ネットショップの開業届、出す前に決めること
ネットショップは、届出を出さなくても売れてしまいます。モールに登録して商品を並べれば、その晩に注文が入ることもある。だから開業届は後回しになり、年明けの申告準備で「結局いつが開業日だったのか」「副業で売っていた分はどう書くのか」で手が止まる。出す時期そのものより先に決めておくことから順に見ていきます。
開業日をいつにするか — 最初の注文が入った日ではない
開業届には開業日を書く欄があります。ここに最初の注文が入った日を書く人が多いのですが、実際にはその前に金が動いているはずです。サンプルの仕入れ、商品写真を撮るための照明、ドメインとサーバーの契約、カートの初期費用。開業日をそれらより後ろに置くと、開業前に出た支出をどう扱うかという説明が余計に必要になります。前に置いておけば、支出の並びと帳簿の並びが素直につながります。
かといって、趣味で作っていた何年も前まで遡るのは無理があります。目安は「人に売るつもりで金を使い始めた月」。クレジットカードの明細に仕入れとサーバー代が毎月並び始めた時点、と考えると判断しやすい。開業日を決めたら、その月以降の領収書を一か所にまとめておきます。提出の期限は決まっているので、記事末尾の公式ページで確認してください。期限を過ぎても受け付けてもらえますが、後述する青色申告の申請だけは時期を外すと初年度が丸ごと白色になります。
副業で売っていた期間はどこで切るか
勤めながら売っていて、辞めて専業に移る場合。副業時代の売上を事業として扱えるかどうかは、継続して仕入れ、継続して売り、記録が残っているかで変わります。毎月まとまった数を仕入れて発送していたなら事業として整理できる余地が大きい。家の不用品に少し仕入れを混ぜて、思い出したときだけ出品していたのなら、それは事業の形になっていません。ここを自己判断で決めつけず、残っている入出金の履歴を先に印刷しておくと、税理士に聞くときの話が早い。
見落とされやすいのが在庫です。退職した日に在庫が消えるわけではないので、手元の商品は専業後の棚卸として引き継ぎます。これを飛ばして専業後の仕入れだけ記録すると、売上に対して原価が足りない帳簿になり、利益が実態より膨らみます。会社を辞める前に、一度だけ全部の在庫を数えて、品番と仕入れ値を書き出してください。半年経つと、どれをいくらで買ったかは思い出せません。
屋号を空欄のまま出すと、後で何がずれるか
開業届の屋号欄は空でも受理されます。ただしECは、屋号が外から見える場面が他の商売より多い。屋号付きの口座名義、特定商取引法に基づく表示、モールの店舗名、ドメイン、取引先に出す請求書。卸売を始めれば請求書にも載ります。これらがばらついていると、購入者は振込先の名義と店名が違うことを気にしますし、卸先の経理からは「この請求書はどの店ですか」と問い合わせが来ます。
決めるときに見ておくことは限られています。
- 同じ綴りのドメインが空いているか
- 同業に同じ名前がないか、商標が取られていないか
- 電話で一度言って通じる読みか
- 将来法人にしたとき、そのまま社名にできるか
屋号は後から変えられますが、口座の名義変更とモールの店舗名変更、印刷済みの納品書の差し替えが同時に発生します。売り始めてからの変更は、丸一日の作業になると思っておいてください。
青色申告にするかは、開業届と同じ日に決める
青色申告の承認申請は開業届とは別の用紙で、同じ日に同じ窓口へ出せます。別々に出そうとすると、たいてい二枚目を忘れます。申請には時期の制限があり、外れると初年度は白色のままで、立ち上げ期の赤字を翌年以降に持ち越せません。ECは初年度に仕入れとサイト構築で出ていく額が大きくなりやすいので、ここは効きます。
帳簿が面倒だから白色で、という判断は今はあまり意味がありません。在庫を持つ以上、仕入れと売上を突き合わせる作業はどちらにせよ発生しますし、会計ソフトを使うなら入力の手数はほとんど変わらない。むしろ、モールの入金明細を取り込める状態にしておくかどうかで作業時間が決まります。家族に梱包や発送を手伝わせて給与を払うつもりなら、そのための届出がもう一枚必要になります。制度の条件は記事末尾の公式ページで確認してください。
自宅の住所と電話番号を、どこまで表に出すか
自宅で始める人が最初に詰まるのがここです。税務署に出す納税地と、ショップに表示する事業者情報は本来別の話ですが、自宅兼事務所なら事実上同じ住所になります。表示のルールは出店先の規約と所管官庁の案内で決まるので、カートを契約する前に読んでおく。開業届を出してから「この住所は出せない」と気づくと、口座もドメインも取り直しになります。
