美容室のインボイス — 請求書ソフトで確認する点
美容室でインボイスの話が出たとき、最初に整理すべきは「そもそも誰に請求書を出しているか」です。来店客の会計はレジで完結していて、請求書を書く相手は月に数件しかない、という店が多い。その数件が何なのかで、請求書ソフトに求めるものはまるで変わります。
店の売上のうち、請求書が必要なのはどこか
一般のお客さんへのカット・カラーは、その場で精算してレシートを渡して終わりです。これは請求書ではなく領収書・レシートの形で足ります。小売や飲食と同じく、不特定多数のお客さんを相手にする業種は、記載を簡略にした形式(適格簡易請求書)でよい扱いになっています。つまり店頭分については、請求書ソフトではなくレジまわりの話です。
問題は、レジを通らない売上です。ブライダルや撮影の出張ヘアメイクを法人から受けている、企業のイベントに入っている、美容学校や介護施設への訪問理美容がある、店販商品をまとめて他社に卸している。こういう取引は、相手の経理が請求書を求めてきます。相手が経費として処理する以上、登録番号のない請求書だと相手の税額計算が不利になり、次から声がかからなくなることもある。
もうひとつ見落とされるのが、面貸し(シェア席)の場所代です。フリーランスのスタイリストに席を貸して月々いくらか受け取っているなら、それはサロン側の課税売上で、相手にとっては経費です。相手も自分の申告で使うため、番号入りの請求書を毎月求めてきます。ここが請求書ソフトを入れる一番わかりやすい理由になります。
請求書ソフトを別に持つ必要があるかどうか
レジ(POS)にレシート発行機能があるなら、店頭分はそこで完結します。無理に請求書ソフトへ寄せると、同じ売上を二重に記録することになって月末の突合が増えるだけです。逆に、面貸しや法人向けの請求が毎月あるなら、レジの領収書機能では宛名も明細も足りません。
判断の順序はこうです。まずレジのレシートに登録番号と税率ごとの区分が印字できるかをメーカーに確認する。次に、レジを通らない請求が月に何件あるかを数える。数件でも毎月あるなら、手書きやエクセルでは番号や税率の記載漏れが必ず出るので、発行の型が決まっているソフトのほうが早い。年に一、二度しかないなら、既に使っている会計ソフトに付いている請求書機能で足りることが多いです。
ソフト側で実際に見るべき項目
営業資料に「インボイス対応」と書いてあっても、対応の中身はソフトによって差があります。確認するのは次の点です。
- 自社の登録番号を請求書と領収書の両方に印字できるか
- 税率ごとに売上を分けて、それぞれの合計と税額を出せるか
- 消費税の端数処理を、一枚の請求書につき税率ごとに一度だけ行う設定になっているか
- 値引きや返金をしたときに、その分の書面(返還インボイス)を出せるか
- 発行した控えを、後から取引先名・日付・金額で探せるか
端数処理は地味に効きます。明細行ごとに消費税を計算して足し上げる古い作りのソフトだと、要件を満たさない請求書ができてしまう。相手の経理から差し戻されて再発行、という手戻りが起きます。導入前にサンプル請求書を一枚出してもらい、行ごとに税額が付いていないかを見てください。
店販商品を扱っていて持ち帰り用の飲料などを置いている場合は、税率が分かれます。施術と物販が同じ請求書に混ざる場面があるなら、税率別の集計が正しく出るかは必ず試してください。
業務委託スタイリストに払うときは、出す側と受け取る側が入れ替わる
面貸しの場所代を受け取る一方で、歩合で入ってもらっている委託スタイリストに報酬を払っているサロンもあります。この支払いを経費として税額計算に使うには、相手から番号入りの請求書をもらうのが原則です。ところが、毎月きっちり請求書を出してくれる人は少ない。締め日を過ぎても来ないと、支払いも記帳も止まります。
これを解決する方法として、サロン側が支払明細(支払通知書)を作り、そこに相手の登録番号を載せて内容の確認をとる形が認められています。相手に書類を書かせず、サロンの側で型を決められるので、毎月の流れが安定します。請求書ソフトを選ぶときは、こうした支払明細を発行できるかを見ておくと、後で別の仕組みを足す必要がなくなります。
