不動産取得税の特例が効くのは、どの取引か
不動産取得税は、店舗や工場の名義が動いたときに都道府県が一度だけ課す税です。毎年かかる固定資産税とは別物で、しかも登記からしばらく経ってから納税通知が届きます。事業承継やM&Aで手元の資金を使い切ったころに、思っていなかった額の通知が郵便で来る。これを軽くする特例はありますが、使えるかどうかは契約を結ぶ前の段取りでほぼ決まります。
不動産取得税の通知は、どんな取引のあとに届くか
この税がかかるのは、土地や建物を取得したときです。売買で買った場合はもちろん、工場を新築した、倉庫を増築した、交換で手に入れた、という場合も対象になります。登記をすると法務局から都道府県に情報が回り、そこから課税の計算が始まるので、登記した月にすぐ請求が来るわけではありません。この時間差が厄介で、決済が終わって気が緩んだころに届きます。
一方で、相続で引き継いだ不動産には課税されません。親が持っていた店舗の土地建物をそのまま継いだ場合、不動産取得税の通知は来ないということです。ところが贈与で名義を移すと課税されます。先代が元気なうちに名義だけ変えておこう、という話が出たときに、ここを知らずに動くと余計な税を払うことになります。
事業で関係してくる場面は、ほぼ三つに絞られます。自社で物件を買ったとき、建てたとき、そして事業承継やM&Aで会社間を不動産が移ったとき。特例の話が出るのは三つ目です。
会社ごと買うのか、事業だけ買うのかで分かれる
同じ「会社を引き継ぐ」でも、取引の形によって不動産取得税が出たり出なかったりします。株式を買い取る形なら、法人格はそのまま残り、不動産の持ち主は買収される会社のままです。所有者が変わっていないので、不動産取得税は発生しません。登記も動きません。
これに対して、事業譲渡で店舗ごと譲り受ける場合は、不動産の名義が売り手の会社から買い手の会社へ移ります。ここで課税されます。会社分割や合併でも名義は動きますが、一定の要件を満たす組織再編は非課税として扱われる枠があり、事業譲渡とは扱いが違います。つまり、どの形を選ぶかを決めた瞬間に、不動産取得税がかかる取引なのかどうかが決まっているわけです。
交渉の初期に「株を買うのか、資産を買うのか」を決めることになりますが、その判断材料に不動産取得税を入れ忘れると、後で金額を見て驚きます。対象物件が工場や複数店舗になると、一回の支払額としては無視できません。
特例は何を軽くして、何を前提にしているか
中小企業が事業承継等のために不動産を取得したとき、経営力向上計画の認定を受けていれば、不動産取得税が軽減される仕組みがあります。あわせて、所有権移転登記にかかる登録免許税の軽減も用意されています。どちらも計画の認定が土台で、認定がなければどちらも通常どおりの負担になります。軽減される割合や対象の範囲は改正で動くので、記事末尾の公式ページで最新の内容を確認してください。
前提になるのは、自社が中小企業者に当たること、そして計画の中に事業承継等に関する事前調査の内容を書き込むことです。買う側が相手の資産や債務をきちんと調べたうえで引き継ぐ、という筋道が制度の建て付けになっています。調査を省いて計画だけ出す、という使い方は想定されていません。
対象になるのは、計画に書いた事業承継等によって取得する不動産です。計画と関係のない物件を後から買い足しても、この特例は乗りません。
順番を間違えると、あとから直せない
いちばん多いつまずきは、認定より先に所有権が移ってしまうことです。計画の認定は、取得する前に受けている必要があります。決済と登記を済ませてから「そういえば特例があったらしい」と気づいても、遡って適用することはできません。税額の計算そのものが済んでしまっているからです。
実務の流れとしては、相手と大枠が固まった段階で特例を使うかどうかを決め、事前調査を行い、その内容を盛り込んだ経営力向上計画を作って認定を受け、そのうえで契約の決済と登記に進みます。認定には審査の時間がかかるので、決済日を先に相手と約束してしまうと、間に合わせるために特例を諦めることになります。相手のある話なので、スケジュールを握る段階で税理士や支援機関に一度相談しておくほうが安全です。
登記が終わったら、都道府県税事務所への申告が残ります。黙っていても課税通知は来ますが、軽減を受けるための申告や申請をしないと、通常の税額のまま計算されます。
通知が届いてからでは遅いこと
不動産取得税は、取引が終わってからしばらく経って通知が届きます。その間に買収資金の支払い、改装費、運転資金の手当てと出費が続いているので、資金繰り表にこの税を載せておかないと月末に足りなくなります。金額の目安は対象不動産の評価額から計算されるため、契約前に税理士に概算を出してもらい、支払予定として先に押さえておいてください。
申告や減額の手続きには期限があり、都道府県ごとに定めがあります。登記を司法書士に任せきりにしていると、税の申告が誰の仕事なのか宙に浮いたまま期限を過ぎることがあります。誰が都道府県税事務所に出すのかを、決済前に名指しで決めておくこと。これを決めていない会社が、いちばん取り逃がします。
誰に、どの順番で聞くか
最初に相談すべきは、普段見てもらっている税理士です。取引の形が株式譲渡なのか事業譲渡なのかで課税の有無が変わるため、契約書の案を見せて確認します。計画の認定申請は認定経営革新等支援機関に手伝ってもらう会社が多く、そこで事前調査の進め方もあわせて相談できます。登記と登録免許税は司法書士の領域です。
相談の場で押さえておきたいのは、次の点です。
- この取引で不動産の名義が動くかどうか
- 取得予定日と、認定が下りる見込みの時期の前後関係
- 対象になる物件と、計画に書く事業承継等の範囲が一致しているか
- 申告を誰が、どの窓口に出すか
制度の内容は改正で変わります。前の案件で使えたから今回も同じ、とは限りません。金額や要件の最新の中身は、記事末尾の公式ページで確認したうえで動いてください。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
親から店舗の土地建物を相続した場合も、不動産取得税はかかりますか。
相続による取得は非課税で、通知は届きません。ただし遺言で相続人以外の人に特定の不動産を渡す場合や、生前の贈与で名義を移す場合は課税の対象になります。相続か贈与かで扱いが変わるので、生前に名義を動かす話が出たときは、先に課税されるかどうかを確認してください。
不動産取得税がかからない株式譲渡にせず、わざわざ事業譲渡を選ぶ理由は何ですか。
株式譲渡は会社をまるごと引き継ぐため、把握していない債務や係争も一緒に付いてきます。欲しい店舗と取引先だけを選んで引き継ぎたい場合は事業譲渡が選ばれます。税金だけで形を決めると、後から出てきた債務で損をすることがあるので、税額と引き継ぐリスクを並べて比べる話になります。
計画の認定を受ける前に契約書を交わしてしまいました。もう特例は使えませんか。
基準になるのは契約日ではなく所有権が移った日です。決済と登記がまだなら間に合う可能性があります。ただし事前調査の実施や計画の記載内容が要件に絡むため、契約済みの案件は自己判断せず、窓口か支援機関に経緯を伝えて確認してください。