バーチャルオフィスや私書箱を使えるかは、プラットフォームと決済代行で判断が分かれます。片方で通っても、決済の審査で登記や届出の住所と表示住所が一致しないと止まることがある。回避したいなら、申し込み前に「この住所で登録できるか」を問い合わせて、回答をメールで残してください。電話番号も同じで、固定回線を引くか、事業用の番号を別に取るかを開業届を出す前に決めておくと、名刺と表示と口座の届出先が一度でそろいます。
会社を辞めた月に重なる手続き
開業届だけを見ていると忘れますが、退職した月には年金と健康保険の切り替えが同時に来ます。厚生年金から国民年金への種別変更は市区町村か年金事務所、健康保険は任意継続にするか国民健康保険にするかを選ぶ。どちらも手続きできる期間が短く、過ぎると面倒な扱いになります。窓口が税務署ではないので、開業届を出した足で済ませられません。手続きの期限と必要書類は記事末尾の公式ページで確認してください。
小規模企業共済は開業した後から加入できます。掛金が所得から引ける一方、短い期間で解約すると払った額を下回る区分があるので、売上が安定しない立ち上げ期にいきなり高い掛金にしない。ECは季節と広告費で手残りが振れます。掛金は後から増やせる前提で、無理のないところから始めるのが現実的です。
出した後、最初の確定申告までに詰まるところ
一番多いのが、プラットフォームからの入金額を売上として記録してしまうことです。振り込まれる金額は、販売手数料、決済手数料、送料、ポイントの原資などが差し引かれた後の数字です。これを売上にすると、引かれた経費が帳簿から消え、利益だけが膨らんだ状態で税額が出ます。対策は単純で、入金のたびに明細をダウンロードして保存し、総売上と差引項目に分けて記帳する。これを最初の月から習慣にしておけば、年末に一年分をさかのぼる羽目になりません。
在庫も同じです。期末に残っている商品の仕入れ代は、その年の経費にはなりません。年末に棚を数える作業は避けられないので、品番ごとの数と仕入れ値を日常的に更新しておくか、少なくとも仕入れ伝票を月単位で綴じておく。もうひとつ、撮影やデザイン、ページ制作を外注するなら、その時点で自分が発注側になります。取引条件を書面やメールで示す、支払期日を決めて守るといった義務が発注側にかかるので、個人に頼む前に記事末尾の公式ページで発注側の義務の範囲を確認してください。
一次ソース(公式ページ)
- 内閣官房 — フリーランス・事業者間取引適正化等法
- e-Gov法令検索 — 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)
- 国税庁 — 青色申告制度(帳簿の記帳と保存)
- 日本年金機構 — 国民年金
- 中小機構 — 小規模企業共済
- 国税庁 — 確定申告に関する手続き
制度・料金は改定されます。本記事は執筆時点の情報です。最新情報は必ず上記の公式ページでご確認ください。
よくある質問
開業届を出していないと、モールやカートに出店できませんか。
出店自体は個人として申し込める場合が多いですが、審査で開業届の控えや事業実態の確認書類を求められることがあります。求められる書類は出店先ごとに違い、同じ会社のサービスでも決済代行の審査だけ別基準ということもあります。申し込み前に出店規約と必要書類の一覧を取り寄せて、控えが要るなら先に提出して受付印かオンラインの受信通知を手元に残しておくと、審査の往復が減ります。
売上がまだほとんどない段階でも出す意味はありますか。
あります。立ち上げ期は撮影機材、サイト構築、初回仕入れで出ていく一方になりやすく、その赤字を翌年以降の黒字とぶつけられるかどうかが後で効いてきます。そのためには事業として記録を始めている必要があり、売れてから遡って整えるのは手間がかかります。帳簿の付け方や保存の条件は記事末尾の公式ページで確認してください。
屋号とショップ名は一致させないといけませんか。
法律上そろえる義務はありません。ただし屋号付き口座の名義、特定商取引法に基づく表示、モールの店舗名がばらばらだと、購入者が振込先や問い合わせ先を同じ店のものだと判断できず、確認の連絡が増えます。複数のショップを並行して運営する予定なら、屋号は事業全体の名前にして、店名はその下にぶら下げる形にしておくと口座を分けずに済みます。