相手が免税事業者のままという選択をしている場合もあります。その場合、支払った消費税分をサロン側で控除に使えるかは扱いが分かれるので、契約金額の話も含めて先に整理しておくほうがいい。後から一方的に報酬を下げると別のもめ事になります。
電子で送った請求書の控えは、どこに残るのか
面貸しの請求書をメールやチャットでPDF送信しているなら、その控えは電子データとして保存する必要があります。紙に印刷してファイルに綴じる、という運用だけでは足りません。ここは電子帳簿保存法の話で、インボイスとは別のルールとして動いています。
実務で確認するのは、発行した請求書がソフトの中に残り続けるか、そして取引先名・日付・金額で検索できるかです。送信して終わりで履歴が消えるタイプだと、サロン側で別途フォルダに保存する作業が残ります。仕入側も同じで、材料商社の請求書がウェブ明細に切り替わっていたら、それは電子データのまま保存する対象です。毎月ダウンロードして決めた場所に置く、という手順を誰の仕事にするか決めないと、決算前にまとめて探す羽目になります。
細かい保存要件は改正が入ることがあるので、最新の内容は記事末尾の公式ページで確認してください。
レジと請求書が二重になったときの整理
ありがちな失敗は、店頭売上はレジ、面貸しは請求書ソフト、卸はエクセル、と発行元が三つに分かれることです。売上の合計が三か所から出てくるので、会計に入れるときに必ずどれかが漏れます。月次の数字が合わない原因の大半がこれです。
整理の考え方はひとつで、レジ精算の売上と、レジを通らない請求売上の二本に絞ることです。レジ側は日次の精算締めを会計に入れる。請求側は月次の請求書一覧を会計に入れる。この二本立てなら、突合するのは月に一度で済みます。エクセルで管理している卸や法人請求は、請求書ソフトへ寄せてしまってください。
会計ソフトと請求書ソフトを同じシリーズでそろえると売上の取り込みが自動になりますが、既に別の会計ソフトを使っているなら、乗り換えの手間と天秤にかけて判断します。CSVで出して取り込む運用でも、月に一度なら現実的に回ります。
ソフトにかける費用をどう見積もるか
請求書ソフトの費用は、発行件数よりも「使う人の数」と「会計側とつながるか」で決まります。オーナーひとりが月末に数枚出すだけなら、無料枠や最小プランで足りる場合があります。店長やスタッフも発行するなら、人数分のアカウントが必要になるかを確認してください。
もうひとつの費用はレジ側です。レシートに登録番号を印字するために改修が必要な機種もあり、これは請求書ソフトの費用とは別に発生します。両方を足した金額で判断しないと、あとで想定外の出費になります。料金体系は変わるので、最新の内容は各社の公式ページで確認してください。
一次ソース(公式ページ)
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
面貸しで席を貸している相手が免税事業者だと、こちらの請求書に何か書き足す必要がありますか
場所代を受け取る側であるサロンの請求書に、相手の登録状況を書く必要はありません。記載義務があるのは発行者、つまりサロン自身の登録番号です。相手が免税事業者かどうかが関係してくるのは、逆にサロンが業務委託料や外注費を支払う立場になったときです。相手ごとの登録状況は、契約時に確認して台帳に残しておくと後で探し直す手間が消えます。
レジのレシートに登録番号をスタンプで足す運用でも問題ありませんか
必要な記載事項がそろっていれば書式は問われないので、印字でもスタンプでも成立します。ただし押し忘れが起きやすく、発行した控えを店側にどう残すかという別の問題が出ます。レジの設定変更だけで済むなら、まずメーカーに設定手順を問い合わせるほうが安全です。改修が有償かどうかは機種によって変わります。
予約サイトや集客サイトから引かれる手数料は、インボイスの上でどう扱いますか
サロンは手数料を支払う側なので、その分を仕入税額控除に使うには相手が発行する明細が要件を満たしているか確認します。多くはサイト側の管理画面から明細を取得する形で、紙で届かないことがあります。その場合は電子データのまま保存する必要があるので、毎月どこから落として保存するかを担当者の作業に組み込んでください。