く、そのまま会社の綴りに放り込むと、なぜ会社の費用なのかが分からなくなります。残すのは領収書だけでなく、誰が何のために払い、いつ会社から返したかが分かる精算の記録です。返していないなら役員からの借入として帳簿に残ります。
月に一度、決めた曜日に精算をまとめる形にしておくと、あとが楽です。たまに聞くのは、半年分の領収書をまとめて出してきて、用途を思い出せずに雑費で処理してしまうケース。用途が書けない領収書は、経費として説明できない支出になります。領収書の裏か余白に、相手先や目的を一行書く習慣をこの時期に付けてしまうのが結局は近道です。
インボイスの番号が変わることで、保管に何が起きるか
個人事業で登録していた番号と、会社で取得する番号は別物です。取引先に切り替えを案内していないと、法人成り後も個人名義・旧番号の請求書が届き続けます。それを会社の仕入税額控除の根拠として綴っても、宛名も番号も会社のものではないため、あとで整理が必要になります。案内は開業の挨拶と一緒に、会社名・番号・請求書の宛名・送付先を一枚にまとめて出すのが早い。
受け取る側の保管では、登録番号が入っているかどうかで扱いが分かれます。番号のない請求書が届いたときにその場で相手に言えるよう、確認する人を決めておいてください。会社が課税事業者としてどう始めるかによって必要な保存の範囲は変わるので、自社の立場は顧問か公式ページで確認してから運用を固めるほうが安全です。
一期目のうちに決めておくと、次の決算が軽くなること
保管は仕組みというより習慣です。月末に何をするかが決まっていない会社は、決算前に一年分の封筒を開けることになります。決めるのは、締めの日に紙のトレーを空にする担当、データのフォルダを見て抜けを探す担当、通帳の出金と手元の領収書を突き合わせる時間。社長一人の会社でも、カレンダーに枠を取るかどうかで結果が変わります。
あわせて、預金の出入りに対して証憑がない支出をゼロにしておくこと。通帳に出金があるのに領収書がない行が残ると、決算のときに「これは何だったか」を思い出す作業が発生します。逆に領収書があるのに帳簿に入っていない分は、費用が落ちないまま終わります。どちらも探すコストは同じで、月末に十五分見ておけば片付く話です。二期目に入ってから体制を作り直すほうが、はるかに手間がかかります。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
個人事業のときの帳簿や領収書を、会社の書庫にまとめて置いてもいいですか
置き場所は同じでも構いませんが、箱と索引は分けてください。個人事業の書類の保存義務は法人ではなく個人に残るため、会社の資料と混ざると自分の申告について聞かれたときに取り出せません。自宅や貸倉庫に移すなら、どの箱がどこにあるかを一枚のメモにして、顧問の税理士にも渡しておくと決算前の問い合わせが減ります。
名義変更が終わらず個人名で届く電気代や通信費の請求書は、どちらに保管しますか
契約名義が切り替わるまでは名義人である個人側で原本を保存し、会社が負担した分は精算書に写しを添えて会社側にも綴ります。名義変更の完了通知や切替日が分かる書面を同じ場所に入れておくと、どこから会社の費用になったのかを後で説明できます。切替が長引く契約は、一覧にして毎月の締めで進捗を確認してください。
スキャンしたら紙の領収書は捨てていいですか
制度の要件を満たすスキャナ保存の形にできれば紙を残さない運用も可能ですが、読み取りの確認を誰がいつやるかを決めるまでは捨てないほうが安全です。要件の細かい内容は改正が入るので、記事末尾の公式ページで最新の内容を確認してください。なお契約書や原本の返却が必要な書類は別扱いにしてください。